「100歳なんて、おとぎ話に出てくるおばあさんのことだと思っていた」と語る哲代おばあちゃんは102歳。『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』(著:石井哲代、著:中国新聞社/文藝春秋)の主人公です。
広島県尾道市に住む哲代おばあちゃん。26歳で結婚し、田んぼの手伝いをしつつ56歳まで小学校の先生をしていました。子どもはなく、20年前にご主人を失くしてからは一人暮らし。畑の守りをしながら過ごす毎日が、100歳を機に中国新聞の連載になったのです。
哲代おばあちゃんいわく「何でもないことばかりを書いている」という日々は、私達には尊く豊かに感じられます。なぜなら哲代おばあちゃんは、「心をご機嫌にしておく」方法を知っているから。「人を変えることはできませんが、自分のことは操作できます」。そんな暮らしぶりを、ちょっとのぞいてみませんか。
哲代おばあちゃんの長生きの秘訣
哲代おばあちゃんは頬がふっくらと輝いていて、まさに福を呼ぶお顔。しっかりした足腰も健康の賜物です。哲代おばあちゃんの長生きの秘訣は8つ。
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1. 朝起きたら布団の上げ下ろし
2. いりこの味噌汁を飲む
3. 何でもおいしくいただく
4. お天気の日にはせっせと草取り
5. 生ごみは土に還す
6. こつこつ脳トレに励む
7. 良英さんと会話する
8. 柔軟体操をする
特別な健康法はなく、ただ何事にも全力投球という姿が浮かんできます。1日3食いただき、ご飯は1回2膳が基本。好き嫌いなく何でもおいしく食べますが、ご飯に対する敬意は忘れないそうです。ひとりでも必ず「いただきます」「ごちそうさま」は欠かしません。
良英さんというのは、今は亡き哲代おばあちゃんのご主人です。写真を枕元に置き、目線の合う位置に立てかけて会話をするのだとか。朝晩のご挨拶、お仏壇にも朝夕きちんとお酒をお供えします。さらに脳トレに柔軟体操と、メリハリをつけた生活が、哲代おばあちゃんの元気と若さの秘訣なのでしょう。
ありきたりの毎日は、ありきたりではない
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哲代おばあちゃん、2021年4月の日記に「100年生きてきてこんな見事な桜は初めて」とありました。千本桜を眺めての感想です。桜は毎年咲くものと、私達は漠然と考えていますよね。ところが数日後、哲代おばあちゃんは足を痛めて入院してしまうのです。
再入院を含めて約1ヶ月の入院生活。ありきたりの毎日は、ありきたりではなく、いつ何時危機に見舞われるかもわかりません。毎年咲く桜を今年も見られたという些細な出来事が、本当はかけがえのない幸せなのです。「毎日同じようなことの繰り返しじゃけど、それがどれだけ幸せなんかが分かります」と101歳を前に、「また一つ勉強した」という哲代おばあちゃん。素直で純粋で素敵な女性だと頭が下がります。
しんどいことは手放す
2022年、「冬布団の上げ下ろしがこたえるようになってきました」という102歳になった哲代おばあちゃん。80歳を過ぎたあたりから、降参するのが早くなったと言います。できないことにスポットをあてるのではなく、できることをいとおしみ、自分をほめて、自信に変えるのだとか。寄る年波には勝てないのは、誰もが共通とするところ。
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また人間関係でも、生きている限りはいざこざや理不尽な体験は避けられないでしょう。降参するというのは、「人は人、自分は自分」、それぞれを尊重するという知恵。「煩悩やねたみといった、しんどいことは手放すに限ります。その代わり、うれしいこと、楽しいことは存分に味わうの」というのが、哲代おばあちゃんの信条。鬱々としたマイナスの感情で、時間を支配されてしまうなんてもったいない!「生きとる間は楽しまんと損ですね」と哲代おばあちゃんは今という瞬間を存分に楽しんでいます。
私らしくいるための5カ条
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「若い頃は悩みや葛藤を抱えて、そりゃあ、とがっておりました」。苦労を乗り越えた末にたどり着いた、哲代おばあちゃん流「私らしくいるための5カ条」を紹介します。
1. 自分をまるごと好きになる
2. 自分のテンポを守る
3. ひとり時間も大切
4. 口癖は「上等、上等」
5. 何げないことをいとおしむ
今でこそいつもニコニコしている哲代おばあちゃんですが、子だくさんがあたりまえの時代に子どもがなかったのが、かなり辛かったようです。でも「しんどい時があったからこそ、今の暮らしが喜びに満ちているんかもしれんなあ」と今は微笑んで振り返るのです。
2023年の抱負は「無事」
2023年の春に、哲代おばあちゃんは103歳になりました。2023年の抱負は「無事」。健康で元気で、よく寝てよく食べよくしゃべる。それが一番の幸せなのです。ありふれたようでいて、ありふれていない、究極の幸せ。哲代おばあちゃんの願いは「戦争のない平和な世界になりますように。どの国の子どもも安心して暮らせますように」。
このかけがえのない祈りと、哲代おばあちゃんの笑顔が、日本だけではなく生にも届きますようにと、願ってやみません。
<文/森美樹>
森美樹
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx
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