なんだか“やる気”が出ない人はいますか?「まだ寒いからやる気も冬眠中」「季節を先取りして春眠暁みたいなやつ…」「お母さんのお腹に“やる気スイッチ”を置いてきた」…理由はともかく、それぞれにやる気が起きないということだけは、この世でたしかなことの一つです。
そんな悩める皆さんに処方箋を示す、ベテラン精神科医の春日武彦氏と『5時に夢中!』(TOKYO MX)でもおなじみ特殊系小説家の平山夢明氏の劇薬コンビによる『「狂い」の調教 違和感を捨てない勇気が正気を保つ』が2023年3月1日に発売されました。
今回は同書の中から、実際に平山氏が「やる気」が起きた経験と、やる気スイッチをオンにする方法についてののトークをお届けします。Twitterでも話題の、春日医師に言われた“仕事が劇的に進んだ魔法の言葉”の背景はどのようなものだったのでしょうか?

春日 武彦, 平山 夢明『「狂い」の調教 違和感を捨てない勇気が正気を保つ』 (扶桑社新書)
原稿が書けなくて診察室を訪問したら「白衣モード」で威圧感
――企業の社内メンタルヘルス研修を依頼された春日・平山両氏は、「やる気が起きないという病理」をテーマにふたりで講師をつとめることに。“やる気が起きるために必要な条件”の一つとして春日医師は「状況、環境の単純化」を挙げましたが、編集者&ファン泣かせの遅筆で知られる平山氏は思い当たるフシがあるようで…。
春日武彦(以下、春日):えーと、それから「状況、環境の単純化」っていうことで。やっぱりとっ散らかってる状態、ダメっすよね。
平山夢明(以下、平山):それも昔、先生に言われましたね。
春日:じゃ、その辺のお話を平山さんから。
平山:はい、ちょうど今からもう20~30年ぐらい前ですよね。
春日:松沢病院(編集部注:東京都立松沢病院。前身の東京府癲狂院は1879年に開設され、長い歴史を持つ)に僕がいた頃。
平山:そうです。その頃、僕が全然書けなくて。「書こう」「書こう」の「アクセルベタ踏み状態」になってたんですよ。アクセル踏んでブレーキ上げちゃってるんで全然動かなくて。ただ実話怪談を書いてたんで、その当時、コンビニでその本が売られてたんですよ。コンビニだと発売日が決まってるんで、絶対にズラせない。
なのに「全然書けない」って言って。それでもやっぱり書いて納期に押し込むじゃないですか。それだと充足感がないんで、だんだん虚しくなってくる。そのときに俺、春日先生に「なんか精神科のほうでは、飲むとやる気が爆上がりする薬があるそうですね」っていう話をしたら「なんの話をしてるんだ」って言われて。「一度、話を聞いてやるから」っていうことで。そのときはもうちゃんと「病院に来なさい」っていう話で、病院にお伺いして。

春日: 本当に来たんでびっくりしました。仕事してたらさ、外来看護師が不審そうな顔で「あの、こんな患者さんが来てます」って。
平山:そう、俺行ったんですよ。だってもうね、あの有名な松沢ですから。「あ、先生、ここだ」と思って。で、病院に僕が行ってハッと思ったのは、今ね、こうやって目の前にいるように穏やかな先生じゃないです。ニコニコして何を言っても抱きしめてくれるようなね、感じがあるじゃないすか。けど、白衣を着て……あんときは、ちょっと別室でしたよね。
春日:うん。そこだけちょっと離れた診察室。
平山:応接室じゃなくてやっぱ、診察室ではあったのかな。そこ行って、白衣で先生が見えたら、やっぱちょっと違うんですよ、雰囲気が。なんというか「白衣モード」なの。
春日:そりゃ、さすがに商売中はそれなりに、ね(笑)。
平山:全然、別に睨(にら)むとかないんですけど、「とりあえずお前、噓は言うんじゃないぞ」っていう感じ。
春日:威圧感があったんだ(笑)。
仕事が劇的に進んだ魔法の言葉
平山:「噓やごまかしは俺は分かるからな」っていうのが「デーッ」って出てたんで「あ、これはダメだ」と思って。ほいでとりあえず「話をしろ」って言われたんで、いろんな話をしたら春日先生がまず一発で「部屋がめちゃくちゃ汚いんじゃないか」って言われて。当時は事務所で仕事してたんだけど、その通りだったんですよ。
なんでかっていうと、ベタ踏み状態になると、頭の中が「すべての時間をその仕事に費やして、少なくとも何かを考えてないといけないんじゃないか」って金縛り状態になっちゃう。もう、遊んじゃいけないわけ。とにかく、それ以外のことをしちゃいけない。余計な想像すらできなくなってくる。
「掃除や片付けをする」より「作品のことを考えるべき」って自分で思っちゃって、それがずーっと半年も1年も積み重なるから、もう家の中はゴミ屋敷みたいな状態になってた。で、春日先生に「とりあえずキレイにしなさい」と言われて。「それでもダメだったらもう1回、ちょっと考えよう」みたいな話があって。その日は薬ももらえず、ただ叱られて帰ってくるっていう(笑)。「お前、家、汚ねーだろ」って言われて帰ってきたんですよ(笑)。
それでも、もう他の手がないんですよ、そのときの僕は。まったくないんで。「えーっ?」って思うじゃないすか、普通。
「家や部屋が汚いからキレイにしろ」って当たり前の話で。でも、プロが言ったんで。大名医じゃないですか。もう扱ってる患者の厄介(やっかい)さでいったら日本有数の人が「お前、掃除しろ」って言ったんで、「掃除かぁ……」って思いつつやったんですよ。そのときはもう「掃除という名の治療だ」って自分で決めて。床をグリッドっていって……あの死体が埋められているときに(警察が捜査で)テープを貼るじゃないですか……グリッドってマスにして、そこで1個ずつね、スポンジで磨いて。
トイレもピッカピカにして、いらないものは全部捨てて。するとまた、いらないもの出てくるんですよ。もう目が変わるっていうか、「捨てよう」と思った瞬間に捨てるものが見える。「捨てまい」と思ってると捨てるものは見えないじゃないすか。
大掃除が終わって「キレイになったなあ」と思ったら、その瞬間にサイドブレーキが降りたんすよ、バーンと。引っ張ってたのがポコーンと外れたの。結局3日かかったんですよ。部屋を3日間朝から晩まで掃除して、ほんで帰って次の日来た瞬間に、「あっ。なんかこれ、すっきりしてるな」と思って。
その日、まず3本~4本、書けたんですよね。話がポンポンポンって。なんでかって言ったら、とりあえずキレイなんで、焦(あせ)らなくて済むんですよ。書いた話がもしダメでも、「いいや、部屋がキレイだから」っていう、わけの分からない感じ(笑)。

今までのマックスでダメだったところが、部屋がキレイになってるっていうだけで「今の自分の状況はまだ悪くない」ってちょっと思えるようになってきた部分があって。それで先生のところへ行って、「いや、ちょっと書けるようになりました」って。僕、その年に3~4冊出したんですよ、怪談。一気に出せて。先生に「どうしたことですかね?」って言ったら、先生がおっしゃったのがね、僕はいまだにそれは確かだなと思ってるけど、「頭脳労働をしたり創作活動や仕事といったタスクをこなしていくときに必要なのは『人間としての環境』であって、汚いとか、ぐちゃぐちゃになってると『巣』になっちゃう」っていう。
「動物の巣と一緒だ」って。そこでは能率が――脳の中の活性が全然高まらないんだ。ただ居心地はいいわけ。自分の匂いとか、そんなのはもうべちゃべちゃついてるから、「そこでは人間としての脳の活性みたいなもののレベルが下がっちゃうからダメだよ」って言われて、「はぁー、やっばり春日先生の言葉は薬だったんだな」って(笑)。
あれは僕はもう本当感謝して、いろんなとこで書いて。ツイッターでも結構、いい評判がつきましたけど。
春日:よかったですね(笑)。
平山:ありがとうございます。
春日:次、行きますね。
「今、やる気がしない」ってのは、だいたい雑になってる
――ここでは、やる気を起こそうとしても「足を引っ張りがちな心理」について説明してもらいつつ、悩める研修参加者たちが事前に提出した相談に答えてもらえましたら。
春日:「足を引っ張りがちな心理」として、「『雑な振る舞い』モード」ってのに注目してみたいんだけどね。ちょっと事前質問のですね、「プライベートでの悩み編」の一部を先に見てみましょう。8番から12番まで、まとめて読んでいただけますか。

――はい。では、事前に集まった質問ですが、
「⑧漠然(ばくぜん)とした虚無感・不安感との付き合い方」
「⑨人生が停滞しているように感じたときにはどうすべきか」
「⑩日常で『楽しい』と感じることがほとんどありません。『楽しい』という感覚を取り戻す方法、あるいは『人生の暇つぶし』としてオススメの方法を教えてください」
「⑪コロナ禍になってから、気持ちがすっかり不安定になってしまった。以前のように心に安定を取り戻すにはどうしたらいいのか」
「⑫コロナ禍で人と会うことも少なくなり、独り暮らしで大した趣味もないので、毎日が索漠(さくばく)としてしまいます。救いはあるんでしょうか」
春日:はい。こういうのってさ、どれも心の解像度(かいぞうど)が非常に低下してるっていうか、画素が粗(あら)っぽくなってて、だから精神状態が雑になってるんだと思う。雑になるとさ、投げやりになったり、詰めが甘くなったり、自己嫌悪に陥ったり、無敵になったり、不安になったりする。
だから、心の解像度をどう上げるかということなんだけど、そうなるとね、とにかく目の前の仕事とか家事とか整理整頓など、あえて丁寧にゆっくり心を込めてやる。そうするとその結果としてささやかな達成感とか満足感、あるいは忘れていた感覚っていうのが呼び戻されて、きめ細かで充実した日常が蘇(よみがえ)って、やる気スイッチもオンになってくるというふうなことがある。「まずは丁寧に目の前のことをしろ」っていうね、ある意味当たり前といえば当たり前の話になってくると思うんですよね。
「今、やる気しねえんだ」ってのは大体、雑になってるんだからさ、そこはね、部屋を片付けるみたいなのも含めて、「丁寧に、まずは手近なもんからやってみろ」っていうことになると思うけどね。
恥の器はいつも満タンに

平山:ここで拝見したところでちょっと思ったのは、他人にどう思われようともう構わないんで、やりたかった趣味みたいなのを始めるといいんじゃないかな。あのね、割と昔の年寄りってみんな趣味を持ってたじゃないですか、僕らの上の世代っていうのは。金魚育てるでもなんでも趣味を持ってたんですよ。
ところが今の40代から下の人たちって、やっぱり小さい頃から一生懸命勉強したりなんかしてきたせいかどうか分かんないんだけど、ゼロから組み上げていくような趣味があんまりない。もうある程度用意されている、定食屋に行って、はい食べるだけみたいなゲームとか、ああいうのはあるんだけど。ゼロから本当に自分がちょっとずつ進めていくような趣味ってあんまりないような気がするんですよね。
釣りの趣味を持ってるような編集者は、やっぱスピリッツ強いですよ。別に趣味と仕事を分ける線を引く必要は全然ないけど、趣味って映画を観たりするのと同じように、没頭できるじゃないですか、その時間だけだから。
あとはなんだろうな、スポーツを始めると良いような気がする。なんでかっていうと、恥かけるので。
春日:ああ、恥ね。なるほど。
平山:だって初めてやるじゃん。うんといっぱい恥かくじゃないですか。「恥の器」っていつもいっぱいになってるほうが僕はいいと思うんですよ。慣れるから、恥は。
春日:うん。
平山:これ、恥の器が空っぽになると、入ってきた恥にすごく敏感に動いちゃうんですよ。「うわー」って。「やっちゃった」と思うんだけど、でもね、常日頃から器いっぱいに恥があると、「どーも、すいません(笑)」みたいな感じで対応できる。なんでこれを言いたいかっていうと、僕、芸人に仲間が多いんですけど、あいつらはすごい心臓が強いんですよ。
春日:タフだよね。
平山:お客が全然笑わなくても平気で帰ってきたりするんで。「お前、なんで?」って言ったら、「いや、やっぱり最初はもう本当に落ち込んで、震えたりもしてたんだけど、そのうちコップがいっぱいになって、ある日、気にならなくなる。だから全然平気なんですよ」って言ってましたから。ただ、そいつは芸人なんで、「それが気にならなくなったらダメだろう。だから売れないんだよ」って言いましたけど(笑)、でも、一般の人なら良いわけじゃないですか。
ただ、会社だったり、恋人や家族の前でじゃできないかな? イヤだから。刺さるから。でも、「ダメですよ。そういうこと」と怒られても、「すみません」とか言って、自分から「ニセの恥」を詰めこめばいいような気がしますね。
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【春日武彦(かすがたけひこ)】
1951(昭和26)年、京都府生まれ。医学博士。日本医科大学卒。産婦人科医を経て、精神科医に転進。都立松沢病院精神科部長、都立墨東病院神経科部長などを経て、現在も臨床に携わる。著書に『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎新書)、『猫と偶然』(作品社)、『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)、『奇想版 精神医学事典』(河出文庫)、『鬱屈精神科医、占いにすがる』(河出文庫)などがある。
【平山夢明(ひらやまゆめあき)】
1961(昭和36)年、神奈川県川崎市生まれ。法政大学中退。デルモンテ平山名義でZ級ホラー映画のビデオ評論を手がけた後、1993年より本格的に執筆活動を開始。実話怪談のシリーズおよび、短編小説も多数発表。短編『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社文庫)により、2006年日本推理作家協会賞を受賞。2010年『ダイナー』(ポプラ文庫)で日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を受賞。最新刊は『俺が公園でペリカンにした話』(光文社)。
<文/山崎奎司>
(エディタ(Editor):dutyadmin)

