―連載「沼の話を聞いてみた」―
「あんたは人を自分を思いどおりにしたいだけの、異常者だ!!」
姉からこう罵倒(ばとう)されたのは、30代の会社員・岸本レナさん(仮名)だ。
姉夫婦の方針で一切のワクチンを打たせてもらえない中学生の甥が悩んでいたことから、手助けしようと口をはさんだところ、関係がこじれた。
「家族がとにかく疲れるんです……」
幼いときからずっと、型破りな家族に振り回されてきたという。レナさんは女優の吉高由里子によく似た、はかなげな面立ちだ。その口からとめどもなく流れ出てくるヘビーな話は、なかなかの迫力だった。
今回はその話を、順を追って紹介していこう。
ご都合主義な「反医療思想」
いま現在、レナさんを最も悩ませているのは、姉家族の「反医療思想」。ところが、
「医療を拒否して病気は放置するのに、美容整形や不妊治療など便利なものだけは積極的に手を出すので、言動が支離滅裂で訳がわからないんですよ」

レナさん姉妹には、それぞれの家族がある。姉家は夫婦と子ども3人。レナさん家は夫婦と子ども2人。姉妹の両親は離婚しており、隣町で母親がひとり暮らしをしている。
姉妹家族は自然豊かな武蔵野の土地でスープの冷めない距離に住み、家族ぐるみで頻繁(ひんぱん)に行き来していた。はたから見れば、姉妹で気軽に生活を助け合うことのできる、なんともうらやましい子育て環境である。
しかし、健康に対しての考え方が、両家で水と油。衝突が絶えない毎日なのだ。
夫がアヤシすぎた…
姉妹が衝突するまでに至った大きなきっかけは、姉の結婚だ。
結婚相手は、スピリチュアルな発信を積極的に行う自称ヒーラー。作務衣で長髪、冬でも素足。「土のついた野菜はうまいっ!」と、泥付きニンジンを丸かじりするような、わかりやすい“自然派しぐさ”が強烈だった。

「姉は夫にどっぷり洗脳されている感じです。その様子はまるで、数年前に話題となった小林麻耶さんとその夫……宇宙ヨガインストラクターのあきら。さんみたい。姉夫婦いわく、高次元のパワーを抽入してがんを治すとかなんとか。私にはまったく理解できません」
姉の家庭内では、巷でよくある怪しげなデマが「常識」として定着している。一部を挙げてみよう。
・白いものは毒
・牛乳は体に悪い
・砂糖は万病のもと
・虫歯予防のフッ素は自閉症の原因
・ワクチンは毒で製薬会社の陰謀
・電子レンジは危険
・がん検診は受けてはいけない
・子どものアトピーは母親の体内の毒素を吸収したからである
「姉の家へ行くと、スピ夫がずっとブツブツブツブツ……。姉の背後で何かを説明しているんです」
レナさん姉妹の母が「お取り寄せしたのよ」とお土産のフルーツを広げる
→夫「日本の農薬使用量は世界でもトップレベルで……」
子どもたちがアイスを食べる
→夫「添加物……腸が冷えて免疫が……」

フライドチキンを食べる
→夫「二つ脚はまだいいか。四つ脚は不吉だし、日本古来は云々……」
「いやいや、怖いから! 姉はもともと肉が苦手で、結婚前からマクロビなどにハマっていたので、ある意味相性はよかったんでしょう。それでも結婚後、極端な思想が加速というか、爆発しています。もともと周りの反対を押し切って結婚した夫婦でしたけど、予想どおりの光景が目の前に広がって、どっと疲れが押し寄せます」
そもそも、なぜ結婚を反対されていたのだろうか?

「そりゃ、高次元ヒーラーとかやっていて実質無職である夫が、怪しすぎるからです。新婚当初は、私もヒーリングを受けろと誘われましたね。姉がLINEしてくるんです。『夫と一緒にヒーリングの勉強会に行ってきた! レナにもやってあげるね!』と。え、結構です。間に合ってます……で逃げると、これまたトンデモ好きな母と一緒になって私の悪口を言い出す始末です」
・白いものは毒
・牛乳は体に悪い
・砂糖は万病のもと
・虫歯予防のフッ素は自閉症の原因
・ワクチンは毒で製薬会社の陰謀
・電子レンジは危険
・がん検診は受けてはいけない
・子どものアトピーは母親の体内の毒素を吸収したからである
最初から予想できていた展開
「姉の家へ行くと、スピ夫がずっとブツブツブツブツ……。姉の背後で何かを説明しているんです」
レナさん姉妹の母が「お取り寄せしたのよ」とお土産のフルーツを広げる
→夫「日本の農薬使用量は世界でもトップレベルで……」
子どもたちがアイスを食べる
→夫「添加物……腸が冷えて免疫が……」

フライドチキンを食べる
→夫「二つ脚はまだいいか。四つ脚は不吉だし、日本古来は云々……」
「いやいや、怖いから! 姉はもともと肉が苦手で、結婚前からマクロビなどにハマっていたので、ある意味相性はよかったんでしょう。それでも結婚後、極端な思想が加速というか、爆発しています。もともと周りの反対を押し切って結婚した夫婦でしたけど、予想どおりの光景が目の前に広がって、どっと疲れが押し寄せます」
母と姉が反医療思想で結託
そもそも、なぜ結婚を反対されていたのだろうか?

「そりゃ、高次元ヒーラーとかやっていて実質無職である夫が、怪しすぎるからです。新婚当初は、私もヒーリングを受けろと誘われましたね。姉がLINEしてくるんです。『夫と一緒にヒーリングの勉強会に行ってきた! レナにもやってあげるね!』と。え、結構です。間に合ってます……で逃げると、これまたトンデモ好きな母と一緒になって私の悪口を言い出す始末です」
実はレナさん母も、医療よりも民間の健康法を信じる側の人だった。

レナさんは3姉妹で一番下の妹がいるが、幼少期にチックがあったことからそれを治せると謳う某カルト団体のコミューンに長期間預けていたこともあったという。
(そのときは離婚して別居していた父親が、弁護士を連れて引き取りにいった)
カルトからマルチへと渡り歩く
レナさんの中学時代は、マルチ商法であるアムウェイのディストリビューターとして活動し、それまで頻繁に遊びに来ていた母友人たちが一斉に姿を消した。

その後アムウェイは退会するが、今度は無料体験会をきっかけに高額な電位治療器を2種購入(総額約200万)。
そして、レナさん姉と同様、子どものワクチン接種にネガティブな考えを持っている。
そんな母の影響と、もともとの嗜好によって素地ができあがっていたのだろう。高次元ヒーラーなる男性と結婚したことで、姉は一気に沼の深みに突き進んでいったようだ。
子どもは無邪気に信じてしまう
考え方が違う妹の陰口を叩くだけならともかく、姉と母の困ったところは、レナさんの子どもにあれこれふき込むところだという。

「お母さん更年期なんでしょ? おばあちゃんたちが言ってたよ! だから自分が間違ったこと言ってる自覚ないんだって」*1
「私たちはワクチン打ったからデトックスしなくちゃいけないんだって! おばちゃんがサプリ飲めってくれたよ」*2
*1 更年期とは、一般的に45~55歳である。30代のレナさんは、不調があったとしても更年期には該当しない。
*2 「ワクチン接種後にデトックスが必要」というのはごく一部の少数派の意見であり、一般的な考え方ではない。
縁を切りたい、でも切れない
引っ越して、物理的にも距離を置きたくなるレベルである。
しかしレナさんがそれをしないのは、現在アルコール依存症気味になっている母と、姉家の甥っ子たちが心配だからだ。

子どもは親を選べず、よほどのことがないかぎり未成年が自発的に親元を離れて暮らす術はない。
甥っ子たちが無事巣立つ日までなんとかつながりを維持しながら、ぼやきつづけるしかないレナさんだった。
<取材・文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
