お菓子も子どもも悪くない。
こんにちは、食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、「一生モノの能力を養う食育」についてさまざまな実践法を提案しています。
私は食育提案をしていく中でさまざまなご質問をいただくことがありますが、先日こんな悩みを相談されました。
それは、「子どもがお菓子ばかり食べて、ごはんを食べてくれません。どうすればいいのでしょうか?」という内容。心当たりのある方、少なくないですよね。私もものすごく共感してしまうご相談でした。
お菓子は本当に悪いのか?
それではまず、お菓子ばかり食べてしまう子どもについて考えていくことにしましょう。
子どもが食事ではなくお菓子を選ぶ理由は、明確にあります。それは、子どもが苦手とする苦味や酸味がほとんどなく、大好きな甘味や旨味を味わいやすいから。
さらに、子ども一人でも食べやすいこと、楽しい仕掛けやパッケージであることなど、子ども達にとっては悪い要素がまったく見当たりません。極端に考えれば、野菜料理よりもお菓子を選ぶ方が、本能に従った選択とも考えられます。
キットカットはもともと“食事代わり”だった
ここであえてお菓子の肩を持つような話をさせてください。
世界的なチョコレート菓子の「キットカット」がもともと“食事代わり”だったことを知っていますか?
キットカットは、1935年にイギリスで「チョコレートクリスプ」という名前で誕生しました。きっかけは、男性が仕事場で昼食や休憩時間に食べやすいチョコレート菓子を作ろうとしたこと。
ターゲットは、オフィスで働くのではなく、朝早くから身体を動かして重労働をする男性で、優れたカロリー補給やリフレッシュ効果をもたらしてくれたそうです。つまり、お菓子にも確かなメリットや魅力があるのです。
そして現代のお菓子を広く見渡してみましょう。最近のお菓子は、たんぱく質やビタミン・ミネラルのバランスを考慮した商品も続々登場していますし、お菓子=栄養がないという解釈はもはや古すぎるのかもしれません(※だからと言ってお菓子ばかり食べていてOKというメッセージではありませんのでご注意くださいね)。
お菓子ばかり食べていた息子は…
次に、今心配しているママやパパがいるとしたら、どうか安心してくださいとお伝えしたいと思います。
ここで、我が子のケースをちょっぴり紹介させてください。私は小学2年生になる男の子を育てる母でもあります。息子は生まれつき食が細く、親である私はいつも「もっと食べさせたい」という気持ちでいっぱいでした。
旅先では食が合わず、スーパーで購入したチョコチップクッキーを食べることもありましたし、咀嚼力の弱い幼児期においてはしっかりした食感の肉料理や野菜料理をほとんど食べてくれないこともありました。
そんなとき、私が大切にしたのは、そんな息子の姿勢や気持ちを一方的に否定しないこと。思うように食べられないときに、自分でおいしいと思える食べ物を探す出す姿勢を、まずは肯定的に受け止めることにしました。
そしてもっとも大切にしたことは、食事がつらい時間、つまらない時間にならないようにすること。
食卓におけるちょっとした発見や喜びを一緒に経験することで、「食事は良いことが起こる楽しい時間」という価値観を醸成することを心がけました。子どもが収穫してきた野菜でカレーを作って家族で味わうなど、本当になんでもいいと思います。
結果として8歳になった息子は、どんな場所でもそこでの食事を楽しめるように成長しました。お菓子ばかり食べているようなことは1日たりともありません。
お菓子中毒の子どもは、どうすべきか?

次に、万が一お子さんがお菓子中毒に陥っている場合、子どもをどう救えるのか? について考えてみましょう。
まずは焦らず冷静に、親自身が「お菓子を悪と決めつける、お菓子を食べ過ぎる子どもを叱る」信仰に陥っていないか、確認してみるところからはじめてみましょう。
お菓子を否定するのではなく、お菓子のすばらしさを一緒に確認するのが第一優先で、少しずつ「じゃあどんなときに食べたらいいのかな?」という話が楽しくできるような関係性を目標にしてみてください。焦ってしつけを施そうとすると、かえって逆効果になることがあります。
つまり、お菓子を悪者にしても解決には至らないということです。「なぜお菓子が悪い?」の理由がママ・パパの中に明確にあれば子どもに説明がつくかもしれませんが、なんとなく悪と決めつけている場合は、子どもが納得しなくて当然です。
そして問題の根本にあるのがお菓子うんぬんではなく、栄養バランスの偏りや食シーンへの適応力の未熟さであることに気がつけば、それらの改善はそれほど難しくないと思います。
食事シーンの選択肢を狭めないこと
改善方法を具体的に考えてみましょう。
お菓子ばかり食べる? 我慢する? という逃げ場のない裁きをするのではなく、狭い2択(例えば、お菓子を食べるかママの作り置きメニューを食べるか)を迫るような食シーンばかりを繰り返さないことです。
友達とごはんを食べに行くこともあるでしょうし、ピクニックでお弁当を味わう、休みの日はゆっくりと朝ごはんを楽しむようなことも一緒に経験できる楽しい時間です。
そのようなシーンをすべて拒否してお菓子に走るような子どもは、めったに見たことがありません。
食事を与える親にも甘い栄養を
おそらく私のようなことを主張する食育専門家はほとんどいないと思います。だからこそ、今回は勇気を持って本音で思いをつづりました。
子どもの食事や食育の目的は、「頭の良い子ども、優秀な子どもを作る」ことだけではありません。むしろそれだけに執着しすぎると、成功はないと私は考えますし、世の中の賢人・スターを見ても食事において合格点をもらっているかは大いに疑問です。
ですから周りに左右されすぎずに、まずは目の前の自分の子どもの食べる様子を温かく愛してあげてください。「これ食べたい! これおいしいね!」の反応は、真摯で純粋な感覚からくるものなのですから!
専門家のアドバイスも大切ではありますが、もっとも信じられるのは、子どもとのリアルなつながりから生まれる反応や言動だと思います。
食事をする子どもの気持ちを優しく受け止め、親自身の心にちょっぴりでもよいので余裕を持ってみる。そうすることで、ストレスや不安から解放されるはずです。
子どものお菓子を叱るのではなく、一緒に食べて笑顔になる時間を大切にしていきましょう。親も子どもと一緒に甘いお菓子を楽しんでいいと、私は考えます。
お菓子に対する親の向き合い方次第で、子どもの様子も大きく変わってくると思います。子どもの心を大切に、お菓子との付き合い方を前向きに考えていってくださいね!
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
スギアカツキ
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。ビューティーガール連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12
(エディタ(Editor):dutyadmin)





