近年、「AYA(アヤ)世代」と呼ばれる若い世代のがん患者が抱える問題について、包括的な支援が求められています。AYA世代とは、15歳~39歳の思春期から若年成人世代のこと。就学、就職や結婚、妊娠・出産など、ライフステージが大きく変化するために様々な生活課題が生じるのです。
「がんはお年寄りの病気だから、私にはまだ関係ないと思わず、AYA世代のがんについて知ってほしいです」と語るのは、AYA世代がんについて社会啓発や学術活動をしている、「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」理事長の清水千佳子先生(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター がん総合診療センター/乳腺・腫瘍内科)。
「がんは命にかかわる病気のため、がんと診断されたら、何歳の方でもとても苦しい思いをします。特にAYA世代の方は、治療による体の負担や副作用によって妊娠する力に影響が出たり、学業の継続やキャリアの形成に困難が生じたりするなど、世代特有の生きにくさを抱えることが少なくありません」(清水先生)
AYA世代のがんについて、気をつけておきたいことを清水先生に聞きました。
――AYA世代は、なぜ15歳から39歳とされているのでしょうか?
清水千佳子先生(以下、清水):15歳未満の小児や高齢のがん患者に比べて、医療費の助成や生活面に対しての行政の支援が少ないという点から、この年齢で区切っています。15歳までは保険診療の自己負担分がほぼ公費でまかなわれますし、40歳以上は生活で介護が必要な時は介護保険を申請することができるのですが、この間の世代は支援が手薄なのです。
――なぜAYA世代のがんに注意する必要があるのでしょうか?
清水:「がんはお年寄りがなる病気」と思っている若い人は多いかもしれないのですが、AYA世代の人が亡くなる原因として、事故や自殺以外で、病気として最も多いのががんです。毎年約2万人のAYA世代の方ががんを発症しています。1年間でがんを発症する人100人のうちAYA世代は2人程度の割合です。
若い人ががんを過剰に気にする必要はありませんが、上の世代に比べてがんになる人が少ないからこそ「AYA世代もがんになることがある」と知っておいてほしいと思っています。
がんになることはただでさえ苦しく様々な困難を抱えやすいのですが、若い人はがん患者が少ないために孤立しやすく、周囲の人もそのつらさをなかなか理解するのが難しいのです。
――AYA世代ががんになるとどんな困りごとがあるのでしょうか?
清水:15歳~39歳は、人生で一番変化が大きく様々なライフイベントがある時期です。治療のために学校や仕事を休むことが、キャリアに影響する可能性があります。がん治療はお金がかかりますから、経済的につらいと感じる方も少なくありません。また抗がん剤治療をして副作用で髪が抜けてしまうことがあります。治療の内容によっては卵巣や精巣の機能に影響があるため妊娠しづらくなるかもしれません。
このように、自分が描いていた将来の計画や夢を病気のために変更せざるを得なくなることが、最も多く聞く悩みごとです。
「がんはお年寄りの病気だから、私にはまだ関係ないと思わず、AYA世代のがんについて知ってほしいです」と語るのは、AYA世代がんについて社会啓発や学術活動をしている、「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」理事長の清水千佳子先生(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター がん総合診療センター/乳腺・腫瘍内科)。
「がんは命にかかわる病気のため、がんと診断されたら、何歳の方でもとても苦しい思いをします。特にAYA世代の方は、治療による体の負担や副作用によって妊娠する力に影響が出たり、学業の継続やキャリアの形成に困難が生じたりするなど、世代特有の生きにくさを抱えることが少なくありません」(清水先生)
AYA世代のがんについて、気をつけておきたいことを清水先生に聞きました。
若い世代のがん患者が「孤立しやすい」理由
――AYA世代は、なぜ15歳から39歳とされているのでしょうか?
清水千佳子先生(以下、清水):15歳未満の小児や高齢のがん患者に比べて、医療費の助成や生活面に対しての行政の支援が少ないという点から、この年齢で区切っています。15歳までは保険診療の自己負担分がほぼ公費でまかなわれますし、40歳以上は生活で介護が必要な時は介護保険を申請することができるのですが、この間の世代は支援が手薄なのです。
――なぜAYA世代のがんに注意する必要があるのでしょうか?
清水:「がんはお年寄りがなる病気」と思っている若い人は多いかもしれないのですが、AYA世代の人が亡くなる原因として、事故や自殺以外で、病気として最も多いのががんです。毎年約2万人のAYA世代の方ががんを発症しています。1年間でがんを発症する人100人のうちAYA世代は2人程度の割合です。
若い人ががんを過剰に気にする必要はありませんが、上の世代に比べてがんになる人が少ないからこそ「AYA世代もがんになることがある」と知っておいてほしいと思っています。
がんになることはただでさえ苦しく様々な困難を抱えやすいのですが、若い人はがん患者が少ないために孤立しやすく、周囲の人もそのつらさをなかなか理解するのが難しいのです。
将来の計画や夢を、病気のために変更せざるを得なくなる
――AYA世代ががんになるとどんな困りごとがあるのでしょうか?
清水:15歳~39歳は、人生で一番変化が大きく様々なライフイベントがある時期です。治療のために学校や仕事を休むことが、キャリアに影響する可能性があります。がん治療はお金がかかりますから、経済的につらいと感じる方も少なくありません。また抗がん剤治療をして副作用で髪が抜けてしまうことがあります。治療の内容によっては卵巣や精巣の機能に影響があるため妊娠しづらくなるかもしれません。
このように、自分が描いていた将来の計画や夢を病気のために変更せざるを得なくなることが、最も多く聞く悩みごとです。
10代の子どもたち、どんなことに気をつければ?
――AYA世代のがんには、どんな種類のがんがあるのでしょうか?
清水:AYA世代の中には様々ながんが含まれています。若い人に多いがんとして乳がんや子宮がん、白血病(血液のがん)や骨肉腫といったがんが知られていますが、実際には、様々な臓器のがんがあります。思春期世代は、血液やリンパのがんや、肉腫や脳腫瘍など、「希少がん」といって、非常に稀(まれ)ながんを診断される方が多いのが特徴です。

――思春期の子は親に体を見せなくなりますし、体調が悪くても親に相談しないこともある気がします。思春期はどんなことに気をつければいいのでしょうか?
清水:思春期は、痛みなどの症状があっても、最初は深刻な病気だと思わず、すぐには病院に行きませんよね。「試験があるから」「部活の試合を休みたくないから」と、自分のスケジュールを優先して受診をしない場合もあります。また、AYA世代でがんになる人は少ないので、医療者も最初からがんを疑うことは少ないと思います。そのため、がんは発見が遅くなりがちです。
AYA世代でがんになることは少ないので、親は、過度に不安になる必要はありませんが、体調が悪そうであったら、本人が「忙しいからいいよ」と言っても、一度、きちんと医療機関を受診をして病気ではないか診てもらった方がいいでしょう。
20~30代に多いがんの種類は
――成人がん(15歳以上の人のがん)は、どんなものが多いのでしょうか?
清水:20代になると、血液やリンパのがん、脳腫瘍や肉腫といった思春期世代に多いがんに加え、甲状腺のがん、精巣や卵巣の腫瘍が増えてきます。そして20代後半になると子宮頸がんや乳がんといった女性のがんが増えてきます。
30歳~39歳代では、乳がん、子宮がんが最も多いですが、胃や腸のがん、肺がんなど、もっと上の世代に多いがんも見られるようになってきます。
検診も大切だけど、若い人の乳がん検診は要注意
――子宮頸がんについては予防も可能だとか。どんなことに気をつければいいのでしょうか?
清水:子宮頸がんはHPVワクチンの接種によって予防ができます。子宮頸がんワクチンを接種していない方は、特に子宮頸がんの検診を受けることが重要だと思います。検診で早期発見できれば、がんの治療の負担が減らせます。
――乳がんについては、どれくらいの頻度で検診を受ければいいのでしょうか?

清水:乳がんは女性のがんで最も多く、女性が一生涯のなかで乳がんになる可能性は「およそ9人に1人」といわれています。ただ、あまり若い時からマンモグラフィーを撮ることは、被曝(ひばく)のリスクがあるため勧められません。被曝によって、かえって発がんに繋がってしまうかもしれないからです。
40歳以上の女性は2年に1回マンモグラフィーを
――マンモグラフィーは何歳くらいからが良いのでしょう?
清水:40歳以上の方は2年に1回マンモグラフィーを撮ることが推奨されています。
また血縁者に乳がんや卵巣がんの患者さんが多いのであれば、乳がんや卵巣がんになりやすい遺伝的な体質があるかもしれません。その場合は、家系で一番若くしてがんになった年齢のマイナス10歳くらいから乳がんを意識しておきましょう。
また、遺伝が心配な場合は、「遺伝的カウンセリング外来」を設置している病院がありますので相談してみてもいいですね。
自分で乳がんに気を付けるためには
――自分で乳がんに気を付けるためには何をすればいいのでしょうか。
清水:20歳になったら、お風呂に入る時や着替えの時に自分で乳房や脇を触ってしこりがないか確認する習慣を持ってください。しこりを感じたら放っておかずに病院で診てもらいましょう。勉強や仕事、子育てなどに忙しい年齢ではありますが、病院に行くことが大切です。
――その場合は何科を受診すればいいのでしょうか?
清水:大きな病院で診てもらうためには紹介状が必要なことが多いので、まずはお近くのかかりつけの病院で診てもらって紹介してもらうのがいいですね。例えば内科の先生であっても、その地域の乳腺の医師を把握されているはずです。
最近は乳腺を専門とするクリニックが増えてきているので、もし近くにあるようであれば、そちらを受診するのもいいです。
【清水千佳子先生】
国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科診療科長。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。国立がん研究センター中央病院での研修、米国のM.D.Anderson Cancer Center Medical Exchange Program短期留学を経て、同病院の医員、医長として勤務。平成29年10月より現職。専門は乳癌の薬物療法。AYAがんの医療と支援のあり方研究会 理事長のほか、日本乳癌学会評議員、日本臨床腫瘍学会協議員、日本がん・生殖医療学会理事などを務める。
<取材・文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
(エディタ(Editor):dutyadmin)

