5月4日から配信が始まった、角界を描いたドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(Netflixで独占配信中)が、快進撃を見せています。
北九州出身の不良だった主人公・小瀬清(一ノ瀬ワタル)が金のために相撲部屋に入門し、先輩や親方衆、ライバルとぶつかり合いながら本気で大相撲にのめり込んでいく姿を描いたこの作品。
いまだ年配者が見るスポーツというイメージの強い大相撲を舞台にしたドラマでありながら、Netflix上の「今日のTV番組TOP10」では連日上位に君臨し、5月8日から14日の「グローバルTOP10」でもテレビ・非英語部門で6位にランクインしていた人気ぶり。
相撲というテーマにもかかわらず、多くの人が夢中になる理由はどこにあるのでしょうか? 相撲ファン歴ウン10年の筆者がその魅力をお伝えします。
有吉弘行や神田伯山、安田顕らも夢中!
筆者も若花田・貴花田フィーバーの時代から長年相撲観戦を欠かさず巡業や地方場所にも足を運ぶファンですが、1話目から心を捉えられ、あっという間に全8話を一気見してしまいました。
有吉弘行さんや神田伯山さんなど、各界の著名人たちもSNSで同番組の視聴を公言し、相撲ファンでなくても夢中になる評価の高さをうかがわせます。俳優の安田顕さんは「やばい….。ハマった!」、鬼越トマホークの坂井良多さんも「滅茶苦茶面白かった!」と興奮気味にそれぞれのTwitterアカウントでその熱狂具合を呟いています。
「まるで相撲版スラムダンク」と言われる理由
お調子者で女に弱い、しかしまっすぐで熱いという愛すべき主人公をはじめ、魅力的なキャラクターが満載なこの作品。不良の成り上がりスポーツものであること、時折差し込まれるコミカルなエピソードなどの共通点が漫画『SLAM DUNK』(井上雄彦・作)を想起させる部分もあるようで、SNS上では「まるで相撲版スラムダンク」「どすこいスラムダンク」と評する声も。
その通り、主人公を取り巻く人々の背景やストーリーが群像劇のように丁寧に盛り込まれ、また何かを達成するというより、主人公の成長の過程を熱く見せるという部分において『SLAM DUNK』と似ている部分を感じさせるのでしょう。
「認めたくないが…」それでも絶賛する相撲ファン
一方で、相撲関係者や、長年の相撲ファンに話を聞くと手放しで絶賛はできないという声も目立ちました。
「目を背けたくなる暴力描写。取組のシーンもケンカやプロレスのようで、違和感があった。かわいがりなどは前時代的なもので、相撲界が現在もそうだと思って欲しくはない。ありえない」(相撲関連書籍を手掛けるライター)
「相撲教習所の描写もなく、ちゃんこ番や下積み部分をはしょっているのが気になってしまった」(相撲ファン)
日本相撲協会や現役力士がこの作品について目立った言及をしていない事実からも、この作品を手放しで評価する=描かれている相撲界の闇を―暴力も含め―事実と認める、と誤解されることを恐れているのでしょう。ただ、その一方で「ドラマとしてはすごくおもしろかった」と口をそろえているのも事実です。
肉体改造した役者がまるで本物の力士。リアルさが没入感を生む
また、彼らは「国技館や大部屋の様子、稽古の雰囲気などがまるで本物のよう。ディティールがリアルすぎる」と絶賛していました。
筆者も、役者勢があまりにも力士然としていることが衝撃的でした。力士役の俳優さんたちはこのために、トレーナー等の指導の元、1年かけて肉体改造したということです。そのせいか、力士役それぞれが実在の力士に重ねることができ、作品への没入感を深めています。
例えば、主人公は雰囲気が元大関・千代大海のようにも見え、主人公の最強のライバルである静内(住洋樹)は元大関・高安に似ているという声も。
登場する角界のプリンス・龍貴(佳久創)は、琴恵光関や80年代に活躍した元大関・若島津のように凛とした存在感があり、本物の力士をモデルにしたようなリアルさがあります。詐欺師が嘘の中にリアルを混ぜて、全て真実だとだます手法にかかったように、この作品の所々の再現性は、相撲界の真実を描いているという感覚に陥ってしまうくらいです。
細かい指摘をするのが恥ずかしくなってしまう
主人公・小瀬(猿桜)を演じる一ノ瀬ワタルさんのヤンキー演技も、まるで小瀬という人物が本当に存在するかのごとき自然さ。
1話見ただけでその世界観に取り込まれ、なにもかもどうでもよくなってしまう――つまり、細かな設定、コンプラ的な観点、女性の描き方などの違和感を「これはエンタメだから!」と役者や作品の力でねじ伏せている印象です。ごちゃごちゃ細かい指摘をするのが恥ずかしくなってしまうほどに。
『SLAM DUNK』も、まだバスケがマイナースポーツだった時代に颯爽と登場し、キャラクターや作品の魅力でルールがわからない読者でさえも熱狂させたという歴史があります。『サンクチュアリ―聖域―』も、相撲界にとってそんな役割を担う作品になるのではないでしょうか。
相撲ゴシップも満載。答え合わせしたくなる小ネタ
相撲界を騒がせる小ネタがちりばめられているのも特筆すべきことのひとつです。八百長、星の貸し借り、親方同士の対立や暴力沙汰、かわいがり、タニマチとの関係など、相撲に興味がなくとも(むしろ興味がない方が)ワクワクするゴシップ要素が満載です。
例えば、“角界のプリンス”龍貴が所属する名門「龍谷部屋」は「貴」の名前があるように、旧藤島部屋(旧二子山部屋、貴乃花部屋)を想起させ、龍谷親方が宗教にハマっているのも、どこかで聞いたことがあるエピソードです。見た後、誰かと答え合わせをしたくなる、そんなネタがいくつも仕込まれています。
これはシーズン2があるのでは?
関係者は「今の相撲界はそんなはずはない」と証言しながらも、『サンクチュアリ -聖域-』とタイトルにあるように、いち相撲ファンや関係者であってもわからない、聖域は必ず存在します。
そのタイトルはまるで、真の現実が存在することを暗示するよう。事実、先日も新たな相撲界の暴力告発や、人気力士の引退に関連するいざこざがスポーツ紙を賑わせました。
ラスト、多少消化不良と思えてしまう部分はありますが、これはシーズン2があるのでは? という期待に代えてしまう屈服感がこの作品にはあります。もし、シーズン2があるなら役者さんはまた肉体改造をするのは大変だと思いますが、ぜひ作って欲しいと願うばかりです。
-
Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中(以下同じ)
<文/小政りょう>
小政りょう
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦
(エディタ(Editor):dutyadmin)


















