2022年12~2023年2月、女子SPA!で大きな反響を呼んだ記事を、ジャンルごとに紹介します。こちらは、「大反響漫画」ジャンルの人気記事です。(初公開日は2月5日 記事は取材時の状況)
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コミックエッセイ『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』(水谷さるころ著/山脇由紀子監修)では、5歳の息子に対して理不尽にキレたり手をあげたりしてしまう夫の問題に夫婦で向き合った様子が、妻の目線で描かれています。

『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』水谷さるころ著/山脇由紀子監修(幻冬舎)
本記事では書籍より第2話を紹介。今回は水谷さんに、カウンセリングを受けて見えてきた夫の問題点や、歳を重ねてからも自分を変えようとすることの大切さなどについてお聞きします。
【前回の記事】⇒夫が息子を叩いてしまう…2回目で“即カウンセリング“に連れて行ったワケ。作者を取材<漫画>
※本記事は全3回のうちの2本目です

夫が自分の気持ちを話すのが苦手な理由
――カウンセリングではご夫婦がそれぞれの生い立ちを振り返りますが、男性はあまり覚えていなかったり、具体的に話すのが苦手な人が多いとカウンセラーの方が話すシーンがありました。
水谷さるころさん(以下、水谷):男性は特に、成長過程で自分の気持ちを聞いてもらったり、気持ちを言葉にして伝える経験をしている人が非常に少ないと思います。特に日本では「男の子なんだから泣くな」のような「感情を認知するな」と教育する社会的な傾向が強い。日本の教育には昭和以前からの「軍隊方式」が色濃く残っているんです。昔は男の人が感情を認知すると戦争に行ってくれなくなって困るからだったと思うのですが、長らくその状態が続いていた。だから、年齢が上の人ほどその傾向が強くなるのかなと。
――パートナーのノダDさんは50代でしたよね。
水谷:夫は年の割には柔軟なタイプだと思うのですが、やっぱりつらかったり嬉しかったりすることを「男の子だから」と感情を出すことを良しとされない教育をされてた世代です。そんな環境で育った人が「子どもの頃何を感じていましたか?」と大人になってから生い立ちを聞かれても全然言語化できないし、認知していないから覚えてない。
カウンセリングをしてくれた山脇先生曰く、それは男だから言えないというより、男女かかわらず「親に話を聞いてもらえなかった子は話せない」ということなので、男性のほうがより話を聞いてもらえる機会が少なかったという、社会構造としてある程度仕方がないと思います。
夫が自分の気持ちを話せないことに対して「なんで言えないの?」と思うのではなく、「話せないならしょうがないよね」とは思っています。でも「だから言えなくてもいい」というわけではなく「やってないなら練習してね」と今は「言語化して伝える」ということを意識してやってもらっています。
ーー本の中では、ノダDさんが息子さんに手をあげてしまったとき、水谷さんが「明らかに自分より弱い相手に力を使うのはフェアじゃない」と指摘すると、ノダDさんが「自分にとってのフェアは相手が子どもだろうが誰だろうが同じように扱うこと」と反論するシーンがありました。
水谷:夫は自分と子どもを同等のものとして扱ってしまう傾向がありました。自分より弱い相手を「ケアする視点」がなかったのだと思います。それに、今までの日本社会の傾向として「ケアは女性の役割」とされていて、男性は誰かをケアすることも自分の感情をケアすることも教えられてこなかった。夫を見ていて、子どもが生まれたから急にそれをやれと言われてもできないよね、と感じました。
話を聞くことができる人は、何歳でも変われる
――50代のノダDさんが、自分に向き合って変わろうとするところがすごいと思いました。
水谷:私が夫を評価しているのは、私の話を聞いてくれるところなんです。
私の漫画は夫婦の問題をテーマにしていたりするので、夫の欠点を描くのですが、読者の方に「どうしてこんな人と結婚しているんですか?」と言われることがよくあります(笑)。あと、「ノダDさんには漫画には描かれていないすごい魅力があるのでは?」という感想をいただくことがあるんですけど、夫は自分の悪いところを指摘されたときに話を聞いて、理解して改善する能力があるところが素晴らしいと思います。
もともと、仕事で出会ったのですが「離婚して辛い」というので、「人生がつらいときは空手するといいよ!」と私が通っていた空手道場の支部に誘いました。当時、私は黒帯で弐段を取っていて、仕事では発注側だった夫が後輩になったんです。私のほうが年下なのですが、夫は指導をすごく素直に聞いてくれていました。中年以上ではじめた男性の中には、プライドがあるのか、人の話を聞けないタイプの人もいるんです。表面上は「はい」と返事をするんですが、全然言われたところを直さない。
そういう人もいるので、自分のできてないところを素直に修正できる夫は「伸び代のあるおじさんだな」と思います(笑)。
――カウンセリングでは自分の悪いところをカウンセラーに説明したり、第三者の意見を受け入れなければならないので、ノダDさんにとってもハードルが高かったのではないでしょうか?
水谷:夫のメンタルが強いのと、「ダメだと分かったんだからやるしかない。そこから逃げたらかっこ悪い」という気持ちがあったようです。
体罰は法律で禁じられている
――カウンセリングで、「体罰は法律で禁じられている」と指摘されたことはノダDさんにとって大きかったのでしょうか?
水谷:法律はマナーではなく絶対的なルールなので、その差は大きかったようです。夫は規範意識が強いタイプなので、「法律で禁止されている」と言われたのがショックだったようです。
個人的な印象ですが、男の人のほうが曖昧なものを好まなかったり、規範意識が強い人が多いのではないかなと思います。空気を読むのが苦手だったりするので、決まっていたほうがやりやすいのかもしれません。だから法律で体罰は禁止と決められたことには、非常に重要な意味があると思いました。
――ノダDさんが映画の時間に遅れそうになってグズグズしていたお子さんにキレてしまったとき、水谷さんが「6歳は、映画は動物園と違って時間が決まっていることが分からない」と冷静に指摘されていたのが印象的でした。
水谷:カウンセリングで指摘されたのですが、私が冷静なのは他人に全然期待していないからなんです。「映画に遅れるよ!」と子どもに怒るのは、「子どもが映画の時間に遅れたらダメだと理解できるはず」と期待しているからなんです。
でも私は人に対する期待がないので、「自分が知っていることを相手も知っているとは限らない」と認識しています。バスが出る時間や、その後の電車の時間などの情報が6歳の子どもの頭の中にないのだから、6歳児本人が「遅れちゃダメ」と思えないのは当然なんです。
うちの夫は無自覚に「自分が知っていることは相手も共有できているはず」と思っていたんですよね。その感覚は、私からすると人に対する期待値が高すぎです。多分、相手に期待していないほうが優しくできるのではないでしょうか。最近は夫も自分の期待レベルが高いということ自覚するようになって、行動が変わったと思います。
<取材・文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
(エディタ(Editor):dutyadmin)





