既婚者同士、あるいはどちらかが既婚者である場合の恋愛は、すべて「不倫」と呼ばれる。そしてそういう状況であっても真剣に恋愛しているカップルの多くは、「この恋は純愛なんです」と語る。
独身同士の恋愛は、多くの場合、「結婚」を目指す。人によっては「結婚して人生を変えたい」とか「この人と結婚することで生活が楽になるかも」など不純な動機が混じっていることもあるだろう。
それに比べると、結婚という社会制度に乗らず、バレたら誹(そし)られる関係だからこそ、不倫はふたりの愛情だけがすべてなのだ。だから純愛。一理あるのかもしれない。
「私は結婚を望んではいません。彼と知り合ったとき、すでに彼には家庭があった。略奪するなんておこがましい。私はあとから彼を好きになった。だから彼と会えるならそれでいい。それ以上は望まないと彼にも言っています」
きっぱりとそう言うのは、アヤコさん(仮名・33歳)だ。7歳年上の上司とつきあって4年になる。29歳のときにこの関係に踏み込むのは決断が必要だった。
「30歳ってやっぱり区切りの年だから、私自身もなんとなく30歳くらいまでに結婚したいなと思っていたんです。でも28歳が終わるころ、異動してきた上司と仕事をするようになって……。
彼の考え方は斬新(ざんしん)でした。それまでの仕事のやり方をどんどん変えて、効率よくして、さらには女性社員からもどんどん意見を取り入れていった。うちの会社、体制が古くて、なかなか女性が前面に立つことがなかったんです。それをあっという間に変えたのが彼でした」
上がよければすべてよくなると彼女は痛感。部署の風通しがよくなったので、誰もが生き生きと仕事をするようになり、活発に意見が交わされて、また新しいアイデアが出てくる。その雰囲気は他部署にも及び、上層部も徐々に変わらざるを得なくなった。
「当時、彼は30代半ば。学生時代からつきあっていた女性と、一度は離れたものの再会して30歳のときに結婚したと飲み会で話していました。そのあたりも妙に照れたり隠したりしないのが好感度高かった。
妻も働いているとか、彼の実家が近いので子どもの面倒を見てもらうこともあるとか、もっとベビーシッターを気軽に頼める制度がほしいとか、男だって仕事と家庭の両立を考えなければいけない時代だとか、もっと年上の上司とはまったく違う話を聞いて、この人素敵だなと思ったのを覚えています」
そんな彼と恋愛関係に落ちるとは考えてもいなかった。きっかけはときどきおこなわれる「上司との面談時間」で彼女が仕事の相談をしたことだった。
「私自身、特に結婚したい相手がいるわけでもなかったので、まずはキャリアを先に考えたほうがいいかなと思っていたんです。この会社にずっといるかどうかはわからないけど、今の状況でどういうキャリアアップが目指せるのか、必要な資格はあるのかなどを尋ねました。すると彼が、本気でキャリアを目指すなら本気で応援すると言ってくれて」
必要な資格、それにともなう勉強方法、さらに他社情報まで教えてくれた。「転職も視野に入れたほうがいいかもしれないけど、できれば僕はあなたと一緒に仕事をしていきたい」と彼は言った。彼女はその言葉に感動してしまったという。

写真はイメージです(以下同)
それに比べると、結婚という社会制度に乗らず、バレたら誹(そし)られる関係だからこそ、不倫はふたりの愛情だけがすべてなのだ。だから純愛。一理あるのかもしれない。
4年つづく関係で結婚は望まない
「私は結婚を望んではいません。彼と知り合ったとき、すでに彼には家庭があった。略奪するなんておこがましい。私はあとから彼を好きになった。だから彼と会えるならそれでいい。それ以上は望まないと彼にも言っています」
きっぱりとそう言うのは、アヤコさん(仮名・33歳)だ。7歳年上の上司とつきあって4年になる。29歳のときにこの関係に踏み込むのは決断が必要だった。
「30歳ってやっぱり区切りの年だから、私自身もなんとなく30歳くらいまでに結婚したいなと思っていたんです。でも28歳が終わるころ、異動してきた上司と仕事をするようになって……。
彼の考え方は斬新(ざんしん)でした。それまでの仕事のやり方をどんどん変えて、効率よくして、さらには女性社員からもどんどん意見を取り入れていった。うちの会社、体制が古くて、なかなか女性が前面に立つことがなかったんです。それをあっという間に変えたのが彼でした」
上がよければすべてよくなると彼女は痛感。部署の風通しがよくなったので、誰もが生き生きと仕事をするようになり、活発に意見が交わされて、また新しいアイデアが出てくる。その雰囲気は他部署にも及び、上層部も徐々に変わらざるを得なくなった。
「当時、彼は30代半ば。学生時代からつきあっていた女性と、一度は離れたものの再会して30歳のときに結婚したと飲み会で話していました。そのあたりも妙に照れたり隠したりしないのが好感度高かった。
妻も働いているとか、彼の実家が近いので子どもの面倒を見てもらうこともあるとか、もっとベビーシッターを気軽に頼める制度がほしいとか、男だって仕事と家庭の両立を考えなければいけない時代だとか、もっと年上の上司とはまったく違う話を聞いて、この人素敵だなと思ったのを覚えています」
そんな彼と恋愛関係に落ちるとは考えてもいなかった。きっかけはときどきおこなわれる「上司との面談時間」で彼女が仕事の相談をしたことだった。
彼の言葉に感動
「私自身、特に結婚したい相手がいるわけでもなかったので、まずはキャリアを先に考えたほうがいいかなと思っていたんです。この会社にずっといるかどうかはわからないけど、今の状況でどういうキャリアアップが目指せるのか、必要な資格はあるのかなどを尋ねました。すると彼が、本気でキャリアを目指すなら本気で応援すると言ってくれて」
必要な資格、それにともなう勉強方法、さらに他社情報まで教えてくれた。「転職も視野に入れたほうがいいかもしれないけど、できれば僕はあなたと一緒に仕事をしていきたい」と彼は言った。彼女はその言葉に感動してしまったという。
「女性はいつも、どこかで仕事か結婚かを考えざるを得ないと思うんですよ、今の時代においても。
でも彼はそういう考え方より、むしろ自分の人生をもっと広くとらえたほうがいいし、フレキシブルに仕事や恋愛を楽しんだほうがいいんじゃないか、と。人生を楽しむという視点が当時の私にはなかった。焦ってばかりいたので目から鱗(うろこ)が落ちた感じでした」
アヤコさんは、ずっとまじめに生きてきたと言う。大学を出て、今の会社に就職して、コツコツと自分の居場所を築いてきた。そんなときに出会った上司は、さばけたオープンな人。強く感化されても不思議はない。
まじめだからこそ、彼女は上司に惹かれつつも、それが恋愛感情だとは考えてもいなかった。彼は部下ともオープンに飲みにいくが、サクッと帰るタイプだった。そこが慕われてもいた。あるとき彼女も上司に誘われて数人で飲みにいった。
飲みにいく関係になり1年たって自分から…
「なんだか彼とふたりで飲みたいという欲求が強くなってしまったんですよね。少し酔っていたせいもあったのか、帰りがけにもう一軒行きませんかと話しかけたんです。すると彼も頷いてくれて。私から惚れたと思っています。彼は『きみが誘わなければ僕が誘ってたよ』と言いますけど」
たまに飲みにいく気の合う上司という位置づけだったし、それで満足できるはずだったのに1年ほどたったとき、彼女の中で熟成されていた気持ちが爆発した。
「帰る方向が同じなので、飲んだ帰りにいつものように一緒に電車に乗ったんです。私のほうが降りる駅が手前なんだけど、どうしても降りたくなかった。だから彼を送っていくと言い張りました。彼は苦笑して『じゃあ、僕が送っていくよ』と。
私の最寄り駅で一緒に降りてぶらぶら散歩して……。おいしいコーヒー豆が手に入ったから飲んでいってと誘いました。彼がコーヒー好きなのは知っていたので、いい豆を買っておいたんです。計画的だったのかもしれない」
彼はためらったものの、彼女の誘いに乗ってくれた。お互いに恋愛感情が高まっていて、もう後戻りはできない状態だったのだろう。
彼の家庭の話を聞くのが好き
「その日、彼と関係をもって、なんだか私、すごく落ち着いたんです。これで仕事に没頭できると思った。こんなに素敵な時間を過ごしたのだから、一度きりでもいい、ありがとうと帰っていく彼に言いました。振り向いた彼が涙ぐんでいたのに驚きました。
『オレには家庭があるのに……ごめん』って。謝らないで、誘ったのは私だからと私は大きく笑っていました。本当に1回だけの関係でいいと思っていたんです」
だが、1回こっきりの関係にはならなかった。「きみが他に好きな人ができるまでのつなぎでいい。僕は本気で好きだ」と彼から言われ、アヤコさんもその気になった。
「普通、不倫相手に家庭の話とか聞かされると嫌なものだというけど、私は彼の家庭の話を聞くのが好きなんです。彼の背景も含めて、まるごとの彼を知りたい、愛したい。
特に話してとせがんだわけじゃないけど、彼はポロリとしゃべるタイプ。だからといって、自分には家庭があることを私に常にわからせたいという意図があるわけではないのはわかる。彼も私にすべてを受け入れてほしいんだろうなと思っていました」
家庭では話せない仕事のことや、不思議に思う妻の言動なども話してくれた。彼女はときに彼とともに怒り、ときに彼の妻の心情を解説した。彼が何でも話せて、気持ちも体もリラックスできる場を、彼女は自ら作っていった。それが彼女の愛情だった。その結果、4年も関係が続いてきた。
もし妻にバレそうになったら身を退く
「一緒に映画を見にいったり、ふたりで花見に行ったりもしました。彼は私を“気が合う部下”として部内に印象づけてくれた。仲がいいことは隠さなくていい、関係を持っていることだけ知られなければいい。そういう考え方だったんですね」
職場はもちろん、彼は妻にもまったく知られていないと自信をもっている。
「本当に偶然なんですが、私が住んでいる町に、彼の遠い親戚が住んでいるらしいんです。だからときどき彼はそこへ寄っている。そうすればこの近辺で彼が誰かに見られたとしても妻には言い訳がつくから、と。策士だなあと思いました(笑)」
妻にバレそうになったら、彼女はさっさと身を退くつもりでいる。もめごとを起こしてまで続ける意味はないと割り切っている。学生時代からの親友に話したら、「奪い取るほど好きじゃないということ?」と聞かれた。
「そうじゃないんです。奪い取る以上に愛しているということなんです。彼の幸せを願っているから、彼の現状をまるごと愛しているから、誰かを傷つけたくない。彼が『誰かを好きになったら、すぐに言ってね』と私に言ったのと同じ気持ち」
彼の最優先が自分とは限らなくても満足
不倫するなら離婚してからつきあえばいいという話をよく聞く。だが、現状を変える必要がないなら、「本気の恋愛をそのまま続ける」という選択肢があってもいいのではないだろうか。「誰にも知られない」のを絶対的条件として、ではあるが。
「彼が好き。その気持ちだけです。子どもと遊ぶ時間があるなら私にも会って、なんていうふうには思わない。彼には彼の優先順位がある。
私は彼を最優先にしているけど、彼の最優先は私とは限らない。それだけのことだと思います。彼は彼の状況の中で、私にちゃんと愛をくれているから、私はいつも満足しています。
いつまで続くかわからないし、明日にでも終わってしまうかもしれない。だからこそ、会えるとこれが最後かもと思ってすべての愛情を交換しあう。そんな感じですね」
彼女の笑顔に曇りはない。
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<文/亀山早苗>
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亀山早苗
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
(エディタ(Editor):dutyadmin)