子育てはなかなか思い通りにはいかないものです。特に小さい子を持つ親たちにとって対応に困るのが、外出先での子どもの癇癪(かんしゃく)ではないでしょうか。
今回は、子連れで電車に乗った女性が語った心温まるエピソードを紹介します。
小さな息子を育児しながらの妊娠期間
当時1歳4ヶ月の息子を育てていた近藤唯さん(仮名・33歳)。当時は2人目の子がお腹にいて妊娠5ヶ月でした。歩き出して目が離せない息子を育てながらの妊娠期間で、不安な気持ちでいっぱいだったそうです。
「安定期までつわりがひどくて、息子を外に連れ出すことがなかなかできませんでした。安定期に入ってようやく落ち着いたので、今まで我慢していた息子のためにと思って、あの日はベビーカーを持参して電車に乗ったんです」
なるべくすいている平日の午前中を選び、唯さんは息子の好きな鉄道の博物館に行く計画を立てます。
1歳の息子を連れて電車ででかけるも…
唯さんの自宅近くの駅から目的地までは快速で5駅の、約30分。子連れで行くには少し遠いかなと不安を抱えながらの出発だったそうです。
「息子が電車内で飽きたときのために、絵本やスマホに知育アプリを用意しておきました。でも、まさかあんなに早く飽きるとは思いませんでした」
唯さんの息子は、乗車後イスに座らせ10分で早々に飽きてしまったそう。
息子が癇癪を起こしてしまい…
息子が飽きたタイミングで、唯さんは用意しておいた絵本や動画を渡します。でも、車内にいる大人に圧倒されていたのか、息子は「やーやー(やーだー)」と言って全然食い付いてくれません。
「場所見知りなのか、電車から降りたがってしまって。あの時は本当に困りました。息子はまだはっきりとした言葉はあまり喋れなかったのですが、『いややー、でうー(出るー)』と結構大きな声で叫んでしまって」
唯さんは、乗車している他の人に迷惑が掛けてしまっていると感じて、冷や汗をかいたと言います。
「あの時、息子も泣いていましたが、私も泣きそうでした。息子が喜ぶと思って連れてきたのに帰りたがっているし、周りの人の迷惑そうな視線が心に突き刺さるような感覚でした」
救世主!ベテラン保育士さんが登場

「その時に助けてくれたのが、白髪の混じった髪で、薄い色の付いたサングラスをした60代くらいの女性でした。私のほうへ来て、『お母さん、大丈夫よ。元気なお子さんで嬉しいね』と声を掛けてくれたんです」
さらに女性は、唯さんが折り畳んで持っていたベビーカーを広げて、そこに息子を乗せることを提案してくれたそう。
「電車ではベビーカーは折り畳むもの。折り畳まないと、周りの人に迷惑が掛かってしまうと思っていたので、そう言われたときは驚きましたね。でも、その通りにベビーカーを広げて息子を乗せると、息子の癇癪がピタッと止まったんです」
その後の会話から、女性は長年保育園で保育士さんとして勤務していることが判明。さすが、保育のプロですね。
ついに目的の場所へ

女性は唯さんが降りる駅まで、親子のそばにいてくれます。さらに、唯さん親子が電車を降りるときには、ベビーカーを一緒に運んでホームへ出してくれたそう。
「別れ際に、私の肩をトントンと叩いて『お母さん、頑張ってね』と言ってくれたんです。あの時の感触は今でも忘れられませんね。肩を叩かれた振動が胸にまで響くようで、私は女性に感謝の言葉を伝えながら、溢れてくる涙を抑えきれませんでした」
その後、無事に目的の博物館へと着いた唯さん親子。
「息子はたくさんの電車に囲まれて大興奮でした。すごく楽しかったみたいです。行ってよかったなと思いましたね」
大好きな鉄道をたくさん見てはしゃいだ帰りの車内では、ベビーカーでぐっすり眠っていたそう。
「育児と妊娠で不安だった私にとって、車内で出会った女性は救世主のような存在でした。今はまだ子育てに追われていますが、私もいつか、困っているママに寄り添える人間になりたい。ちょっと無謀だと思うかもしれませんが、今は保育士の国家資格を取得するために育児の合間に勉強しています」
電車内で出会った名前も知らない人の存在が、唯さんの人生の道標になったようです。
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<取材・文/maki>
(エディタ(Editor):dutyadmin)
