女性の心と体のセルフケアやコミュニティを提供するサブスクリプションサービス「LaboMe」(ラボミー)。会員限定のコミュニティで人とつながりながらセルフケア情報の交換をしたり、毎月届くセルフケアプロダクトを試したりできるサービスです。

「LaboMe」プロジェクトリーダーの橋麻依子さん
当時は営業に所属していた橋さんでしたが、「チームリーダーを経験するのは初めてだった」といいます。
【前編はこちら】⇒初対面同士で「心や体のことを話す」コミュニティに女性たちが集まるワケ。主催者に話を聞く
後編では橋さんに、LaboMeが生まれたきっかけや、リリースまでの苦労などについて聞きました。
PMSの悩みは友達にも話せなかった

――なぜ社内起業をしようと思ったのですか?
橋麻依子さん(以下、橋):入社から営業を続けていたのですが4年目になった時、将来について尊敬する上司と話をした際、「マーケティングをやってみたい」と伝えたんです。
そうしたら、「マーケティングを使って誰のどんな役に立ちたいのかがハッキリしていないと、“マーケターをやっている自分”に満足して終わってしまうよ」と指摘されました。それをきっかけに「自分はどんな人の役に立ちたいんだろう」と考えるようになりました。ちょうどそのころ、新規事業創出プログラムの募集がスタートしたんです。
――女性の心や身体の悩みに目を向けたのはなぜだったのでしょうか。
橋:自分自身が学生時代から毎月PMSがつらく「どうして周りのみんなは大丈夫そうなのに、私だけが毎月ゆらいでしまうんだろう」と悩んでいたんです。社会人になってから、ますますつらく感じるようになっていました。
私の感覚ですが、女性に限らず働く人は「常にマックスのパフォーマンスを発揮しなくてはいけない」というプレッシャーに晒されていると思います。体調の波があることが許されない環境は苦しいと思っていました。
そんな悩みを解決できるようなサービスにしたいというアイデアを立てていたとき、軽い気持ちでFacebookを使って「皆さんはどんなことがつらいですか?」「自分を否定してしまったことはありますか?」などのアンケートをとってみたんです。
すると、予想以上の反響がありました。中高時代、勉強も部活も遊びも楽しんでキラキラしているように見えた周りの子たちが実は悩んでいたことが分かりました。
女子校だったので生理用ナプキンを貸し借りするようなオープンさはあったのですが、PMSなどの悩みについて打ち明け合うことはなかったんです。
――女性同士でも、「自分だけなのかも」と悩みを抱え込んでしまうことはあるんですね。
橋:特に印象的だったのは、長年の親友がPMSに悩んでいたことでした。「実は昔からつらかった」と聞いて、お互いに隠して我慢していたんだと初めて知りました。
もっと早く知ることができたら、自分だけがダメだと思わなくて済んだし、自分にも周りの人にももっと優しくできたんじゃないか。その思いからLaboMeの原型となる事業案を応募し、133件の中から採用されました。
「味の素」だからこその強みも
――LaboMeのアイディアについて、社内ではどんな反応があったのでしょうか。
橋:審査員は基本的には役員で、女性よりも男性が多いので対面で事業内容を説明した時は目を逸らされたような気がして「少し気まずそうだな」と感じました。
ただ、あとから知ったことですが、審査員同士の話し合いのなかで何人もの男性役員が熱意を持って「これはうちの会社が絶対にやるべきだ」と言ってくれていたんです。
また、リリースされてからは、男性社員から「妻に勧めてみたよ」と言ってくれたりもするので応援してくれていると感じています。
――ご自身で起業するのではなく、社内起業をしたのはなぜですか?
橋:私一人でやるよりも、味の素という多くの方に知られている会社が手掛けることで女性特有の不調や、セルフケアなどについてオープンにできるような社会の空気を作れたらいいなと思いました。
また、弊社では長年アミノ酸などの研究を行っており、健康に関する知識がたくさん蓄積されているんです。お客様に信頼できる情報をお届けするという意味でも味の素の看板で行うべきだと思っています。
メンバーの気持ちが離れてしまったことも
――3年の開発期間で苦労したことは何ですか?
橋:チームリーダーは初めてだったので、チームでサービスを作っていくことが本当に大変でした。応募した当初は同僚である夫と2人だったのですが、採用されてからは社外メンバーや研究員を含めて18名のチームになりました。
営業をやっていた時は自分でやることを決めて自分で動けばよかったのですが、チームではメンバーの意見をしっかりと拾ったり、メンバーのケアをしなければいけません。でも初めてだったので何も分かっていませんでした。
自分がコントロールしようとし過ぎてメンバーの気持ちが離れてしまったり、うまく回らない時期がありました。
――どうやって乗り越えたのでしょうか。
橋:転機になったのは、初めてモニターのお客様に試していただいた日でした。その頃には、最初に私一人が考えていた事業内容から大きく変わっており、今に近いサービスの形になっていました。
するとお客様の反応が予想していたよりすごくよかったんです。皆で一緒に苦しんで作り上げると予想以上にいいものができるんだと実感しました。チームメンバーもお客様の反応を見て、ビジョンに改めて共感してくれました。そこから全員が言いたいことを話し合えるようになり、私自身も自分の考えを押し付けることはなくなりました。
「我慢しなくていいんだ」と思ってもらうために
――社内起業を経験したことで、ご自身の成長を感じたりしますか?
橋:チームとしてのサービス作りを経験したことでビジョンを共有することの大切さを実感できました。何か決めるときビジョンに立ち返ることができれば、自分とは違う意見が出た時も「そっちのほうがいいね」とアイデアを柔軟に取り入れることができます。
以前は「自分が思っていた通りのものを作ること」がゴールだと考えているところがありました。でも自分がコントロールできる範囲はすごく限られていると感じたし、それを教えてくれたのがメンバーだったと思います。
上司にも「前は一人でやろうとするタイプだったけど、すごく変わったね」と言ってもらえました。
――LaboMeでこだわっている部分はどこですか?
橋:LaboMeのコンセプトの文章や記事、コラムなどを含めて「セルフケアを頑張らなくてはいけない」と感じさせないように気をつけています。
毎月のテーマに沿ったメッセージについても、お客様がどう感じるのかをチームで議論してから発信するようにしています。生きづらさを感じている方に「我慢しなくていいんだ」と思ってもらうためのサービスなので、それを利用していただくときに新たな「こうしなければいけない」を作らないようにしたいんです。
女性が生きやすい社会は男性にも優しい

――これからの目標はありますか?
橋:当面の目標としては、まず会社の事業として継続していける利益を出さなくてはいけません。
また大きな課題としては、政府や企業、教育機関などと一緒に取り組むことで、ゆらぎと付き合いながら働いたり学んだりできるよう社会的なムーブメントに広げていきたいと考えています。
心や身体のゆらぎによって働きづらい環境があるとすれば、女性がセルフケアしたりマインドセットを変えて耐えるだけではいけないと思います。
「働く上では揺らいではいけない」というつらさを抱えているのは男性も同じだと思います。女性が働きやすい社会になることは、男性が働きやすい社会につながっていくのではないでしょうか。
――心身の不調に悩む人達にメッセージをお願いします。
橋:ゆらぎがあることは悪いことだけではなく、それをきっかけに誰かとつながったり、自分の新しい一面を発見したりと人生を豊かにしてくれることもあります。
セルフケアに苦しい気持ちで取り組んでいる方がいたら、「いつも頑張っているのだから、セルフケアまで無理しないでいいんですよ」と伝えたいです。ご自身を労わる選択肢を増やすことを楽しんでもらえたと思います。
<取材・文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
(エディタ(Editor):dutyadmin)

