猫が大好きで、飼いたくて、でも飼えなくて。YouTubeでひたすら猫動画を観ていた漫画家の青山ゆずこさん。ある日、へその緒がついたままの赤ちゃん猫と出会います(以下、青山ゆずこさんの寄稿)。

どうしよう、とてつもなく猫を飼いたい。
……そう思ってはや32年(※当時)。猫を飼いたい気持ちをこじらせ続けてきたわたしは、飼ってもいないのに「一人暮らしだから、出張や旅行のときはペットシッターさんに頼まなきゃいけないな」と夜な夜なペットホテルやシッターさんのサイトを読み漁りその料金に勝手に頭を悩ませ、キャットタワーやおもちゃのページを見ては、薄気味悪くにやけながらアマゾンの“欲しいものリスト”に入れてみたり。
誰もいない空間に向かって、優しく抱きかかえるように手で空気を包んでは、顔をうずめてエアー猫臭(ねこしゅう)を堪能している、ちょっぴりヤバめのぼっち女子でした。
そして、“その日”は突然やってきたのです。
パソコンに向かい、締め切りをすでに2時間すぎた「週刊誌のカラーページの特集の企画を考える」というミッションをやっているふりをして、大食いユーチューバーさんの動画を見ていたときのことでした。
部屋のすぐ外の駐車場から、
「みーみーみーみーみーみー」と甲高い猫の声が聞こえてきたのです。
「にゃー」じゃなくて、完全に「み」。声だけで“赤ちゃん猫”と分かる甲高い声。
うっわ、めっちゃのぞきたい。
でもヘタしたら今まさに産んでいるまっただ中かもしれないし、邪魔しちゃダメだし。
がまん、がまん、がまん、がまん………
外はバケツをひっくり返したような大雨。
庭に停めたわたしの軽自動車の下から、かすかに聞こえていた声は、どんどんか細く、か弱くなっています。もしかしたらいるかもしれない母親猫を驚かせないように、そーっと、そーっとのぞきこむと……
見えない猫と一緒に暮らし続ける、アラサーぼっち漫画家

どうしよう、とてつもなく猫を飼いたい。
……そう思ってはや32年(※当時)。猫を飼いたい気持ちをこじらせ続けてきたわたしは、飼ってもいないのに「一人暮らしだから、出張や旅行のときはペットシッターさんに頼まなきゃいけないな」と夜な夜なペットホテルやシッターさんのサイトを読み漁りその料金に勝手に頭を悩ませ、キャットタワーやおもちゃのページを見ては、薄気味悪くにやけながらアマゾンの“欲しいものリスト”に入れてみたり。
誰もいない空間に向かって、優しく抱きかかえるように手で空気を包んでは、顔をうずめてエアー猫臭(ねこしゅう)を堪能している、ちょっぴりヤバめのぼっち女子でした。
どうしようもない僕に猫が降りてきた
そして、“その日”は突然やってきたのです。
パソコンに向かい、締め切りをすでに2時間すぎた「週刊誌のカラーページの特集の企画を考える」というミッションをやっているふりをして、大食いユーチューバーさんの動画を見ていたときのことでした。
部屋のすぐ外の駐車場から、
「みーみーみーみーみーみー」と甲高い猫の声が聞こえてきたのです。
「にゃー」じゃなくて、完全に「み」。声だけで“赤ちゃん猫”と分かる甲高い声。
うっわ、めっちゃのぞきたい。
でもヘタしたら今まさに産んでいるまっただ中かもしれないし、邪魔しちゃダメだし。
がまん、がまん、がまん、がまん………
外はバケツをひっくり返したような大雨。
庭に停めたわたしの軽自動車の下から、かすかに聞こえていた声は、どんどんか細く、か弱くなっています。もしかしたらいるかもしれない母親猫を驚かせないように、そーっと、そーっとのぞきこむと……
生まれたての猫ちゃんがいきなりピンチ!
最近よく見かける近所の野良の猫ちゃん2匹が、なんかおもちゃで遊ぶような手つきでめっちゃ構えてるー!!
それまで、家の周りでお腹が大きな母(であろう)猫ちゃんを何度か見かけていたので、その子たちが親ではないことは明らかでした。
何度見渡しても母はいない。目の前には手を出されかけてる赤ちゃん猫。車の下に隠れているので濡れてはいないものの、もう声もほとんど聞こえない。どうしよう。
このままだと若い猫ちゃんたちにちょっかいを出されて、もしかしたら衰弱してしまうかもしれない。それからしばらく物陰から見守っていたのですが、母猫がやってくる気配はありません。
よし、もう手を出すしかない!
へその緒がついた猫、見た目は完全にモグラ!
手ですくいあげた赤ちゃん猫は、わたしの親指くらい。
とにかく小さい。へその緒もしっかりついていて、あまりの小ささに、本気で「みー」って鳴くモグラかと思った。
動物病院で言われた“ひと言”にドン引く私
時間は夕方をまわっていて、診療時間ギリギリの動物病院に駆け込んで、へその緒を切り、体を軽く洗ってもらうことに。
「とにかく保温をして」と先生に言われたので、どう温めればいいのかを聞いたところ、
「……胸に入れときゃ大丈夫だよ」とのお返事。いや、それ絶対ダメでしょ! とてつもなく原始的すぎます。
そこで急ぎ自宅に帰り、以前一緒に暮らしていたセキセイインコの冬の保温セットをフル稼働させたのです。
赤ちゃん猫の体を冷やさないよう必死の一晩
インコの保温といえど、その威力はあなどれません。電球自体が熱を放出して周囲の温度を上げる「保温電球」を使って30度を保ちつつ、温度をコントロールしてくれるサーモスタッドでばっちり管理!
でもそのままだと熱が逃げてしまうので、100円ショップのスチールラックセットで作った簡易棚に、食品用ラップでビニールハウスもどきを作りました。不格好ですが、今度は熱がこもりすぎないように、前面だけはあけておきます。
そして、必死の工作中も鳴り続ける仕事の電話は完全ムシ! 赤ちゃん猫の体を冷やさないよう、全力で保温活動に力を注ぐアラサー女子。刺激的すぎる夜に一睡もできず、そのまま朝を迎えるのでした……。
「正直、医者の僕でも育てられないと思う」
朝を迎え、前日の夜に駆け込んだ動物病院とは別の病院へ行くことにしました。申し訳ないのですが、「(赤ちゃん猫を)服の中に突っ込んでいれば、保温できるよ」と言った病院へ、わたしはどうしても行く気になれなかったのです。
そして連れて行った新しい病院で改めて診てもらった……のですが、そこでまさかの厳しい言葉を突きつけられたのです。
「へその緒がついているような赤ちゃん猫は、育てるのがものすごく難しい」
「1時間半おきにミルクをあげたり、母猫が舐めて排泄をうながすように、股間部分をポンポンとさすってトイレの世話をしてあげないといけない」
「少なくても1か月はそんな生活を続けないと」
「それくらい手間がかかるのに、あなたは一人暮らしなんでしょ? 絶対にムリ」
「厳しいことを言います。……正直、医者の僕でも育てられないと思う」
1時間半おきに、トイレにミルク。わたしの仕事の時間は? 睡眠は? なんかもう、「かわいい♪」とか、「助けてあげたい」という気持ちだけではどうにもできない壁を感じ、先生の言葉に目の前が真っ暗になりました。
ただ、相当の覚悟がないと育てられないということを、先生はあえて厳しい言葉で伝えてくれたということも分かっています。
ぼっちで不規則な生活の私に育てられるのか
……どうするよ、自分。
ひとり暮らし、アラサー、ものすごく不規則な生活をおくるダメ人間。
そしてわたしは意を決して、いつもお仕事をもらっている『週刊SPA!』の編集部に電話をかけたのです。
「すみません、1か月お休みください。あ、もしからしたら2か月」
ぼっち女子の赤ちゃん猫子育てレポート。
育てられるのか、はたまた仕事を干されるのが先か。
<漫画・写真&文/青山ゆずこ>
青山ゆずこ
漫画家・ライター。雑誌の記者として活動しつつ、認知症に向き合う祖父母と25歳から同居。約7年間の在宅介護を綴ったノンフィクション漫画『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)を上梓。介護経験を踏まえ、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちをテーマに取材を進めている。Twitter:@yuzubird
(エディタ(Editor):dutyadmin)









