GW明けの5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行されました。先立って3月13日から「マスクをつけるかどうか」が個人の自由になっていたのもあり、今年のGWはやっと気がねなく地方の実家に帰省できたという人々も多いのではないでしょうか。
ただ、そこで新たな“問題”に悩まされる場合も……。

「久しぶりに実家の両親とゆっくり過ごしたら、歳をとって背中がひとまわり以上小さくなっていた」(39歳・女性)や、「『え、うちの親ってこんなに老けてたっけ!?』と、正直びっくりした」(43歳・男性)など、コロナ禍を経て、親の「老い」に直面する瞬間でもあるのです。
コロナ前の両親の元気な姿で、イメージが止まっていた。
「2年半ぶりに両親と会った」という、片倉菜々緒さん(仮名・49歳)は、ここしばらく地方に住む親とのやりとりは、ビデオ通話や電話がほとんどだったそうです。
「画面越しだと基本的に顔のアップになるから、足腰が弱っているとか、姿勢が崩れてきたとか、あまりよくわからないんですよね。こちらも、脳内で勝手に“コロナ前の両親の姿”で止まっているというか。
でもこの冬、3年ぶりくらいに会って、『背中が小さくなったなあ』と改めて実感しました。歩く時もふらついていて、杖をついてもどこか不安で……。父と母は70代半ばにさしかかる歳。そろそろ介護や、将来的な老後の話もしなきゃいけないなと思っていました」

コロナ禍を経て、改めてつきつけられた“両親の老い”。片倉さんは正直な思いを語ってくれました。
「コロナで誰にも会えないということは、“異変に気が付いてくれる人も極端に減る”ということじゃないですか。どちらかが認知症になったとしても、実は体調がすごく悪くなっていても、同年代の配偶者一人がもし見過ごしたら、他の誰も気づいてくれない。そのことがすごく怖かったですね」
介護はある日突然、わが身に降りかかってくる
そして今、コロナ禍に終焉の兆しが見え始め、片倉さんはさらに両親の老いを痛感しています。
「改めて、“親の老後をどう考えるか、介護の問題”を突きつけられた気がします。うちの場合は旦那の父親が70歳を過ぎて脳梗塞(こうそく)で倒れて、そのまま寝たきりの状態が続いて介護に突入したんです」

「介護はある日突然、わが身に降りかかってくる」と片倉さんは続けます。
「それまで漠然と、親はゆっくり歳をとりながら自然とボケていって、徐々に介護が必要になる……というイメージでした。でも、現実は違う。昨日まで元気だった親が突然ケガや病気で倒れて、入院から退院、そしてそのまま介護に突入ということもある。心構えも覚悟もなにもないまま、ある日突然、介護は“自分ごと”になるのです」
現在は週に何度か義両親の家に通い、福祉サービスを使いながら夫婦で食事や入浴の手伝いを行っているとか。そして、さらに自分の親の介護問題もふりかかってくるのです。
親の老後の話をすると、なぜか家族全員が無言になった
「夫の父親のこともあり、『介護は突然やってくる。徐々にじゃないんだ』ということはわかっていたので、うちの親の老後についてなるべく早く家族で話し合おうと思っていました。だからつい先日、やっとみんなで実家に集まれるようになったタイミングで、妹と弟、そして両親に話してみたんです。でも、家族の反応は私の予想外でした」
急に言葉を詰まらせる片倉さん。一体何があったのでしょうか。

「みんなが集まっているときに、『お母さんとお父さんの老後の話がしたい』『体も弱ってきていて、そろそろ介護を本格的に考えた方がいいんじゃない?』と切り出してみたんです。すると一瞬で空気が凍るというか、みんな無言になってしまって……」
むしろ、「確かに、そろそろ現実的に考えないとね!」と兄妹からも後押しされると思っていたそう。しかし、全員うつむいて、口数も減ってしまったとか。
「介護を考える上で、両親たちが考えている老後のプランを共有することも大事じゃないですか。だから、『お父さんたちはどう過ごしたい?』『施設に入るのもあり? それとも在宅にこだわりたい?』っていろいろ聞いてみたんです。できるだけ希望に寄り添ってあげたいですからね」
「俺たちを年寄り扱いするな!」部屋に響く、父の怒号
現実的な話を進めますが、なぜか誰もついてきません。
「続けて『両親が、自分たちの介護に充てようと考えているお金はどれくらいあるのか』も、聞いてみたんです。貯金はいくらくらいあるのか、どこの口座にどれくらい入っているのか、電気代やガス代とか、どんな支出がどこの口座から出ているのかとかも。
そしてなにより、『それぞれの口座の暗証番号を教えといてほしい』というお願いもしました。認知症になったり、物忘れが悪化してから、『介護のためのお金をおろしたくても、親が暗証番号を思い出せなくて、控えもなく、一切おろせない』という介護の失敗談も聞いていたので」
しかし、お父さんから出た言葉は……

「父の第一声は、『俺たちを年寄り扱いするな!』という怒りの言葉でした。お金のことも、『金、金、金って不愉快だ』とも。その時の私は家族のために率先して動いているつもりだったので、ショックでした。
でも今思うと、私ひとりで焦り過ぎていたのかも……」
コロナ禍で会えない期間を耐えて、やっと会えた両親がひとまわり以上小さくなって“老い”をつきつけられて。親の介護を考えなきゃ! と慌てていた片倉さん。ですが、改めて自分自身の言動を振り返ります。
「おそらくですが、両親も自分の老いにまだ向き合えていないのかもしれません。体は弱くなったり支障も出はじめているけど、『自分たちはいつまでも元気なはず』だと思いたいというか。きっと、子どもが親の老化を受け入れられないように、親もすんなりとは受け入れられないんじゃないかな。考えなきゃいけない問題ですが、私の言動は一気に現実を突きつけてしまったのかもしれません」
もっと違ったアプローチがあったかもしれない
家族間の温度差も難しい問題です。いつか話し合わないといけない問題でも、「今すぐに話し合いたい」人と、「なんとなくいつかそんな話は必要なんだろうな……」と構えている人では、熱量が違いすぎます。
「そうです。いきなり突きつけられる方はびっくりするし、プライドもあるし、拒否感もありますよね。突然突きつけちゃダメなんだなあって痛感しました」
「今思うと、もっと違ったアプローチがあったかもしれない」と片倉さん。「突然『老後どうするのよ! 体弱ってるじゃん、やばいじゃん』という感じではなくて、自分の話からしてもよかったかなって。
たとえば、『私の老後のこともちょっと考えてこんな保険入ってみたんだけど』って資料を見せて、『ちなみにお母さんたちは、どんな老後プランを考えているの?』とか聞いてみたり。自分の相談という形で、でも実は親の老後を一緒に考える“きっかけ”にできますよね」
いずれほとんどの人が直面する、親の介護問題。コロナ禍を経て、親の老いを痛感する人も少なくないはずです。繊細な問題だからこそ、そのアプローチ方法や選択肢はできるだけ増やしておきたいですね。
―シリーズ「新しい生活様式がしんどい」―
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<取材・文&イラスト/赤山ひかる>
赤山ひかる
奇想天外な体験談、業界の裏話や、社会問題などを取材する女性ライター。週刊誌やWebサイトに寄稿している。元芸能・張り込み班。これまでの累計取材人数は1万人を超える。無類の猫好き。
(エディタ(Editor):dutyadmin)