―連載「沼の話を聞いてみた」―
アメリカ発のカルト教団で、20代の時間をほぼすべて費やした女性Kさん。その団体を知るきっかけは、母親が経営していたエステサロンに教団が書籍の営業をかけて来たことだ。そして幹部が立ち上げたビジネススクールへ入学し、セミナーで出会った信者に誘われ、本部へ所属し、正式な「信者」となったのが前回までの話。今回は、教団で行われていた「プログラム」について聞いてみた。
【前回の記事】⇒カルト教団に月収10万円でこき使われる日々…。20代を搾取され続けた女性の苦しみ
入信すると早々に、精神のステージを高めることを目的にした「サウナに入るプログラム」が課せられるという。サウナは普通に気持ちよさそうだが……? と思ったら、大間違いだった。
「目覚め」「気づき」の強要
「まずはじめに、ビタミン剤のナイアシンを大量に飲みます。それで体が赤くなると、悪い反応だと言われ、大量の複合ビタミン剤を飲み5時間サウナに入りつづけます。これを、赤い反応が出なくなるまでくり返さなくてはなりません。いま思うと、こんなことを真面目にやっていたなんて、馬鹿らしくて笑えてくるのですが」
笑えるというか、5時間のサウナは血圧や脱水が心配になる。ナイアシンは、ビタミンB群のひとつで、血管を開く作用があるため、高確率で肌は赤くなる(「ナイアシンフラッシュ」と呼ばれている)。要は、よくある反応だ。
「肌の赤みに加え、何か精神的な体験……目覚めや気づきのようなものを得られないと、このプログラムから開放されません。体がつらいだけでなく、有料なのでお金もかかりつづける。そこでみんな、何かしらの体験を自分で無理やりこじつけるんですよね。私の場合は『視界がクリアになった!』です。単純に、道に迷って細い路地をさまよった末に、広い道に出て景色が開けたような感覚があっただけなんですが。それを神秘体験と解釈し、目の前が開けるような感動的な体験! という話に無理やり落とし込み、そのプログラムのクリアをもぎとりました」
「落伍者」になりたくない恐怖
「ほかの信者さんたちも、似たり寄ったりです。色彩感覚が上がったとか、フワッとした感じの体験談が多かった。急に英語がしゃべれるようになるとかの、奇跡はもちろん聞いたことありません」
「つらい修業から早く逃れたい」という気持ちに加え、そこをクリアしないと教団にふさわしくない落伍者と思われるのも怖かったという。この「落伍者」も教団特有の概念だが、世界平和統一家庭連合(旧統一協会)でいうところの、「教えに反する人=サタン」のようなものらしい。
サウナのプログラムについては、教団のHPではこう説明されている(以下要約)。「厳密な監督のもとで運動、サウナ、栄養摂取が行われ、十分な休息も含んでいる」「デトックスと、薬物の毒素による精神的影響が取り除かれる」ーー見ると聞くとは大違い。現場の実態は、ぜんぜん違うものだった。
そうしてみずから精神性を高めるプログラムを受けつつ、信者を増やす活動、すなわち勧誘活動も必須とされる。当然、ノルマつき。

「表参道のファーマーズマーケットや乃木神社が、格好の狩場でしたね。お金を持っている、意識高い人たちが集まっていたから。ビジネススクールが定期的に開催していた、経営者交流会も勧誘の場です。参加者に響きそうな経営哲学の話をしたりして、興味をもってくれそうな人がいたら『心理カウンセリングしませんか?』と誘います」
癒やし空間とカルト宗教の親和性
「教団の本も売らねばならず、タウンページではエステサロンや鍼灸院など癒やし系の業種にしぼって片っぱしから営業しました。そうしたところは、精神世界と親和性が高いからです」

前編でも触れたとおり、Kさん自身も母親の経営するエステサロンに来た営業が、教団を知るきっかけだ。
過剰な自己開示を迫られる「懺悔文」
本の販売も直接の勧誘も、当然成果を上げられない日があるが、ノルマが達成できないと懺悔文を書かないといけない。
「教団の教えでは、体調不良も災害も事故も、基本は自分が招いたこととされています。だから勧誘のノルマが達成できなかったのは、何か隠していることがあるからだと。そして懺悔文で自己開示させられる」。男性信者たちは、性癖や性欲の自己処理についてまで書かされ、しかもそれをみんなの前で読み上げられていました」
「正直に自己開示して精神を磨かないと地獄に落ちる、みたいな思想にとりつかれていたので、みんな馬鹿正直に書いていました」
地獄に落ちる前に、すでに地獄絵図である。
古参信者との共同生活
勧誘に加えて教団での雑用、反省会、ミーティング、勉強会、ポスティング、教団のプログラム。そうしたタスクを解消していると、当然自分のアパートに帰る時間もなくなる。K子さんは、支部のすぐ近くに用意された、信者たちとのシェアルームに入居した。

「支部長に仕えてはや10年、みたいなベテラン信者が仕切っていて、生活すべてを監視されている状況でした」
まじめに取り組むほど病んでいく
「ちょっとでも教団について批判的なことをいうと、徹底的に非難される。料理を作れば、『その時間があればもっと本を売ってこれるでしょう!』『その休憩、いま必要?』と詰め寄られる」
教団の教義に加え支部長独自の教えも多々あり、Kさんたちにとっては教団以上に、支部長が教祖的な存在だったという。
そうした日々を重ね、次第にKさんは病んでいった。
<取材・文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
