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『エルピス』はテレビ局の“恥部”をなぜここまで描けたのか、佐野プロデューサーに聞く

時刻(time):2022-12-26 09:06源泉(Origin):δ֪ 著者(author):kangli
実在の複数の事件に着想を得た渡辺あやさん脚本×長澤まさみさん主演の『エルピス-希望、あるいは災い-』(月曜夜10時~、カンテレ制作・フジテレビ系)が、12月26日、いよいよ最終話を迎えます。 【画像をすべて見る】⇒ 画像をタップすると次の画像が見られます 強さと弱さをあわせ持つ浅川恵那(長澤まさみ)(C)カンテレ 本作は、佐野亜裕美プロデューサー(

実在の複数の事件に着想を得た渡辺あやさん脚本×長澤まさみさん主演の『エルピス-希望、あるいは災い-』(月曜夜10時~、カンテレ制作・フジテレビ系)が、12月26日、いよいよ最終話を迎えます。

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エルピス長澤まさみ

強さと弱さをあわせ持つ浅川恵那(長澤まさみ)(C)カンテレ

本作は、佐野亜裕美プロデューサー(佐野P)がTBS在籍時の2016年に、脚本家の渡辺あやさんに出会い、企画がスタート。紆余曲折を経て、カンテレ(関西テレビ放送)で実現しました。

ある冤罪事件を追うアナウンサーの浅川恵那(長澤まさみ)と新人ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)。だが、真犯人を隠したい政治家や警察に忖度して、会社はスクープを握りつぶそうとする。
テレビ局の暗部を描きつくす作品が「よく通ったな」と驚くと共に、めげずに実現した佐野P自身にもがぜん興味がわいてきます。

佐野Pへのインタビュー後編では、そのあたりをじっくり聞いてみました。

【前編を読む】⇒『エルピス』は「見たことがない最終回になる」。佐野Pに聞く






佐野Pは、なぜあきらめずに作品を実現できたのか


<恵那は、クソな現実に心を病み、時に迎合しながらも、「正しさ」を諦めない。
『エルピス』の原案は、TBSだけでなくあちこちで断られたという。それがカンテレで実現しそうだということで、佐野さんが2020年に入社。なぜ、冤罪事件という“大衆ウケ”しそうにないドラマにこだわり続けられたのか?>

――佐野さんは今40歳ですが、長く働いていると女性も疲れてきて、長いモノに巻かれ、闘う気力を失う人は多いと思います。めげずに闘い続ける佐野さんの根源はどこにあるのでしょうか。

佐野亜裕美(以下 佐野):いや、私も逃げたというか、メンタルと身体に同時に不調が来て、2019年は丸1年休みましたから。でも、休んだことが人生の転機になりました。

なにより、坂元裕二さんと渡辺あやさんという脚本家と出会って、自分と向き合うチャンスをもらったのが私の人生の大きな分岐点だったと思います。その2人と出会って話せたから、休むことを選べたというか。

佐野亜裕美さん

佐野亜裕美さん

だからみんなに何かアドバイスするとしたら「疲れたらまず休んで」ということですね。例えば、仕事の合間のちょっとした夏季休暇などで立ち止まることはできたとしても、振り返って自分の人生や幸福について真剣に考える余裕はないですよね。だから、長く休むことが可能な仕事、環境にいるとしたら、思い切って休むといいと思います。






レールを降りて休んだことで、自分と向き合えた


佐野:それと、私はあやさんのアドバイスもあって、持っているものも、人間関係も含めて、いろいろ捨てたんですよ。そしたら、自分が欲しいものが実はわずかだったとわかりました。

若い頃は、周りの男性陣がみんな不動産とか車の話、誰々の妻が美人だとかいった話を日常的にしている中にいたこともあって、自分ももっとお金を稼ぐことや、漠然と良い暮らしをすることを考えなきゃと思わされていたんですよね。それに、「お前はエースにならなきゃ」と言われていたので、そのレールに乗ることに一生懸命でした。でも、そこから外れたことですごく楽になった。

TBSからカンテレに移ることも、当時は「キー局から準キー局に?」とか言われましたが、本当にそんなにお金が欲しいのか、良い暮らしをしたいのかというと、そんなことはなくて。私は、買いたい本が買えて、好きな映画が映画館で観られて、居酒屋で気にせずお酒を頼めるくらい稼げたら十分すぎるぐらいです。自分の願いはそれくらいのものだとわかったら、すごくクリアになりました。














テレビ局の恥部を描く『エルピス』は、なぜ通ったのか


――その一方で、この作品を観ていると、怒りや違和感を言葉にすること、すぐに諦めない、忘れないことも大事だなと感じます。

佐野:私は怒りが原動力になっている部分があって。ただ、過去はともかく、今は特定の個人に対しての怒りより、社会の不平等や無能な政治家とかに対する怒りのほうが大きいですね。毎日ニュースを見て「本当にこの法案このまま通っちゃうの!?」と思ったり。
今は個人に対してではなく、社会に気持ちを向けていられることが、ありがたい状態だと思うんですよ。だからこそ、そうした社会を少しでも改善できるようなドラマを作りたいと思います。

エルピス 恵那 岸本

序盤の恵那と岸本(C)カンテレ

――それにしても、この企画、よく通りましたね。例えば、報道番組が「スクープはリスキーだからやれない。後追いならやる」とか言って、週刊誌にネタをあげちゃうとか、テレビ局の裏側を明かしまくりで。

佐野:脚本を先に作っていたことが大きかったと思うんですよね。なんでこの企画が通ったのか、実は私もよくわかってないです(笑)。会社も、あまり深く考えずにうっかり通しちゃってから「こんな話だったのか」と思っている人もいるかもしれない(笑)。

――「長澤まさみOKしてるの? いいじゃん! やろうよ!」みたいな?(笑)。





カンテレは最後のユートピア?


佐野:(笑)カンテレの制作現場はいい意味でユルさがあるというか、現場の自由にさせてくれる最後のユートピアだと思います。

――恵那が、賛否のあった東京オリンピックについて「安倍首相は『福島について状況はコントロールされている』と述べました」「開催が決まって被災地の人たちも喜んでいます!」と盛り上げていた過去の自分を、自己嫌悪とともに思い出す場面。ヒリヒリしましたし、放送後は大きな反響がありましたよね。あそこもお咎(とが)めはナシで?

佐野:そうなんですよ。もしかしたら、私のところまで止める声が届くことはなくても、上の部長とかが守ってくれている可能性はありますが。












ピエロスイッチをバチンと入れる


佐野:それに、私は日頃からなるべく話しかけにくいキャラを作っているんですよ。できるだけ、自分が面白いと思った脚本をそのままの形で出せるようにという思いがあります。

エルピス 鈴木亮平

ホモソーシャルの頂点にいるような斎藤(鈴木亮平)に、恵那は惹かれてしまう(C)カンテレ

――周りに、嫌なおじさんとかホモソーシャル(男社会)な人がいると、今の佐野さんはどんな態度をとりますか。

佐野:もう、ホモソの人は、私みたいな人には近づいてこないですね。
でも、もっと年上の人からはマンスプレイニング(男性が、女性や子供を見下した自信過剰な態度で物事について説明すること)みたいなことはあります。そういうとき、私にはピエロスイッチがあるので、バチンとスイッチを入れて「へぇすごいですね」とキラキラした目で見る、という振る舞いをついしてしまいます。

その振る舞いが彼をさらにつけ上がらせているなと思うんですけど、いつかしっぺ返しを喰らうだろうから、今私がそれをする必要はないなと。人生の時間とか自分の使える力は限られているので、特にドラマ中はできるだけ余計なことはしないようにしています。






「みんな等しく、作品の奴隷なんだ」


佐野:私は自分のためには戦えないんですよ。作品のためには戦えるんですけど。だからマンスプレイニングのおっさんが私に近づいてきたとしても、それが仮にドラマを守ることになるならいくらでもホステス的な振る舞いをするし、ドラマを守るためなら、本当は悪いと思ってなくても謝ることもできるし。

周りから見たら矛盾した行動を取っていることもあると思うけど、私にとって大事なのはドラマを一番良い形で出すことなので、自分個人の尊厳はどうでもいいと思ってしまうときもあるんです。

――そう思えるようになったのは、いつからですか。

佐野:やっぱり坂元裕二さん・渡辺あやさんと会ったことと、休みを取ったことが重なる2016~19年の3年間くらいがきっかけですね。
あやさんに、「佐野さんは、作家や監督のずっと下にプロデューサーがいると思っているようだけど、そうではない。どのポジションも、みんな等しく作品の奴隷なんだ」と言われたんですね。それを肝に銘じて、迷ったらこの言葉を思い出すようにしています。













自分のことを隠さず開示する


――佐野さんにとっての坂元裕二さん、渡辺あやさんのような存在を、私たちも人生の中で見つけることはできるでしょうか。なぜ佐野さんは、2人の懐(ふところ)に入っていけたのでしょう?

エルピス 恵那と岸本

恵那は、岸本の前では自分をさらけ出せる(C)カンテレ

佐野:私は常々、日本に足りないのはセラピーだと思っているんです。欧米だと、うまくいかないときに、セラピーを受けて精神科医に何でも話すじゃないですか。そういうことが必要だと思います。日本にはなかなかないんですが…。

たぶん私は、人に自分を開示するのが得意で、それは自分に対する評価が低いからでもあるんですけど、私の話で面白がってくれたらそれでいいと思っていて、自分の人生の物語を初対面の人にでも話せるんです。それが、懐に入っていけた理由の一つかもしれません。

実際、自分の幸福がどこにあるのかは人に問われないとわからないこともあるし、問われて初めてハッとすることもありますよね。

私の場合、渡辺あやさんの問う力の凄さによって、いつもより喋っちゃったこともありますが、自分を開示する、自分の手の内を信頼する人に見せてみることが大事だなと。






自分が傷ついていることにすら、気づいてないかも


佐野:例えば坂元裕二さんも『カルテット』をやるときに「今回は家族の話をやるから、本打ち(打ち合わせ)のときだけは秘密はナシにして、お互いの家族の話もしましょう」と言ってくれたんですよ。

人に自分を開示することで、「私は本当は傷ついていたんだ、でも傷ついていることにすら気づいてなかったんだ」とハッとしたり、「あまりに傷ついて鈍くなっていた」と気づくこともあったりして。
そういう話をできる人を見つけて、腹を割って話してみるのが大事だなと思います。

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佐野さんが「見たこともない終わり方」と言う『エルピス』の最終回。絶望的な状況のなかで、「最後に差したひとすじの光」とは何なのでしょうか――?

【前編を読む】⇒『エルピス』最終回は「見たことがないラストになる」。佐野Pに聞く

【前回記事(前編)を読む】⇒『エルピス』長澤まさみと眞栄田郷敦には“モデル”がいた。佐野Pに聞く傑作の舞台裏
【前回記事(後編)を読む】⇒『エルピス』で鈴木亮平演じる“セクシーでムカつく男”。その誕生秘話を佐野Pに聞いた

<文/田幸和歌子>
田幸和歌子
ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など。Twitter:@takowakatendon




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