行列2時間の理由、わかりました。
こんにちは、食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。
最近じわじわ注目されているのが、「おにぎり専門店」。テレビで紹介されるたびに行列時間が長くなっている「おにぎりぼんご」が有名ですが、最近では同じようなコンセプトのお店がどんどん増えています。
これらのおにぎり専門店、おにぎり2個で1000円を超えるようなこともあるようで、おにぎり目的で長時間並ぶ理由が理解できない人も少なくないのではないでしょうか。
正直なところ私も当初は懐疑心を抱いていました。高いおにぎりを並んでまでして食べる価値は本当にあるのでしょうか? 結論から言うと、完全にアリ。いろいろ食べてみて、その理由が一瞬で理解できました。そこで今回は、その秘密を考えていくことにしましょう。
筋子おにぎりが1個600円!?
まずは、ブームになっているおにぎり専門店で提供されるおにぎりがどのようなものか、実際に見ていくことにしましょう。
どのお店にも共通しているのは4点。注文後に握りたてを提供してくれること、お米の産地や炊き方にこだわっていること、具材が見えるような外観であること、1個の価格が300円以上であることです。
それでは実際に注文してみましょう。訪問したのは、おにぎりぼんごのインスパイア店とも言われる東京・渋谷にあるおにぎり専門店「戸越屋」。
なんと筋子のおにぎりが600円もします。卵黄醤油漬け+肉そぼろは400円。おにぎり2個で1000円です(ぼんごは1100円)。
ここに味噌汁とお新香ミックスをつけると……。おにぎり2個に味噌汁とお新香がついて1500円になってしまい、この金額に驚いてしまう日本人は少なくないはずです。
でてきたのは、ふっくら握りたての超ビッグおにぎり
金額にビクビクしながらも、店員が目の前で握ってくれるところを見ていると、コンビニや家庭とは大きく異なることがわかります。
ごはんの量はコンビニの1.8倍。具材も惜しみなくたっぷり過ぎるほど使われ、ぎゅっと力を加えることなく、極上の宝物を扱うように握るのです。
具材は中心部と上部の2箇所。ほわほわと優しく握るために、具材がごはんのすき間から見えることもあります。この独特の握り方、自分で真似しようと思っても簡単にできそうにもありません。
心も胃袋もつかまれる
おにぎりをほおばるってみると、お米ひとつひとつの粒立ちをしっかり丁寧に味わうことができます。
「お米ってこんなにおいしかったんだ!」という感動は、まるで初恋の時の感覚を思い出すような体験。とにかく格別の食体験であることは断言できますし、1500円の外食でこれほどにまでシンプルな感動を味わえることはめったにありません。
また価格については、コンビニおにぎりと比較して評価するのは適切ではないかもしれません。
おにぎりの最高峰だと位置づければ、価格の振れ幅としては、他の和食(例えば寿司や天ぷら)に比べれば小さいと解釈することもできます。
並ぶか並ばないかで、おにぎりの価値は決まらない
最後に、これまでさまざまなおにぎり専門店で食べたこともふまえて、行列を作る理由について冷静に考察してみたところ、答えのようなものがすっと降りてきました。
それは、パイオニア的存在のぼんごが特別であるということです。ぼんごには60年以上もの間たくさんのお客を喜ばせてきたという唯一無二の実績があり、おにぎりの聖地として認められるようになりました。そしてその神髄に触れたいと願う人々が労をいとわずに並ぶようになっているのです。
つまり並ぶか並ばないかは、おにぎりそのものの味だけで決まるものではないということ。ぼんごが、おにぎり単体の価値をはるかに超越した殿堂的存在として愛されていることは間違いありません。
ちなみに他店の場合は、並ばずに味わうことができますから、どこのお店に行くかは人それぞれでよいのだと思います。さあ、みなさんは専門店のおにぎりを食べるなら、憧れの聖地に並びますか?
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
スギアカツキ
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。ビューティーガール連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12
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