―連載「沼の話を聞いてみた」電話占い師の沼――
ギャンブル、不倫、整形、ときに心の病。何かしらの沼で悩める人たちから、さまざまな相談を受けてきた元・占い師Kさん。
Kさんが「委託の電話占い師」として登録していた会社は、専門性が低かったようだ。占い知識はゼロというKさんに対して研修や指導等は一切なく、ぶっつけ本番で業務にあたらせていた。それゆえ「一般的な占い師」はどのようなことをしているのか? 勉強のため、同会社に登録している占い師の現場も見せてもらっていたという。
Kさんの会社は「電話占い」だったので、利用時間が長びくほど、売り上げにつながる。そこでそれぞれのテクニックが光っていた。
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楽しませつつも、時間稼ぎ
「プロフィール写真でキャラが立つように工夫するのは当然として、時間稼ぎのテクニックは面白かった。とある占い師さんは、はじめに『まずは心を落ち着かせましょう』と言って、クリスタルボウルのようなものを鳴らしながら瞑想タイムを設けるのよね。シャララ―ンと音が鳴って静まり返るその時間は、まるでこれからヨガが始まんのかな? みたいな雰囲気」
「で、それは何かというと、要は時間稼ぎ。本当にその手順が必要な人もいるんだろうけど、少なくとも私が話を聞いた範疇では、みんな時間稼ぎの手法だと話していましたね。もちろんそうした時間を設けず、淡々と相談を聞く人もいるけれど」
同じ目的では「あ……少しお待ちください……。いま……ビジョンが見えてきました……」と会話を引き延ばしながら、演出するパターンもあったという(繰り返すが、世間一般の話ではなくあくまでKさん周辺の場合は、である)。神秘的な演出で客を楽しませつつ、利用時間をひっぱる=売り上げにもつなげるという、腕の見せどころだ。
ちなみに筆者が過去取材してきたなかでは、放置プレイを思わせる「遠隔ヒーリング」が非常に効率的だなと思う。
思った以上のハードワーク
しかしその「時間」が、Kさんたちを苦しめるポイントでもあった。Kさんが受けてきた仕事には、12時間ぶっ通しで愚痴を聞くというものもあった。トータル23万円と利用料金は高額だが、夕方6時から翌朝6時までの耐久レースだ。売れっ子になればなるほど拘束時間がとにかくハードになる。
「受付開始は朝の9時。なのに深夜対応も要求される。会社が予約を受け付けるので、自分の裁量ではコントロールできない。ギャラは売り上げに応じて。バックの割合が大きくなったり、月収が100万を超えたりしたときは『法人にしたほうがいい』とかの真っ当なアドバイスをくれたこともあるけど、まあブラック企業並みに働かせられたね」
「深夜利用の客も多いので、終業は朝の5時とか。平均睡眠時間は1日3~4時間。朝方シャワーを浴びて仮眠して……それで相談内容は、そこそこヘビーでしょう。病んで辞める人もたくさんいるし、それでも自分には迷える羊たちを導く使命がある! と万能感から辞められない人も」

「そんな感じでその会社の場合は、占い師側も健全とはいえず、なんだか混沌としていたわ。だから、私もこんなことはいつまでもはできない、と数年で辞めてしまって」
運営会社の正体が明らかに
登録する際、運営会社と交わす「誓約書」の内容も、驚くべきものだった。会社を通さず客を取った場合、一千万円払うという書面にサインをさせられるのだ。いわゆる「直引き(じかびき)」禁止令だ。
「まるで性風俗の店みたいだって(笑)? 本当にそのとおりで、運営の正体がヤバかった。実際、辞めたあともお客さんから電話がかかってきてしまったので数件対応してしまったら、あっという間にそれがバレ、誓約書の金額を請求されちゃって。だからこちらも弁護士に相談したら、得た利益以上を支払う義務はないということだったんだけど、そこで判明したのが、運営会社が暴力団系だってこと。弁護士をはさんでのらりくらりやっているうちに、運営会社そのものがなくなって、結局そのままに。一千万とられなくてよかった(笑)」
「暴力団経営のタピオカ屋」のように、サービスそのものに違法性はないだろうが、資金や顧客情報の流れる先を考えると、大分怖い。
個人情報にはご注意を
「私は占いそのものに真面目に取り組んでいなかったので、占い業界の是非を語れる立場ではないけれど、利害関係のない誰かと話したい、親身に相談に乗ってほしい。そういう気持ちを受け止める先が、とても限られていることは問題なのかと思ってるね。話をすることで気持ちが落ち着いた、悩みを客観的に整理できた、抜け出すきっかけになった……占いというサービスを通じて、何かしらの前向きな結果を得られる人がいればいいなとは、いまでも思ってる」

「でも、いまはネットが発達しすぎているので、悩みという形で自分の個人情報を相手にわたす怖さは認識したほうがいい。後ろでどんな組織とつながっているかわからないから」
向いている! 稼げる! そう勧誘されて占い師になったKさん。登録会社の占い師売上トップに踊り出て、月収は月100万円超え。常に利用待機している客がいる、超人気ポジション。誘い文句のとおりとなったが、沼からの相談も業務形態も、想像以上にハードすぎて「沼の相談窓口」からは、退いたのだった。
<取材・文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
