「一緒に死のう」とたたずむ彼氏。その手には包丁が握られていて――そんな衝撃的なプロローグから始まる本作。
交際1年半の「彼氏くん」にプロポーズされ、幸せいっぱいだった20代の女性「もね」さん。しかしある夜、彼氏くんの「婚約者」を名乗る女性から電話があったことで全てが崩壊しました。
警察を呼ぶほどの修羅場となり2人の関係は終わりかと思われましたが、実は地獄のような日々が始まることになります。

コミックエッセイ『ありがとう、昨日までの彼。私が婚約者に裏切られるまで』(KADOKAWA刊)には、著者の浅野もねさんの実体験を元に、婚約者に裏切られ精神が蝕まれていく様子が描かれています。
婚約者の浮気が発覚した衝撃や、その経験を作品にしようと決心した理由などを浅野さんに取材しました。
ずっとあった心残りを、どこかで発信してみたかった
――ご自身の辛い体験を作品にしようと思ったのはなぜだったのでしょうか?
浅野もねさん(以下、浅野):最初はポエムのようなものをインスタグラムに投稿していただけだったんです。それを4コマ漫画みたいな形にするようになって、今回の書籍の編集者さんに声を掛けていただいて漫画形式で描くようになりました。
私の中でずっと心残りのある出来事だったので、何らかの形で発信してみたいという気持ちがありました。2019年頃からSNSを始めたところ、沢山の人が匿名で赤裸々に身の上を語っているのが分かって、それに触発されて描くようになりました。
――「心残り」とは何だったのでしょうか。
浅野:自分の中で決着が付いていないところがあったんです。もう相手には会えないので、あの出来事について自分だけで解消しなければいけませんでした。でも、どうしても消化しきれないものが残っていました。
批判コメントに落ち込むこともあったけれど
――ショッキングな内容ですが、書籍化して読者が増えることで批判が増えたりすることに抵抗はありませんでしたか?
浅野:葛藤はあまりなかったです。声を掛けてくださった編集者さんの期待に応えることをモチベーションにして描いていました。
「相手がこの本を読んで私に連絡してきたら嫌だな」という気持ちは少しだけありました。でも読者に批判されることは心配していませんでした。インスタグラムで発表していた時から批判コメントはあったのですが、辛かった頃に比べたら、知らない人に批判されることはあまり苦になりません(笑)。「あの経験で強くなったから大丈夫」と思えるようになりました。
――執筆中はどんな心境だったのでしょうか。
浅野:途中、「描きたくない」と思ったこともありました。(本を出す前)インスタグラムに投稿していた時は、批判コメントに落ち込むこともあったし、当時の自分の日記を読むのが嫌すぎて長期間更新が滞ったこともありました。編集者さんが「一緒に頑張りましょう」と言って支えてくださらなかったら最後まで描くことができなかったと思います。
警察が記録していた“修羅場”の状況
――「彼氏くんの婚約者」を名乗る女性から電話があった時、浅野さんはどんなことを考えたのでしょうか。
浅野:もちろん驚いたのですが、電話をしてきた女性が彼氏くんとどういう関係にあるのかすぐに分かってしまったんです。だからすごく冷静に「どうやって彼氏くんに白状させようか」「これから先どうしよう」と考えているところがありました。
――そこから彼氏くんとのやり取りの末に、浅野さんは自殺未遂をしてしまいます。なぜそこまでの行動に至ってしまったのでしょうか。
浅野:自分では記憶がなくて、後から警察の開示資料をもらって、通報した時の音声の書き起こしを読みました。そこにあったことしか私には分からないんです。
記録によると、彼氏くんがスマホで通報して、その電話口で私が「殺される」と叫んでいたらしいです。おそらく彼氏くんの言葉がショックで衝動的に飛び降りようとしたのを取り押さえられて、そう叫んだのが警察の方に聞こえたのだと思います。
――それまでにも、恋人と修羅場になったり衝動的に危険な行動を取ったことはあったのでしょうか?
浅野:そういうことはしたことがなかったです。浮気などの男女間のトラブルを経験したのも初めてでした。
彼は「浮気の仕方」が上手な人だった
――浅野さんは彼に対して疑いを感じたことはあったのでしょうか? 例えば出会った頃に、彼の振る舞いに違和感を持ったことはありましたか?
浅野:彼の普段の行動に不信感を持った全くなかったし、「スマホをチェックしよう」と考えたことも一切ありませんでした。
彼氏くんと出会った時の第一印象は「苦手」だったんですけど、それは「魅力的だけどきっと手に入らない」と思ったから、先回りして苦手だと自分に言い聞かせていたのだと思います。だから両思いになれた時はすごく嬉しかったのを覚えています。
彼は浮気の仕方が上手かったので、浮気相手の「みなみ」からの電話が掛かってこなかったらずっと気づかないままだったと思います。それくらい彼氏くんを信頼していました。
――彼氏くんが無職だったことはどう思っていたのでしょうか?
浅野:日本で私と一緒に暮らすために海外での仕事を辞めてから半年程無職だったのですが、就職活動をしていたので不審に思ったことはありませんでした。でも就職活動をしている間に浮気をしていたんです。
父親のように寄り添ってくれた警察官に感謝
――浅野さんを保護した警察署の方達の対応が親切で驚きました。ご自身ではどんなことが印象に残っていますか?
浅野:私自身も「警察の方たち、優しいな」と感じたことが強く印象に残っています。中でも、実の親以上に親身になって、お父さんのように接してくれた警察官の方がいました。個人的な立場から「こんな男の人と関わるな」と言ってくれて、警察官という垣根を超えた接し方があるんだと驚きました。

――それ以外にも彼氏くんのスマホを見られるように交渉してくれたり、細やかな対応をしてくれたんですね。
浅野:インスタグラムで発表した時は「警察はこんなことしない」というコメントがありました。それに対し、「私は警察官だけど、こういう対応をします」という人がいたり、「やらない」という意見があったり、コメント欄でかなり議論されていました。
おそらく、地域や個人の考え方によって対応が大きく違ってくるのだと思います。私は偶然、良い方に巡り合ったんだなと思って感謝しています。
【浅野もね】
過去の実体験をもとにSNSでエッセイ漫画を発信。初の著書『ありがとう、昨日までの彼。私が婚約者に裏切られるまで』(KADOKAWA)が発売中。
Instagram:@monet_note_、Twitter:@mone_asano
<取材・文/都田ミツコ 漫画/浅野もね>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
(エディタ(Editor):dutyadmin)











