皆さんは「子供用ハーネス」をご存知でしょうか? 子供が身につけるベストやリュックにつけた紐を保護者が持って安全な外出を叶えるもので、別名「迷子紐」とも呼ばれるこのアイテムには様々な種類があります。
迷子や飛び出しなどの危険を防ぐことができる“命綱”である一方で、「子供がペットみたいでかわいそう」などの反対の声もあり、子供用ハーネスの使用は度々物議をかもしています。
今年登場した、画期的なデザインのハーネスとは
そんな中、2023年2月にヴィレッジヴァンガードが『【子供の安全第一】ハーネスリュック』という名前で画期的なデザインの子供用ハーネスを販売。商品はSNSで話題になりまたたく間に完売となりました。
この商品の人気の裏には「安全に、そして堂々とハーネスを使いたい」という子育て中のパパ・ママの切実な思いがこめられていました。『【子供の安全第一】ハーネスリュック』の発案者である漫画家の西野みや子さんにお話を聞きました。
子供用ハーネスを「使う」「使わない」論争
――なぜ、『【子供の安全第一】ハーネスリュック』を作ろうと思われたのですか?
西野みや子さん(以下、西野)「私には現在、3歳になる息子がいます。妊娠中からSNSでは、子供用ハーネスを『使う』か『使わない』かで、度々議論が起きていました。子供の安全を守るためにハーネスを使う人がいる一方で、『子供がかわいそう』という反対意見があったんです」
――ハーネスを使わない派の意見とはどのようなものなのでしょうか。
西野「子供に紐をつけるので、『ペットみたいでかわいそう』という声です。実際に子供用ハーネスをつけて歩いていたら、嫌なことを言われたというママたちの声も多く書き込まれていました。『ハーネスをファッションのように扱っている』と言われたり、笑われたという方もいらっしゃいます。『私が子育てをしている時には、こんなものなかった』『ママが子供から目を離さなければ、こんなものはいらない』『子育てをラクしている』という意見も年配の方にはあるみたいです」
子供の安全を守るアイテムで、肩身の狭い思いをする親たち
――子供の安全を守るためのものなのに……。
西野「そもそも子育てでラクをして何が悪いのでしょうか? 子供の安全のためにハーネスをつけているのに、なんでこんなに肩身の狭い思いをしないといけないんだろうと思いました」
――「使用している時の見た目」で文句を言われることが多いんですね。
西野「私も出産して、息子が歩くようになったら『目が離せない』という状況が多くなりました。息子は乗り物が好きなので、車道の方に突然走って行くこともあったんです。わが家でもそろそろ子供用ハーネスの導入を検討しようかなという時に、SNSでまた子供用ハーネスを『使う』『使わない』で論争が起きているのを見ました。『何年も前から何度も議論されている話題なのに、まだ解決してないの!?』と衝撃を受けました」
「こんなハーネスがあればいいのに!」を考えてみたら
――ずっと同じ議論が繰り返されていたんですね。
西野『息子と散歩をしていると、どんなに気をつけても、突然手を振りほどいでどこかへ行ってしまうことがあります。小さいので車の運転手の死角にも入りやすく、一緒に歩いている私でも見失ってしまうことがあります。『ちょっとそこまで』の散歩でも神経をすり減らして常にへとへと。それなのに、子供用ハーネスを使うと文句を言われる……。それで『こんなハーネスがあればいいのに!』という案をTwitterに投稿しました。そこで大きな反響があったんです」
――約2万件のいいねと「ぜひ商品化を」というリプライがたくさん届いていましたね。
西野「はい。使っていても誰からも文句を言われない。誰が見ても、子供の命を守るためにハーネスをつけていることがぱっと見でわかるデザインを投稿しました。極限まで命綱感を高めたハーネスです。思った以上に反響が大きくて、『商品化してください』というママたちの声を多くいただきました。
同時に、ハーネスを使っている時に嫌な思いをしたというリプライもたくさん届きました。まわりの反応が怖くてハーネスを使えなかったという声もありました。アイデアを投稿して、みなさんの切実な声を聞いているうちに、『堂々と使えるハーネスを自分で作ろう!』と決心しました。使っていても誰からも文句を言われない・言わせない子供用ハーネスです」
SNSでバズってから、商品化への長い道のり
――アイデアの投稿から「自分で作ろう」になるのがすごいです。
西野「いい加減、ハーネスを『使う』『使わない』論争を終わらせたかったんです。とはいえ、私自身は裁縫も得意じゃないですし、何かを商品化させたことも当然ありません。工事用ヘルメットを取り扱うメーカーさんや子供用ハーネスをつくっているメーカーさんに問い合わせをしました。でも、メーカーさんもこのような商品を作ったことがなく、商品化の話には至りませんでした」
――前例がないものを突然作るのは、メーカーさんも難しいですよね。
西野「はい。前例もないですし、そもそもメーカーさんがハーネスのアイディアを募集していたわけでもありません。何社も問い合わせて断られ……。当然ですが、SNSでバズったからといって商品化ができるわけではありませんでした」
子供用ハーネスの商品化にむけてアイデアはあるけど、実現はできない。『子供の安全第一ハーネス』のアイデアの実現にむけて動く西野さんでしたが、その後思わぬところで商品化の糸口を見つけます。
【西野みや子】
漫画家。3歳の息子を育てる母。元教員・元漫画背景アシスタント。自身のエッセイ漫画やレポ漫画、育児漫画をSNSやnoteで公開中。Twitter:@miyakokko61、Instagram:@miyakokko61
<取材・文/瀧戸詠未>
瀧戸詠未
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB
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