保護猫を迎えることが主流になりつつある近年、全国各地には個性的な猫カフェがたくさん。しかし、鹿児島県指宿市にある「coworking space necohara」は既存の猫カフェとは違い、作業中、猫に邪魔をされる“ネコハラ”が受けられるユニークな場所です。
こうした運営形態になった背景には、オーナーの鍵山めぐみさんの深い猫愛があります。
猫を最優先にしながら人馴れ&里親探しができる場所を
鍵山さんは2020年1月、保護猫活動を視野に入れた事業母体として、カフェ「はちわれ農園」を立ち上げました。
「当初は保護スペースがほとんどなかったため、カフェ店舗で子猫の里親探しの仲介を少しし、数匹保護しているくらいでした」
ところが、2021年12月に保護依頼が立て続けに舞い込んできて、保護猫の数は急増。そうした状況に置かれ、猫と人を紡ぐ場所を作りたいと思うようになりました。
しかし、一般的な猫カフェは基本的には収益施設となるため、どうしても猫の都合より人間の都合が優先される部分があるもの。鍵山さんは猫が最優先されながら、里親探しができる場所を作りたくて、頭を悩ませました。
「野良猫や多頭飼育現場にいた子、事情があって引き取った飼い猫など、生い立ちはそれぞれ。里親さんを見つけるためには人間に慣れてもらう必要がありますが、その過程で嫌な思いをしたら、逆に人間を嫌いになってしまうことがあります」

猫が嫌な思いをせず、人馴れできる環境とはなんだろう。そう頭を悩ませた時、思いついたのが、ネコハラを受けられるコワーキングスペースでした。
「コワーキングスペースなら、猫たちが好む静かで落ち着いた環境も確保できるなと。“ネコハラ”という、ある意味邪魔でしかない行為をわざわざ体験しにきてくださる方は、きっと猫が大好きで、猫を尊重してくれるだろうと思ったんです」
とことん猫ファーストなコワーキングスペース

日中は寝ている猫が多いことから、営業時間は15:00~21:00。入室には人数制限があり、抱き上げる、大声を出す、猫を追いかけるなどの行為は禁止。猫がストレスなく、伸び伸びくつろげるよう、猫心を最優先にしたルールを設けました。
とことん猫ファーストなコワーキングスペースはSNSで話題になり、多くの猫好きさんが来店。猫たちは日々、パソコンのキーボードの上を歩いたり、書類の上に座ったりするなど思う存分、ネコハラをしています。

「新聞を読む邪魔や編み物の邪魔も得意です。お客様は最初から猫とのふれあいを目的として来店される方も多く、ネコハラを受けるためだけにパソコンを持参される方もいらっしゃいます」
猫がパソコンに乗ると、お客さんは歓声をあげ、写真撮影。「ネコハラ受けるのが夢でした」との喜び声も、鍵山さんは耳にしたことがあります。

「作業するつもりで来られた方も何も進まずに帰られることが多いのですが、みなさん 『また来ます』と言ってくださる。常連のお客様は猫たちの性格を熟知していて、撫でられるのが好きな子のところを順番に回り、みんなを均等に撫でて帰られます」

ヨガを中断して撮影会が始まる“ネコハラヨガ”も開催!
鍵山さんはよりネコハラを楽しんでもらうため、ユニークな企画も開催。過去に大盛り上がりとなったのが、ネコハラヨガです。
「ネコハラヨガはその時、コワーキングスペースにいる猫によって雰囲気が変わります。子猫が多い時期は参加者の体に乗ったり、服の中に入ったりと触れ合いが多め。子猫が少ない時期は、猫に見守られながらのヨガになります」
参加者は猫が近寄ってくると大喜びし、ヨガを中断して撮影会。微笑ましい交流を見て、鍵山さんは目を細めました。
「猫も人も楽しそうだったので、一度開催した編み物教室も定期的にやっていきたいと思っていますね」
企画盛りだくさんの「coworking space necohara」では、肝となる譲渡も進んでいます。
一般的な譲渡会では慣れない環境の中、参加する猫たちが緊張し、本来の魅力を伝えられないこともありますが、いつも暮らしている空間での譲渡であれば、ありのままに近い姿を見てもらうことができるため、里親の決定に結びつきやすいのではないかと鍵山さんは考えています。
「necohara」が広く知られることで行政を動かしたい
行政を動かして、1匹でも多くの猫を幸せにしたい――。そう思ってもいる鍵山さんの目標は、別の場所に同じコンセプトの店舗を出すこと。

「都市部では保護猫活動に取り組む方が多く、意識醸成もされていますが、田舎はまだまだで、行政としての取り組みがないところもあって…。数に差はあっても、保護猫の課題がないところはない。保護猫の問題を解決するためには行政の協力が不可欠です」

だからこそ、自分たちの活動が取り上げられることで、これまで表に出てこなかった部分が露わになり、行政にも課題意識を持ってもらえたら嬉しい。そう語る鍵山さんは猫たちが安心して暮らせ、里親に出会え、猫たち自身が生活費を稼げる自走型のコワーキングスペースを、これからも守っていきます。
無邪気な猫に癒されるネコハラ体験、ぜひ一度楽しんでみてはいかがでしょうか。
<取材・文/古川諭香>
古川諭香
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291
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