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セックスレス夫が浮気相手に砂時計を贈った“真意”。岩田剛典が表現する“あいまいさ”

時刻(time):2023-05-18 16:20源泉(Origin):δ֪ 著者(author):kangli
『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、毎週木曜日よる10時放送)が、ちょうど中盤戦に突入した。筆者はそろそろ、このドラマがほんとうの意味で不倫ドラマなのか、どうかを判断したいと思っている。 5話より ©︎フジテレビ 岩田剛典扮する新名誠の奮闘は、切実だが、痛切でもある。新名が求める関係性は、言うなれば、不倫ならざる不倫のようなもの。これ
『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、毎週木曜日よる10時放送)が、ちょうど中盤戦に突入した。筆者はそろそろ、このドラマがほんとうの意味で不倫ドラマなのか、どうかを判断したいと思っている。

©︎フジテレビ

5話より ©︎フジテレビ

 岩田剛典扮する新名誠の奮闘は、切実だが、痛切でもある。新名が求める関係性は、言うなれば、不倫ならざる不倫のようなもの。これを紐解くヒントは、砂時計にある。

「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、不倫と純愛のちょうど“あいだ”を漂う演技をする岩田剛典の天才ぶりを解説する。

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不倫ドラマかどうかの判断


©︎フジテレビ

4話より

 不倫か、どうか。恰好の判断材料となるものが、第4話のラストにある。社員研修旅行から帰ってきた新名誠(岩田剛典)と吉野みち(奈緒)が、桜並木の橋の上で交わす会話だ。

「指一本触(ふ)れない」

 切実な表情を浮かべながら新名が言う。彼の真意とは。これまでに2度、ふたりは唇を重ねている。この不貞行為によってれっきとした不倫関係を結んだことは明らかである。それをふり出しに戻してまで新名が宣言するのは、この不倫を精神的な関係性にまで高めたいという心苦しさからだ。





“純愛の錬金術師”の力技


 精神的な関係性の不倫。そんなものが成立するかはよくわからないが、何せ岩田剛典という人は、不倫を純愛に変える天才である。その手腕がゆるやかに、かつ手際よく発揮された『金魚妻』(Netflix、2022年)は、どうだったか。

 タワーマンション暮らしの裕福な平賀さくら(篠原涼子)が、夫の愚行に耐えかねて、身を寄せたのが街角の金魚屋だった。店主の豊田春斗(岩田剛典)がひっそり営むその店は、確かに人目につきづらい場所だが、さくらと春斗の密やかな関係性は、不倫すれすれ(いや、実際アウトかな)。不純さの手前で踏みとどまらせたのは、春斗のひたむきな態度だった。

 不倫をむしろ純愛へと移行させた岩田の繊細な演技は、非常に滋味深い。

 そんな“純愛の錬金術師”の力技は、『あなたがしてくれなくても』でも有効ではないか。第4話のラストの橋で、砂時計を渡す瞬間を見て、新名の悪あがき的な誠実さが、本作の不倫を『金魚妻』のように純愛に変化させてしまうかもしれないと感じた。












純愛のひとときが流れ始める


©︎フジテレビ

4話より

 砂時計のくだりには、続きがある。第5話冒頭、橋の上でみちに向き合う新名が聞く。

「砂時計のどこを見ていましたか?」

 新名さん、ほんと質問好きだなぁ。第1話では、資料室で唐突にアインシュタインとモーツァルトについての問答があった。教養があるというか、雑学好きというか。ただこの人には、単に知識をひけらかす嫌味な感じが全然ない。

 すぐに応答できないみちに対して、「上の減っていく砂は過去、落ちていく真ん中は現在、下に溜まっていく砂は未来」と解説をし、再び、「どこを見てました?」と聞く。みちが悩みながら、「真ん中」と答えると、新名も喜んで同じだと言う。

 岩ちゃんの優しげな表情を見ていると、あぁ、これは間違いなく純愛のひとときが流れ始めたなとジワジワ感じるのだけれど、どうだろう。






砂時計が意味するものとは


©︎フジテレビ

5話より

 絵画の世界では、横に傾けた砂時計を持っている女性の姿は、砂が流れていかないことから、時間感覚のなさを意味する。

 新名に質問され、「ひっくり返してみて」と言われるまでの間、みちは手持ち無沙汰に砂時計を横向きにしている。あるいは、家に帰ってきた彼女が、ひとり部屋で見つめる砂時計は、横向きで箱詰めされている状態。この砂時計を絵画の図像学的な解釈をすると、おそらく同じような意味合いとして読み解くことができる。

 ふたりの意見が一致した真ん中は、「現在」を示す。では、彼らの現在とは何か。例えば、こんな感覚はどうだろう。いつまでもぬるま湯に浸かっていたい。そんな時間。ぬるま湯に入っているとき、温度変化がゆるやかで、時間の流れを感じづらい。

 お互い激しく求め合う狂おしい不倫が刹那的なせわしなさなのだとすると、新名とみちが共有する時間感覚は、漂うようにまろやかな純愛の現在ということではないだろうか。













時間の“あいだ”を生きる岩田剛典


©︎フジテレビ

5話より

 新名がみちに最初の質問をするとき、カメラはふたりの横顔をやや離れた位置から捉えていた。横顔からでもわかる新名の優しげな表情と口調。それに耳を澄ませているみち。絶妙な引きのカメラポジションが奏功して、これこそ、いつまでもぬるま湯に浸かっていたいと感じるようなゆるやかな場面だと思った。

 新名が解説するように、砂時計は、過去、現在、未来をそれぞれ示している。ぬるま湯に浸かるような新名とみちの時間は、実はそのどこにも位置していない。3つの時間軸のちょうど、あいだ。それは、不倫と純愛。どちらともつかない曖昧さを泳ぐふたりの関係性そのものでもある。

『金魚妻』での岩田が、純愛の錬金術師だったなら、本作の彼は、明確には言い切れない、いや、言う必要なんてない存在。豊かで、甘く、定まらない時間の“あいだ”を生きている。不倫か、純愛か。答えを急ぐ必要はない。今は、ひとまず宙づりにして、この時間に漂っていたい気分だ。

<文/加賀谷健>


加賀谷健
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu




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