2022年12~2023年2月、女子SPA!で大きな反響を呼んだ記事を、ジャンルごとに紹介します。こちらは、「大反響漫画」ジャンルの人気記事です。(初公開日は1月23日 記事は取材時の状況)
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『私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記』(文藝春秋)は、大人がやるべき家事を強いられている子供達、「ヤングケアラー」について描いています。ストーリーはフィクションですが、エピソードは著者の水谷緑さんが取材した実際の体験談に基づいています。

水谷緑さん(画像提供/文藝春秋)
しかし、幼い頃から自分より周りを優先してきたため、成長と共に歪みが大きくなっていきます。無気力さに苛まれ、不眠や頭痛などの身体的な不調を覚えるようになっていきます。
前回は著者の水谷緑さんに精神疾患患者を抱える家族の苦しさなどについてお聞きしました。今回は、3話と4話を紹介し、後半では子供に家事を押し付ける父親の問題や、成長したヤングケアラーが抱える悩みなどについてお聞きしました。
【前回記事】⇒小学生の頃から全家事をになうヤングケアラー、自分を押し殺し続けた反動とは<漫画>

家事をしない「父親」の問題
――前回、水谷さんはヤングケアラーの家庭の特徴の1つに「父親の不在」を挙げていました。本書でも、父親は健康なのに主人公に家族の世話を丸投げしています。取材された中では、どんなタイプの父親が多かったのでしょうか?
水谷緑さん(以下、水谷):働かないとか酒乱のような分かりやすい「ダメ親父タイプ」はいなかったです。どちらかというと仕事ができて会社で認められている人が多かったです。教師や会社の経営者もいました。大企業勤めで「仕事ができればいいんだ」「稼いでくるのが父親」という考え方の人が多い印象でした。その背景には、家庭の問題から逃げたい気持ちがあるのではないかと思います。
離婚して家庭を去るお父さんもいて、そのあと新しい家庭を作って、ヤングケアラーである子供に再会した時に「俺、今すごく幸せなんだ」と報告してきたそうです。
――主人公の父親はそこまで酷くはないものの、家庭の問題に対して他人事のように振る舞うところがありますね。
水谷:完全に無視している訳ではなく、「だらしない奴だな」とか「早く起きろ」と自分にできる範囲で妻を叱ったりしています。でも病気に対しては考えたくないのだと思います。
取材した中では、最初に精神科に連れて行った時に「統合失調症は一生治らない病気です」と医師に言われたという話がありました。完治しなくても日常生活を送る上での対処法はあると思うので、医師の言い方がよくなかったのではないかと思います。そういう経験から「もうどうしようもない」と諦めてしまう父親が多かったです。
助けを求められない理由
――当事者が助けを求められないのはなぜでしょうか?
水谷:本当に「辛い」と思っていない人が多いんです。だから「大丈夫?」と聞かれると「大丈夫です!」と明るく答えてしまいます。どこかで違和感を感じていても、「自分はヤングケアラーだ」とか「家事をやらされて困っている」と自覚できないんです。
本人としては、「自分が家庭を回している」という会社を経営しているくらいの責任感があるようです。一家を回している立場なので、自分を辛い立場だと認識すると立っていられなくなるのではないかと思います。
親が精神疾患を隠している場合は「隠すものなんだ」と刷り込まれている子供もいます。「他人に言ってどうなるのかイメージが全くなかった」と言っている方もいました。
――主人公が学校の先生に「困ってない?」と聞かれて、明るく否定する場面が印象的でした。
水谷:元ヤングケアラーで、小学生の頃すごく良い担任の先生がいたと言っている方がいました。忘れ物をした子のために、自由に使っていい文房具を入れた箱を教室に置いておいてくれたそうです。ヤングケアラーは親が持ち物を買ってきたり、チェックしてくれたりしないので忘れ物が多くなってしまうんです。だからその先生の計らいがすごくありがたかったそうなのですが、そんないい先生にも「言えなかった」と言っていました。まだ子供なので言語化が難しいですし、年齢に関わらず悩み事は人に言えないものだと思います。
身近にヤングケアラーがいたら?

水谷緑『私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記』(文藝春秋)
水谷:私が取材した中では、「グレたくてもグレられなかった」という方が何人かいました。「グレたら負けだ」と思っていたり、非行に走る暇もなかったそうです。冷めた感覚の方が多いので「グレても何も変わらない」と現実的に捉えられていました。
――身の回りで「ヤングケアラーかもしれない子供」がいたら、どう接するのがいいと思いますか?
水谷:人は否定されると絶対に心を開きません。正論で追い込まない方が受け入れられやすいと思います。
――ヤングケアラーの親を非難したりすると心を開いてもらえないかもしれないですね。
水谷:ただ、難しく考えなくても隣近所の方が声掛けをするだけでも救いになると思います。元ヤングケアラーの方が、「隣の人が気にかけてくれて時々おかずを持ってきてくれたことが嬉しかった」と言っていました。子供の時は家事で精一杯で「何でこの人はご飯を持ってくるんだ」と思っていたけど、大人になってから思い出した時に嬉しくて涙が出たのだそうです。すぐには解決に繋がらなくても、時を経て心の癒しになることもあります。
いつも1人で買い物をしている子や、家の修理業者との対応を子供がやっていたりしたら、周りの人が「こういう子がいるんだな」と認識しておくだけでも全然違うと思います。
まずは挨拶だけでも
――話し掛ける場合は、どんな声掛けだといいのでしょうか?
水谷:「お母さんはどうしたの?」と毎回聞かれて嫌だったという声がありました。ヤングケアラーの家族を責めたりせず、「いつも頑張ってるね」と褒める方がいいと思います。人に声を掛けるのは大人でも勇気がいると思うのですが、まずは挨拶だけでもいいと思います。
挨拶という形で何回かジャブを打っておくと「この人になら言えるかもしれない」という気持ちになるという元ヤングケアラーの方もいました。
――あまり心配する様子を見せない方がいいのでしょうか。
水谷:あからさまに心配すると警戒されるかもしれないですが、何もしないよりはましだと思います。
ある支援団体では、子供に何も聞かず、まずは皆でゲームをして遊ぶそうです。何回も遊んでいるうちに子供がぽろっと悩みを話してくれることがあると言っていました。近所の大人が一緒に遊ぶのは難しいと思うので、まずは挨拶から始めるといいと思います。
(C)水谷緑/文藝春秋
<取材・文/都田ミツコ>
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
(エディタ(Editor):dutyadmin)


























