―連載「沼の話を聞いてみた」―
発達障害の特性も関係して、トラブル続きの人生を送ってきたシングルマザーのMさん。結婚して一児の母となったが、DVにより離婚。その後ストーカーにつきまとわれ、逃げるために、親子で上京することとなる。
そうした出来事をブログに赤裸々につづっていたところ、コメント欄のやりとりでミランダ小林(仮)というセラピー講師と親しくなり、Mさんも自己啓発系セラピストの道へ進んでいく。
【前編を読む】⇒「ぼったくり資格ビジネス」にハマったシングルマザーの後悔…“謎の講座”の価格とは
セミナージプシーの生きづらさ
そのセラピーは、潜在能力を開花させ、心を抑圧から開放することで、現実世界の問題を解決していくという、自己啓発のようなものであった。ところがだ。セラピーを学び、講師として活動している仲間たちが、次々とほかのスピリチュアルや自己啓発に手を出していくのだ。
「みんな一様に、“セミナージプシー”と呼ばれる状態でした。私たちが共に学んだセラピーは、自分のなかの問題を解決し、生きづらさが解決されるはずだったのに、結局まったく解決されていないってことでは……? 彼女たちの名刺にびっしり書きこまれているいくつもの長い肩書が、生きづらさそのものに見えてきました。結果として癒し業界内でお金を回し合っているのも、滑稽(こっけい)に感じられてしまって」
講師仲間が手を出していたという物件は、ざっと聞いただけでもこんなラインナップだ。
仮面心理学にストーンセラピー、子宮系女子と呼ばれる人たちの高額なセッション、霊視で性器が見えるというふれこみの鑑定賞(その名も「御まん託」)、数秘術、自称心理カウンセラーの有料会員サービス、メンタルコーチ、カラーヒーリング、アクセスバーズ、動物占いの亜種その他いろいろ。
※それぞれの詳細は省略させていただくが、ご興味ある方はぜひ検索を。
異様にポジティブなメンタリティ
かつて「不衛生だ」という指摘が相次いだ、腟に入れるパワーストーン「ジェムリンガ」の使用も、講師仲間から勧められたという。
そうした違和感にくわえて、コミュニティメンバーの非常識さにも、不信感が募っていく。
「一番ショックだったのは、親しくしていた親族が亡くなったときです。講師仲間が主催する講座に参加する予定だったんですが、身内の不幸でキャンセルしますと連絡したんです。そうしたら『それはあなたの本気度を調べるためのお試しよ』と。つまり本気なら葬儀に出席するよりも講座を選ぶってことですよね、さすがにドン引きです」
独自の理論を楽しく語って身の丈を超えた散財を煽るなど、異常なポジティブ解釈で常識外れの言動を促す流れは、筆者がこれまで数々の沼の話を聞いてきたなかでもよく出てきた。たとえば怖いと感じることをあえてやるとミラクルが起こる!と謳われた「バンジー」や、使うほどに金のめぐりがよくなるという「宇宙銀行」などである。
そうした言動の積み重ねで一般的な感覚が失われていき、同じ思想でつながった内輪で依存しあう沼が形成されていくのもめずらしくない。

「感覚が麻痺しているからなんですかね。彼女たちの行動は、かなりエキセントリックでした。私と同じく発達障害の子どもを持つ仲間へ『これを飲むと治る!』みたいなエセ医学情報を大量に送りつけてきたり、SNSに私信や盗撮をアップしてみんなで笑いものにしたり。私信の公開なんかは法に触れる可能性もありますし、それ以前に人としてどうかと思います。それをおかしいと思わない感覚の人たちと共にいることが、怖くなってきてしまって」
講師仲間は「コンサルタント」というサービスを行っている人も多かったという。ところがこれまた感覚のズレなのだろうか。内容は、コンサルと呼んでいいのかわからないカジュアルさだった。
「講師仲間のAさん、Bさんと3人で食事に行ったときのことです。Aさんが『あなたはこんな色が似合うと思う』『こんな肩書にしてみたら?』『こんなアピールするといいよ』という話をBさんにしている。雑談だと思ったらそれ、1時間で1万円のコンサルだった。隣で私も聞いているし、なんなら店中に丸聞こえだし。しかも、その内容の薄さ……。
ほかにもありましたね。コンサルの指導内容が、かわいい写真を自撮りするとか、フェイスブックの友達を100人増やすとか」
内輪のノリについていけない…
そうした言動の積み重ねで一般的な感覚が失われていき、同じ思想でつながった内輪で依存しあう沼が形成されていくのもめずらしくない。

「感覚が麻痺しているからなんですかね。彼女たちの行動は、かなりエキセントリックでした。私と同じく発達障害の子どもを持つ仲間へ『これを飲むと治る!』みたいなエセ医学情報を大量に送りつけてきたり、SNSに私信や盗撮をアップしてみんなで笑いものにしたり。私信の公開なんかは法に触れる可能性もありますし、それ以前に人としてどうかと思います。それをおかしいと思わない感覚の人たちと共にいることが、怖くなってきてしまって」
1時間1万円のコンサル内容は?
講師仲間は「コンサルタント」というサービスを行っている人も多かったという。ところがこれまた感覚のズレなのだろうか。内容は、コンサルと呼んでいいのかわからないカジュアルさだった。
「講師仲間のAさん、Bさんと3人で食事に行ったときのことです。Aさんが『あなたはこんな色が似合うと思う』『こんな肩書にしてみたら?』『こんなアピールするといいよ』という話をBさんにしている。雑談だと思ったらそれ、1時間で1万円のコンサルだった。隣で私も聞いているし、なんなら店中に丸聞こえだし。しかも、その内容の薄さ……。
ほかにもありましたね。コンサルの指導内容が、かわいい写真を自撮りするとか、フェイスブックの友達を100人増やすとか」
「そうした指導にお金を払い合っているコミュニティにいる私は一体なにをやっているんだろう。違和感ばかりがふくれあがっていきました」
沼の入口を提供してしまうのではないか
Mさんも勧誘された自己啓発系セラピー協会の認定講師となっていたため、依頼が来ていた。

「『●●ヒーラーのMです!』とかブログに書いて営業していましたから、それなりに依頼が来るんですよね。でも私のように、おかしなコミュニティに関わらせてしまうのではという後ろめたい気持ちがあって、次第に緊張してしまってうまくできなくなっていきました」
沼から抜けたいま思うこと
「そのうち依頼が来ても、断ってしまうようになりましたね。でも、私のブログを見て協会の認定講師に依頼する人もそこそこいたみたいです。そのヒーリング手法そのものは、効果のなさを実感していること以外はとりたてて害のあるものではありませんでしたが、無駄なお金を使わせるかもという気持ちから、すごく罪悪感があります」
そのほか、ヒーラーたちへの細々とした不信感が積もり、Mさんはコミュニティから脱出。認定講師を名乗り続けるには登録料が必要だったが、数年で更新を止めた。
「私はお金をもっていなかったのもあり、大金をつぎ込む余地がなかったこと。おかしなことをしていても、昔からの友人が離れずにいてくれたことが本当に幸いでした。まだ沼の浅いところで引き返せたんだと思っています」
育児健康講座にも沼の入り口が
Mさんはこの後、SNSでスピリチュアルヒーラーを名乗る人物と交流を持ったが、そのヒーラーもまた、顧客たちと揉めてプチ炎上していたという。

「ほかにも、近所の公共施設で、トンデモと呼べる疑似科学的な育児健康講座が開催されているのをよく見かけます。私は自分の好奇心や判断ミスによっておかしな世界と関わってしまいましたが、ごく日常的な場所でも沼の入り口はあるんだなということを日々実感しています」
情報発信には要注意を!
「何かに困っているときに手軽な解決法を提示されて救いと感じるのは身をもって知ったので、耳障りのいいものに引き寄せられる気持ちはすごくよくわかります。また、そうした界隈は表面的にすごく親身になってくれますしね。でも、本当に頼っていい相手なのかどうか? 私もよく考えるようにしています」
コロナ禍を経た社会の変化でネットを介してのコミュニケーションが、ますます手軽かつ活性化されている昨今。沼との遭遇率もさらに高まっているだろう。そんな環境でうっかり、沼から目をつけられるような情報を発信していないか? 誰もが気をつけていきたいポイントだ。
<文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
