脳科学の視点から人と向き合うことで、より円滑な人間関係が生まれる。そんな視点から執筆され、累計40万部以上を記録した『妻のトリセツ』をはじめ、『夫のトリセツ』『娘のトリセツ』などのベストセラーを連発しているのが、脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんです。
そんな黒川さんが、今年11月に新たに上梓したのが『息子のトリセツ』。
一見、母親にとっては不可解な行動が多い男の子たちの脳の動きを分析しつつ、本来の資質を活かしながら、より良い男性に育てる方法について解説しています。そこで、今回は、黒川さんに、将来、冒険心や創造力を持ち、「成功する男」を育てる秘訣について聞きました。

運動能力を育てるには、7~8歳まで外で自由に遊ばせる
――「女の子に比べると、男の子は活発だし、言うことを聞かない」と語るお母さんは多いように感じます。男の子を育てるとき、母親が気を付けた方が良いのはどんな点なのでしょうか?
黒川:まず、8歳くらいまでは、自由に外で遊ばせることが大切です。運動制御を担う小脳の基本機能は、8歳までに整います。このときまでに、野山や公園を駆け回って遊んで小脳を鍛えれば、将来、十分スポーツを楽しめる身体になります。このとき、可能であれば、年齢の違う子同士で自由に遊ばせるといいですね。運動能力の違う身体を見て触れることは、特に小脳を刺激し、発達を誘います。
――8歳くらいまでに、いかに外で遊ばせたかで、子どもの運動能力が左右されるのですね。
黒川:個人差はありますが、運動能力を駆使するスポーツに関しては、8歳までに始めた方がいいと言われます。昔、花柳界では、踊りや三味線などの習い事は、6歳の6月6日に始めるという風習があったと聞きますが、脳科学的にもこれは理に叶っています。プロスポーツのトップアスリートたちも、6歳までにそのスポーツを始めているケースが圧倒的に多いです。また、小脳は芸術的才能も司っていますが、音楽の道に進ませたいなら、7歳くらいまでに楽器演奏を経験させてあげましょう。
ミニカー遊びやブロック作りが、理系脳を育てる
――「外遊び」の一方、家の中でのミニカー遊びやブロック作りなどの「内遊び」はいかがでしょうか?

黒川:「内遊び」も重要です。こうした内遊びは、「構造」を理解する上で欠かせない、小脳のエクササイズになるからです。内遊びによって距離や位置を認知し、構造や数を理解し、やがて脳に仮想空間を作って、そこで遊ぶ。こうした一連の「概念遊び」を支えるのが、小脳の空間認知力です。空間認知によって理系のセンスが育っていきますから。そして、こうした遊びと同じく大切なことがあります。それが「眠らせること」です。
――なぜ、眠らせることが重要なんでしょうか?
黒川:「外遊び」や「内遊び」で刺激を受けた脳は、その入力(経験値)を咀嚼してセンスに変える必要があります。それは、内なる世界観を構築して、発見や発想の能力を高めるためです。脳内を整理する間は、外界から一度脳を遮断する必要があります。ここで重要な存在が、「眠り」です。眠りは、体を休めるのと同時に、脳が進化する時間でもあり、センスを作り、記憶を定着させてくれます。
成績や身長が伸び悩む子は、22時以降のスマホと甘いものに注意
――子どもが眠っている間に、脳が発達してくれるということですね。
黒川:はい。子どもが眠たがるときは、眠らせてあげましょう。9歳から12歳の間は、脳の神経線維ネットワークが劇的に増えるため、脳のゴールデンエイジと呼ばれています。このタイミングに大切なのは、眠りと体験です。受験生の母が邁進するべきは、いかに勉強させるかではなく、「短い持ち時間で、いかに効率よく寝かせるか」です。

――睡眠時間の目安はありますか?
黒川:小学生でも7時間睡眠ですむ子もいれば、大人でも8時間以上の睡眠を欲する人がいたりと、適正な睡眠時間は個人差が大きい。それぞれの脳にとっての適正時間を見つけることは大切ですね。なお、中学生の男子で成績と身長に伸び悩んだ場合は、睡眠が足りているかをチェックしましょう。
特に、22時以降の携帯電話の凝視や眠る前の甘いものの摂取は禁物です。電子画面は目への刺激が強くて、視覚神経を緊張させ、眠りに入りにくくなります。また、甘いもので眠る前に血糖値を上げてしまうと、脳が興奮して眠りの質が悪くなります。寝起きが悪くて朝がゾンビのようなら、ぜひこの二つの生活習慣を見直してみましょう。
ぼんやりしている間に、脳は進化している
――そのほか、子どもの脳を発達させるために重要なことはありますか?
黒川:眠るのと同様に大切なのが「ぼんやりさせる」ということですね。
――小さいときほど、女の子よりも男の子の方が、ぼんやりしている時間が多いような気がしますね……。
黒川:眠っているときだけでなく、起きている間でも、脳が必要性を感じた場合、外界から脳を遮断し、脳を進化させるモードに入ることがあります。特に、小脳の成長が著しい8歳くらいまでの男の子は、こうしたぼんやりして過ごす時間が頻繁に訪れます。一見すると、ぼんやりして「でくの坊」のように見えるかもしれませんが、彼らがフリーズしているその瞬間に、脳が活性化し、内なる世界観が充実させていると考えてください。
――ここまでは、運動能力や芸術センス、理系能力の構築について伺いましたが、将来、冒険心や創造力にあふれた成功できる男性に育てるために、必要な秘訣はありますか?
黒川:冒険心ある男性に育てるために大切なのは、「甘やかすこと」です。「甘やかすと、自立できなくなる」と心配する人も多いかもしれませんが、母親が穏やかで優しい存在であるほうが、男の子の脳は安定します。男の子は冒険心が旺盛ですが、思いっきり甘やかして「“母”といういつでも帰ってこられる場所」ができることで、将来、躊躇なく自分のやりたいことにチャレンジできる男性に育ってくれますから。
冒険ファンタジーで知る忍耐と挫折
――基本的にはやりたいことをやらせてあげたい反面、何もしつけをせずに放置しては世間知らずになってしまう…と心配になる親御さんも多いのでは。
黒川:そうですよね。人生には厳しい面もあることを息子に知らせるため、私が提案するのは「冒険ファンタジーを与える」ということです。“楽する子育て”には、物語の手助けが不可欠です。ものがたりは苦しまずに脳に忍耐力をもたらし、使命感を誘発します。特に、男の子には、9歳から12歳くらいまでの冒険ファンタジーは必須です。

――なぜ、冒険ファンタジーがいいのでしょうか?
黒川:冒険ファンタジーの物語の中では、たくさんの主人公が過酷な運命に身をさらし、たくさんの失敗をしています。負けても見捨てられても、あきらめずにリベンジし、世界を救い、信頼や愛、栄誉を得ている。冒険ファンタジーを何冊か読むことで、世間の厳しさを知り、使命や忍耐の尊さを知ることができるのです。ファンタジーモノが苦手なら、歴史モノでもいいでしょう。日常とは別の世界で、自分と等身大の主人公が挫折に立ち向かう物語を、ぜひ経験してほしいです。
アニメやゲームより「読書」がお勧めな理由
――冒険ファンタジーには、映画やアニメ、ゲーム、本などたくさんのジャンルがありますが、望ましいものはありますか?
黒川:映画やゲームももちろん効果はありますが、脳の機能から言えば、できれば「読書」が望ましいです。「文字情報をイメージに変換する」という点で、読書は脳のあらゆる場所を刺激させ、成長させる効果があるからです。普通に日本で小学生をやっていれば、日常生活での体験はたかが知れています。読書は与える体験のようなもの。読書をすれば脳への入力は何倍にもなります。
――読書以外に、冒険心が育つコンテンツはありますか?
黒川:抽象的ではありますが、囲碁や将棋も、脳にとっては冒険ファンタジーと同じ役割を果たします。囲碁や将棋に夢中になっている子がいれば、無理やり読書をさせる必要はないかもしれません。ただ、ある程度、読書を経験させることが、戦略力を育てる上では非常に有効ですよ。
<黒川伊保子 文/女子SPA!編集部>
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