―連載「沼の話を聞いてみた」電話占い師の沼―
他人の「沼の話」を聞く、大先輩がいる。元占い師の友人、Kさんだ。
Kさんは占い師といっても、占星術や四柱推命のような専門的な占いを学んでおらず「話を聞くのがうまい」「臨機応変に応対できる」という人柄を見込まれ、友人からスカウトされて電話占いの占い師として業務に就くことになったという。
「じゃあ何をもって占いというのかって? 運営会社からの提案で“スピリチュアル占い”ってことになってね。霊感でアドバイスします!というふんわりしたプロフィールだったな。宣伝写真は黒い布を頭からかぶって目だけを出すクラシカルなスタイルで(笑)。もう15年以上前の話なんだけど」
聞き上手で年収100万超
幅広い相談事ができそうだからなのか、Kさんの話がうまいからなのか。あっという間に運営会社のなかで売り上げトップとなり、月収100万円超えになったという。
Kさんは元々占いが好きだったわけではまったくなく、またスピリチュアル系の知識も皆無。その状態で対応マニュアルも何もなく、採用後は「自分で考えろ」とぶっつけで本番で業務を始めさせられた。
そこでたくさんの「沼の話を聞いた」という。比較的よくあったパターンが次の3つだ。
沼の相談その1「人に言えない話を聞いてほしい」
彼と私の相性は? 彼は私のことをどう思っている? いつの時代も恋愛相談は占いの定番。Kさんの利用客も同様だったが、なかでも「不倫沼の話を聞いてほしい」という需要が圧倒的に多かった。
「奥さんが留守のとき、年下彼の家に遊びにいったんだけど、奥さんの下着すっごいババ臭いの!」ーーリアル知人にはなかなか言えないであろうそんな赤裸々な話を、電話越しの占い師にぶちまける。
なるほど巷を見ても、電話占いは「何でも聞いてくれる」という需要があるようだ。1分100円でも(当時のKさん料金)。
沼の相談その2 ギャンブルの願掛け
ギャンブル沼からの相談は、男性客が多かった。毎朝9時55分に電話をかけてくる常連客はパチンカー。

「どの台が出るか?」という予想を、Kさんに委ねるのだ。偶然出た数字に運を委ねたいのであれば自分でサイコロでも振ってはどうかと思うが、神社で賽銭を奮発して願掛けするようなノリなのかもしれない。
「その店にどんな数字のパチンコ台があるか知らないけど、頭に降りてきた数字を適当に言うのよ。たとえば、下一桁が3とか。すると『その番号はないんだよなあ~! あ、でもいつもと違う台選べってことかな? サンキュー!』と何かしらの結論を自分で出して、数分で切っちゃうの」
Kさんが登録していた運営会社は電話占いの最低利用時間15分からだったため(1分100円なので1500円だ)、効率のよいありがたい客ではあったという。「当たったよ!」と喜びの報告電話をかけてくることもたびたびで、口コミで広がるのか同じような利用客は結構いたという。そのお金でまた利用してくれるのだから、喜ばしい話なのかもしれない。
沼の相談その3 最後のひと押しをしてほしい
セックスワーカーからの整形相談もある。漫画「明日、私は誰かのカノジョ」(をのひなお著、小学館)のヒロインは整形沼のセンパイから実体験をもとにした有益なアドバイスをもらっていたが、整形に詳しいわけでもない占い師に相談して大丈夫なのだろうか?

「話を聞くと、店のNo.1になるための作戦も金銭面も施術内容もすごく計画的でよく調べてあって、目標もはっきりしている。彼女のなかではほぼ結論が出ているけど、最後のひと押しがほしいって感じだったかな。お金をもらっている以上できるだけ前向きなアドバイスをしたいから、誰かに言われて整形するとかではないかぎり、基本は応援してたよ」
ほかにも「不倫相手の子どもを妊娠したが、産むべきか」というものもあった。これもまた、結論は本人のなかで出ていたが応援されたいという気持ちだったようだ。
Kさんの話には「占い」の要素がほとんど出てこないが、利用客が求めているのは不思議な力ではなく、精神的な応援なのだろう。
「何かの沼にハマって電話してきた」とはやや事情が異なるが、こんな相談もあった。
困惑相談その1 「今日は地震きますか?」
「子どもが帰宅するまで、地震きませんか?」「主人が会社に着くまで、地震きませんか?」「母の外出中、地震がきませんか?」ーーそれよりも交通事故に遭う確率のほうが高そうだが、とにかく地震だけが心配だという。
「強迫観念症」という言葉が頭に浮かびつつ、不安を聞く係に徹していたというKさん。その客は週1ペースで利用していたが、最終的には「夫が精神病院に連れていくというのです。私は病気じゃないのに」と言っていたそうだ。
「ちゃんと考えてくれる夫がいるようでよかった。医療機関につながったことを祈るしかありません」
困惑相談その2 「朝まで愚痴を聞いてほしい」
利用時間12時間という耐久レースもあった。医療関係者が、朝まで愚痴を聞いてほしいというのだ。それは電話占いでなく飲み屋でもいい気がするが、深夜に女性ひとりで飲酒は物騒かもしれないので、なるほどこういう電話占いの使い方もあるのかと感心してしまう。

ただし料金は、夕方6時から翌朝6時までのトータル23万円。夜間も対応していたので、そういった需要は多かったという。それで朝は9時から業務開始というからすごい。
困惑相談その3 「足が痛い」
足が痛くて歩けない! 占い師でなく医者へ行ったほうがいいと思うが、傷みをどうにかしたいわけではなく親身に対応してもらいたいようだ。
「トイレまでは歩ける? じゃあ今日はお天気だから、ドアの外まで出てみようか。そんな感じで話をしてみると、意外と普通に歩ける人だったわ。『病院を紹介してくれ』ってのもよくあったかな。どこを紹介するのか? どこそこの方角の病院がオススメですよというと、納得してくれるわよ」
占い師もまた、沼にいる
そのほかカップルが交互に電話口に出てきて痴話喧嘩を聞かされる。明日発表の娘の受験結果が知りたい、癌になったけどどうすればいいか等々……。Kさんの話には人の心の不思議さと面白さが、凝縮されていた。
さて、余裕シャクシャクで電話占いという業務をこなしているかのように思えるKさんもまた、ブラックな沼にいた。登録会社がヤバいのだ。
<取材・文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
