ここまで感情移入するのが難しいキャラクターも珍しい。齊藤京子扮する恐怖のストーカー女性の目的とは。
ストーカー行為が加速するとともに、不倫関係もどんどん深みへ。毎週土曜日よる11時30分から放送されている『泥濘の食卓』の描き方は、徹底されている。
「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、泥濘から地獄沼へと深化する本作特有の不倫について解説する。
どんどん足をとられる恐怖の地獄沼
もはやこれは単なる泥濘(ぬかるみ)ではない。スーパーマーケット「スーパーすずらん」に勤務する捻木深愛(齊藤京子)が、恋い焦がれる店長・那須川夏生(吉沢悠)を愛し求め、どんどん深みへはまり込む。
泥濘の奥深くで足をどんどんとられ、恐怖の地獄沼へ。第3話では、夏生への執着と愛が極限まで高まる。冒頭場面。出勤してきた深愛はすぐさま、夏生の所在を聞く。本社であることを知るとがっかり。
スタッフルームの壁際にある夏生のデスクへ手を伸ばす。そして呟く。「店長、店長……」と繰り返す。相手を愛撫するかのようにデスクに触れる。鍵穴のついた引き出しを開ける……。
初めて登場する妻の姿

鍵はかけられていなかった。深愛が取り出したのは家族写真。それを見て一言。「これが奥さん」。これまで名前すら伏せられていた夏生の妻の姿が、初めて画面上に登場した。
写真をつぶさに眺める深愛が、うっすら微笑む。妻を確認できて嬉しいのか、それとも愛する夏生が幸せそうな家庭を持っている事実を改めて感慨深く思っているのか。感情が入り組んでいてよくわからない。
そこから畳み掛けるように、夏生へのストーカー行為はエスカレートする。夏生が病院帰りのふみこ(戸田菜穂)を親身になって介助する姿を目撃した深愛は、やはり自分ではなく、家族が大切なのだと打ちひしがれる。情緒不安定もここまでくると感情移入どころではない。
深愛の存在に救いを求める男・ハルキ

夏生のことを考えて悶々とする毎日。夜は眠れず、朝も起きられない。とうとう深愛はすずらんを辞めてしまう。彼女はこの瞬間、恐怖の地獄沼に間違いなく踏み込んだ。もう後戻りはできない。
地獄沼の住人として生きていく覚悟を決めた。もうひとり、この地獄沼でもがき苦しみ、どうしようもなく追い詰められているのが、夏生の息子・ハルキ(櫻井海音)。
幼馴染の尾崎ちふゆ(原菜乃華)のせいでレイプ魔呼ばわりされる。ちふゆからは執拗に連絡がくる。
家はゴミ屋敷。精神を病むふみこと弱々しい夏生。彼の唯一の希望。それは、深愛の存在が救いになっていること。
追う目的を微妙にずらす

この地獄沼では、必ず追う者になる。ハルキはちふゆから追われる存在だが、深愛に対しては追う側となる。
この追うという行為が、常人では考えられないほどの執着と狂気を加速させる。
夏生を狂おしいまでに追い続ける深愛は、彼に黙ってすずらんを辞めたことでけじめをつけたかと思った。が、夏生から必要とされていることを再確認した彼女は、追うことを再開する。
それは、最初は夏生の心の支えになり彼を救うためだったが、今度は家族全体を救うためになる。
夏生を追うことに変わりはないが、目的を微妙にずらすことで、追うための理由を拡大解釈してでっち上げたのだ。
ぬかるんでいく那須川家の食卓

それで深愛が接触したのは、病院通いのふみこ。外のベンチに座るふみこに話しかける。
支援団体であることを偽って、アンケートを書かせる。家庭事情についてヒアリングする中で、ふゆこの心をすこしづつ開かせていくのだ。
知る深愛の思惑。夏生の家族にどんどん侵食しようとする彼女の行為が恐ろしく映る。
いや恐ろしいけれど、ここまでくると、もはやどんどんやってくれと思ってしまう。
深愛の行動に慣れ、当たり前だと認識するようになってしまったのか。感覚が麻痺してきているようだ。
地獄沼の住人として深愛は、どこに行き着こうとしているのか。ドラマタイトル通り、深愛によって那須川家の食卓がぬかるんできた。
<文/加賀谷健>
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4話より(以下、同じ)
(エディタ(Editor):dutyadmin)









