
筒井真理子が主演を務める映画『波紋』が5月26日(金)より公開された。
同作は、夫の失踪がきっかけで新興宗教「緑命会」を信仰するようになった主婦・須藤依子(筒井真理子)を軸に、介護や新興宗教、障害者差別といった現代社会が抱える問題に焦点を当てた物語。
依子を演じた筒井は、作品を通して「べき・ねばならない」に縛られていた経験や、年齢とともに諦める感覚など共感することもあったそう。
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みんな危ういところを踏みとどまって生きている
――筒井さんが演じた、依子は新興宗教「緑命会」の活動に勤しむキャラクター。依子を見て、なにかにすがりたいと考える気持ちは誰にでもあるものだなと感じました。
筒井真理子(以下、筒井):そうですよね。特にここ数年は、コロナ禍ですごく閉塞していましたし、自分たちが今まで当たり前に思っていたお仕事が当たり前にできなくなったりもしたじゃないですか。だから、何を頼りに生きていったらいいのかわからなくなってしまうことって身近だと思うんですよね。
――実際に筒井さんの周りでも、そういう悩みを抱えた方はいらっしゃいました?
筒井:いますね。1番仲良かった友人となかなか連絡が取れなくなってしまって、あとあと聞いたら、依子のように宗教にハマってしまったようで。でも、今、この不安定な時代に「なにかにすがりたい」って思うのは、当然だなとも思うんです。私だって他人事ではないと思ってしまいます。
――なるほど。
筒井:忙しくしているときは忘れてしまうんですけど、みんな危ういところを踏みとどまって生きているんだなって、ふと思うことがあるんです。それは、子供の頃に父の会社で働いている方が「夜ね、ふとちょっとおかしくなるんじゃないかと思ったの」って言っていたのを覚えているからなんですけど、普段はすごい気丈な方なんですよ。でも、きっとそれは「おかしい」のではなくて、誰しも持っているところなんじゃないかなって。
――筒井さんご自身は、心の支えとしているものはありますか?
筒井:私、池田晶子さんの『人生のほんとう』っていう本が大好きで、ときどきその本を読んで立ち返るんですよね。「だって生まれちゃってるんですから」みたいなところから始まるのですが「しょうがない」みたいなたくましさを感じて。「考えたってしょうがないしな、だってわかんないんだもん」ってリセットできるんです。だから、今回の映画の「絶望を笑う」みたいなのも、すごくわかるんです。
「べき・ねば」に縛られて、不自由だった

――依子に共感するところはありましたか?
筒井:すごく共感する部分と、違う部分どちらもあるキャラクターでした。ただ「べき・ねば」で頑張ってきた姿は共感しましたね。映画の中で依子が「仕返しなんてしていいんですか?」って言うセリフがすごくわかるなと。
――筒井さん自身、そういう経験はあるのでしょうか?
筒井:例えばですけど、「弱い者は助けなきゃいけない」「すべての人を愛さなければいけない」とかに縛られているなと感じたことはあります。特に子供のころは、自分だけが見る日記にすら「醜い」って言葉も書けなくて、すごく不自由だったんですよ。
――少しわかる気がします。
筒井:でも、私の場合は、あるときちゃんと「ぶつけてみよう」と思ったことがあって、いざ言ってみたらどうってことなかったんです。言った後で、自分が少し震えていたことに驚きましたけど。
自分の狭い知見の中だけで役を判断しちゃいけない

――「べき・ねば」から解放されて、思うことを言うことができたんですね。なにかきっかけはあったのでしょうか?
筒井:いろんなことがありましたけど、やっぱり1度言ってみた時に「あ、平気なんだ」って思えたことが大きかったのかなと思います。それの積み重ねかなって。
あとは、お芝居を通して、全然違う人を演じ続けていることも大きいですね。私、役に入るにあたって、近しい境遇の人に話を聞いたり、リサーチをしたりするのですが、いざ調べてみると自分が想像していたこととはまったく違うことが多いんです。その度に、自分が今まで生きてきた世界は、いかに狭かったのかに気付かされます。
――なるほど。かなり入念に調べられるんですね。
筒井:自分の狭い知見の中だけで役を判断しちゃいけないなって思うので。でも、そのリサーチを通して、自分の知見が広くなっていくのは、俳優としてだけでなく、人生にとっても役に立っているなと感じます。
「結婚適齢期」という言葉がまだ当たり前だった

――ライフイベントがきっかけで、自分の思い描いていたキャリアやライフプランを諦めなくてはならない女性もまだまだ多いように感じます。筒井さん自身は、そのような経験はありますか?
筒井:そうですね。私、映像の仕事を初めてしたのは、もうすでに30代だったんです。今だと珍しくないことだと思うのですが、当時って結婚適齢期って言葉があって、女子はもう20代前半までにデビューできなければ厳しいみたいな時代だったんですね。今思えば、ハラスメントになっちゃうような言葉ですけど、それが当たり前だったんです。
――そうだったんですね。
筒井:でも、時代は確実にどんどん変わっていて、自分らしく自然体に生きていく女の人が増えれば増えるほど、それは加速していくんじゃないかなと今は思います。私は時代が変わってきているのを目の当たりにしているので、10年前、20年前、30年前で全然違うんですよ。だから、若い人たちには臆することなく、1歩を踏み出して欲しいですね。
――1歩を踏み出すためには、なにが大切でしょう?
筒井:すごく当たり前のことではあるのですが、「やってみたい」と思ったときに考えるよりも飛び込んじゃうことが大切なのかなって。それで後悔することもあるかもしれないですけど、何もしないでこれで良かったんだろうかっていう方が、悔いが残ると思うので。時には衝動に任せるのもいいのかなと思います。若いころの方が、傷が癒えるのも早いですからね!
――すごくパワーをいただきました。ありがとうございました!
<取材・文・撮影/於ありさ>
(エディタ(Editor):dutyadmin)












