誰にでも訪れる人生の終末期。ついマイナスに捉えがちの親の介護をユーモアたっぷりに語っているのが、『お母さんは認知症、お父さんは老人ホーム 介護ど真ん中!親のトリセツ』(KADOKAWA)です。著者カータンさんは55歳、カータンさんの姉・かおさんは57歳、父・ヒロシさんは85歳、母・イクコさんは82歳。子の世代も人生の折り返しをこえた今、親の介護は体力気力勝負!
カータンさんは月間約800万アクセスの人気主婦ブロガー。前著『健康以下、介護未満 親のトリセツ』から3年、父の体はさらに脆弱になり母の認知症も進行の一途をたどりました。本書は、カータンさんが姉のかおさんと協力して、父・ヒロシさんの老人ホームを探すところからはじまります。

老人ホームは「姥捨山」?
特別養護老人ホームや有料老人ホームなど、続々と新しい施設が建てられている印象があります。私の住む都内某区でも、道を歩けば老人ホームに突き当たります。大げさではなく事実ですが、それでも「特養(特別養護老人ホーム)の入居は2年待ちなんてザラ」と本書に登場するケアマネージャーは言います。

さらに家族を悩ませるのが、老人ホームに入居させる=親を見捨てる、と思い込んでしまうこと。カータンさんも例外ではありませんでした。とはいえ、カータンさんも姉のかおさんも50代。自分達の老後も考えなくてはなりません。
私事ですが、私も姉も50代、父は他界していますが母は80代。家庭環境が似ているからこそ身につまされたのですが、カータンさん達のように普段からコミュニケーションを密にとり、言葉だけではなく肌感で愛情を示すのが大事なのではないかと思いました。
長年慣れ親しんだ実家から特別養護老人ホームへ、父・ヒロシさんの不安はいくばくかと気に病むカータンさん。でもヒロシさんは納得してくれたのです。「あなたたちがそう決めたのなら、パパはそれに従うよ」と。
一人暮らしになった認知症の母
高齢者同士、ふたりで支え合いながら生活してきた父・ヒロシさんと母・イクコさん。「認知症でも周りのサポートがあれば一人暮らしも不可能ではない」とは認知症専門医の言葉ですが、そうはいっても心配は尽きません。カータンさん達は頻繁に母のもとに向かいますが、母・イクコさんは「え? 私一人で住んでるの? パパはホームに入ったの? 知らなかった」とキョトン。認知症の症状が良い具合に働いた瞬間です。
カータンさんいわく「コントのような日々」の、母・イクコさんとの日常。もちろん大変でつらい出来事もあるでしょう。さっき言ったことを忘れてしまう、何度も同じことを言う羽目になる、等々。そこを怒りやイライラに落とし込まず、コントに変換するのは、お互いのメンタルを保つための知恵ではないでしょうか。
親の姿は、将来の自分の姿
年齢を重ねて高齢者になると、頑固になったり子ども返りしたりと、親と子が逆転したような状態になります。親の代わりにやらなければならないことも、年々増えていくでしょう。「あんなに威厳があった父が」「しっかりしていた母が」と、以前の親のイメージがあるからこそ、子である私達は苦しんでしまうのです。
一歩間違うと負のループにはまってしまいがちな、親の介護問題。カータンさんは言います。「それはきっと自分がその分(親から)愛情を受けてきた証ではないでしょうか。だから親の介護とは、そのバトンを次につなげるために必要な家族の営みの一つだと思うのです」。
親の姿は、将来の自分の姿ともいえます。親から学ぶ最後の愛が、介護なのかもしれません。
<文/森美樹>
森美樹
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx
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