SNSを見ていると入ってくるのが、広告の数々。その中に「オーディション系」の応募告知も多々存在します。その多くがプロアマ問わず募集していて、誰でもチャンスがある、と謳っていますが、巷では「詐欺」といった恐ろしい声も。実際、本当に詐欺なのでしょうか。
そこで、SNSの広告から声優のオーディションを受けた方に、オーディションとそのプロジェクトの真相について聞いてみました。
一縷(いちる)の望みを賭けてあきらめた夢に挑戦
高校生の頃、声優になりたいと思っていた村瀬紗世さん(仮名・41歳/独身)。しかし、将来性のなさから両親に反対され大学に進学し、今はIT企業の営業として働いています。
「当時、声優は給料が安いというのが定説で、しかもトップになれる人はほんの一握り。声優になるだけでも、専門学校を経て事務所に入り、研究生として修業をしてから、という長いステップがあり、決して先が明るくないのは私もわかっていました。当時は就職氷河期でしたし、あきらめてしまったんです」
ところが先日、SNSで声優オーディションの広告を見つけ、過去にあきらめた夢が再燃。副業でもいいから声優になりたい、と一縷の望みを賭けて応募を決意しました。
募集サイトから必要要件を入力して応募した後、すぐに窓口の担当者から、期日までに指定のセリフを読んだ音声データを送るように指示されました。
村瀬さんは会社から帰ると毎日セリフを練習し、抑揚のつけ方や息継ぎなど自分なりに研究し、なんとか音声データを送信。その努力の甲斐もあって、無事に一次審査を通過したのです。
「詐欺じゃない?」親友の指摘で不安に

すっかり舞い上がった村瀬さんは、親友にオーディションの話を打ち明けました。しかし、話を聞いた親友は心配そうに「それ、詐欺じゃないの?」と一言。村瀬さんは一気に現実に引き戻されました。
すぐにその声優オーディションについて調べてみると、Q&Aサイトで「受かった後に高額な料金を取られる」と書かれているのを発見。一気に不安な気持ちになってしまった村瀬さんは、二次審査の日程について連絡がきていたものの、返信する気になれず、しばらく既読スルーにしていました。
ところが、その後オーディション本部からの電話にうっかり出てしまい、二次審査を受けることになってしまったのです。
「危ない、と思ったのですが、二次審査で一次審査の評価についてプロデューサーから話がある、と言われ、自信があっただけに『聞いてみたい』と思ってしまったんです。契約をしなければ高額な支払いは発生しないだろうし、もしかしたらという期待もまだ捨てきれず、受けることにしました」
二次審査で80万円の用途を聞いてみると……
二次審査はオンラインで、オーディション本部の担当者と一対一の面談形式で行われました。

「2時間くらいかかり、かなり長かったです。セリフを読むなどはなく、終始ヒアリングで、審査というより営業されている、という感じ(笑)。ただ、有名なプロデューサーさんから一次審査の私のセリフ回しについて褒めてもらえたのは、ひそかに感動しましたね」
そして、ついに高額の費用についての説明に。やはり、ネットに書かれていたように、オーディション合格者には、約80万円の費用がかかると言われたのです。しかし、そこまで概要を説明されていた村瀬さんは、金額を聞いても驚かなかったと言います。
「オーディションに合格すると、あらゆるプロの方の指導やサービスを受けられます。1年間のボイトレはもちろん、宣材写真の撮影や自分のキャラ作成、サンプルの録音、ボイスドラマの出演など、確かにそれだけやるには80万円は余裕でかかるな、と思いました。つまり、このオーディションは“詐欺”というよりも、『80万円出して声優っぽいことをさせてもらえるプロジェクト』なんだな、と私は解釈しました」
どうやら合格した後すぐにプロの声優になれるわけではなく、あらゆるサービスを経て、それを材料に声優としてアニメのオーディションを受け、自分でプロへのチャンスを得ていく、ということ。つまり、従来のルートではない、新しい声優への道の一つというわけです。
声優の道は甘くないと再認識

結局、村瀬さんは二次審査も合格しましたが、プロジェクト参加は辞退しました。
「新しい声優の道、という考え方は『いいな』と思いましたが、やはり改めて声優の道は甘くない、と認識しました。80万円払って、今の仕事を続けながらボイトレをして、オーディションを受けて……というのは現実的に難しい。二次審査まで受かっただけでも、いい夢を見せてもらったと思えて、あきらめがつきました」
人生は一度きり。どこにチャンスが舞い込むかわかりません。どうしても機会がなく逃してしまった夢の切符が今、目の前に現れたら、あなたは挑戦しますか……?
<文/関由佳>
(エディタ(Editor):dutyadmin)
