来る2月2日は節分です。そして、節分といえば豆まき! スーパーやコンビニに鬼のお面と大豆が並び、ここ数年はさらに「恵方巻」の予約チラシも置かれるようになりました。
でも、「節分って何?」「どうして豆をまくの?」と聞かれると、案外答えられないのでは?
そこで、日本の歴史にくわしい民俗学者の新谷尚紀先生に教えていただきました。これを読んでおけば、子供から急に質問されても困りませんよ。
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「節分」は第二の大みそかだった
それでは先生、早速ですが、そもそも節分って何ですか?
「節分は、季節の上では“大晦日”と同じような行事です」(コメントは新谷尚紀先生、以下同)
ええっと? それってどういうことですか。

「昔は、季節を知るために二十四節気(にじゅうしせっき)というカレンダーを使っていました。『立春』が新しい1年の始まりで、その前日の『節分』が旧年の最後の日なのです」
立春って、たまに目にしますね。あれはカレンダーのことだったんですね。その立春とカレンダーのお正月とはどう違うのでしょう?
「お正月は、月の満ち欠けで日にちを確認するカレンダーにおける1年の始まりです。昔は、そのカレンダーと、もうひとつ太陽のめぐりで季節を知るためのカレンダー(二十四節気)のふたつがあって、併用していたんです。だから、節分は大晦日と同じような意味があったんです」
へえー、昔の人って器用だったんですねぇ。ちなみに、2021年の節分は2月2日ですから、間違えないようにしてくださいね。
豆まきは大掃除と似たような役割
じゃあ、節分に豆をまくのはどうしてですか? “鬼は~外 福は~内”っていうから鬼を追い払う気持ちがあるのは、なんとなくわかるんですけど。
「それは、新しい1年の始まりに当たって『厄払い』をして『良い運気を招く』ためです。お正月も立春も、自分をリセットする年に1度の大切なタイミングで、そのリセットのときに良い運気を入れることが大切だと考えられていました。厄払いをしないで汚いままだと、新年の神様も良い運気をもってきてくれません。だから豆をまくんです。宮中では、大晦日にも『追儺(ついな)』という行事で、鬼を追い払っていた記録があります」
新年の前に汚いものをやっつける。それって、年末の大掃除にもつながる考え方ですね。
「そうです。昔の日本人は1年に何度か決まった日に身を清めていたんです。生きていると少しずつ汚れや穢(けがれ)が溜まっていくと考えていた。例えるなら、毎日歯が汚れるから歯磨きをするような感覚でしょうか。日々汚れるからキレイにするのです」
なんと600年前から続いている
でも、どうして豆なんですか?

「豆には、『豆の霊力で鬼を払う』と『鬼に豆をたべさせてやる』のふたつの意味があります。五穀(米、麦、ひえ、あわ、豆)には、禍を払う霊力があると信じられてきたんですね。そして、まいた豆を鬼が食べて帰ってくれれば、人間の方まで鬼も災いもやってこないわけです」
そもそも、豆まきって誰がいつから初めたんですか?
「明確なスタート地点を知ることは難しいです。でも古い記録としては、室町時代の『看聞御記』という日記には、応永32(1425)年1月8日の節分の日に「鬼大豆打」とあり、豆をまいていたという記録があります。ただ、仕えていた若侍はその豆まきの役を嫌がったという記事もあります。豆をまくのは厄払いの役だから、穢に近づく行為として嫌がったのでしょう」
現代風に例えるなら、新入社員がトイレ掃除をさせられて嫌がってる、みたいなところでしょうか。それにしても1425年というと、約600年前! そんなに昔から行われていたんですね。
「歴史を振り返ると、京都では室町幕府ができた頃には節分の豆まきが行われ、1400~1500年頃にかけてポピュラーになっていったと考えられます」
時代とともに“豆”にも変化が

五穀に力があるなら、大豆のかわりにお米をまいてもいいんですか?
「お米にも霊力はありますが、それはやめておきましょう。稲の祭りはお正月です。お正月には、前年にとれた新米を使ったお餅を食べますよね。節分は豆を使った祭りですから、道具は間違えない方が良いのです」
面倒臭がらずに大豆を買った方が良いんですね。そういえば、地域によっては落花生をまくところもあるみたいですが、それは良いんでしょうか?
「それは歴史の中での変化と見ていいでしょう。まいたあとも衛生的に食べられるように、殻のある落花生を選んでいるようです。最近では大豆が数粒入った小袋をまくこともありますし、衛生意識の変化が現れているのでしょう」
豆をまく時間帯は夜がいい
それから、豆まきは朝・昼・晩のいつするのが良いのでしょう?

「それは、夜です。昔は日没で1日が終わり、明るくなるまでは翌日とどっちつかずの時間帯と考えられていたので、厄払いにピッタリなんです。妖怪やおばけが出るのがたいてい夜なのも、夜が怪しい時間帯だからです」
話題の作品『鬼滅の刃』でも鬼が活動するのは夜ですもんね。節分には「年の数だけ豆を食べる」とも言われていますが、これにはどんな意味がありますか?
「豆の生命力をいただくという意味です。昔は数え年だったので、誕生日ではなく1年の最初にみんなで平等に年を取りました。穀物の霊力を身体に取り入れることで、歳を重ねたのです。節分・立春は豆の霊力、大晦日・正月はお餅でお米の霊力と、ここでも二つのお正月は対応しているんですね。両方とも昔は「年取り」といったんですよ」
「恵方巻」は作られた習慣だった?
それと、恵方巻もすっかり節分の定番になりましたが、その起源について先生はどう思いますか?

「恵方巻は、大阪など関西から全国に普及していった新しい習慣ですね。戦前には大阪鮓商組合が、戦後には大阪海苔問屋協同組合が節分に巻き寿司を食べることを宣伝したという情報があるようですが、その時点ではまだ全国規模にはなりませんでした。やはり、1990年代からコンビニエンスストアで商品化されたことが人気と普及への発端でしょう」
こんなに定着した理由はあるのでしょうか?
「それは、『恵方』という昔ながらの信仰と言葉を巧みに取り入れたからだと思います。恵方は、正月や節分に恵方の社寺に詣る『恵方詣(えほうまいり)』という行事にちなんだネーミング。縁起が良さそうで伝統を感じられる名前が、人々に好意をもって受け入れられたのでしょう」
祈りと感謝の気持ちがあれば自由に食べてよし
恵方巻の正しい食べ方ってあるのでしょうか? 「その年の恵方を向いて、お願いごとをしながら、黙って食べる」というのが一般的ですが。

「はい、それでいいでしょう。まあ、自由に食べていいと思いますよ。歴史的に新しい行事でも、それを楽しみながら祈りと感謝の気持ちがあれば良いのだと思います」
新谷先生、ありがとうございました! おさらいすると、節分は「1年のリセットのタイミング」で、豆まきは「厄払い」と「良い運気を招く」ための行事、そして、豆を食べることで「豆の生命力をいただく」と。
歴史をさかのぼったら、日本人は1年を健やかに過ごすための祈りを、豆まきという行事で楽しんできた知恵を感じられました。面倒でこれまでしていなかったという方も、この機会に挑戦してみてはいかがでしょうか。
【新谷尚紀(しんたに・たかのり)】
1948年広島県生。社会学博士(慶應義塾大学)。現在は、国立歴史民俗博物館名誉教授・国立総合研究大学院大学名誉教授。國學院大學大学院客員教授。著書は『柳田民俗学の継承と発展』(吉川弘文館)など多数。
<取材・文/阿形美子>
(エディタ(Editor):dutyadmin)

