「当店の麦味噌が『味噌』と名乗れなくなりそうです」先日、ツイッター上で大豆を使わない「麦みそ」の表示をめぐって大きな話題となりました。
伝統の「麦みそ」に県が行政指導、一転取り消し、謝罪
愛媛県南予伝統の「麦みそ」が食品表示に関する法律(景品表示法)に違反すると行政指導があったことに対して、指導を受けた事業者が連名で「要望書」を提出。主旨は、宇和島で長く継承されている食文化の存続を強く訴えたもので、内容はツイッター上でもアップされて拡散されました。これがマスメディアでも取り上げられるほど大きな話題となったのです。
この事態を受け、愛媛県は11月4日に文書指導を取り消し、25日に中村時広知事が定例記者会見で「地域の食文化を守る視点が欠けていた」「地域の方や事業者に心配をおかけした。おわびを申し上げたい」と謝罪しました。
さてさて、ここから何を学ぶべきなのでしょうか?食品表示に関する問題はこれまでにも数多くあり、最近ではトロピカーナがメロン果汁2%なのに「100%」表記するなど、常識を疑うような違反事例があることも忘れてはなりません。
ここでは難しい法律の問題や、一つの正解を決めるようなことをするつもりはありませんが、消費者が商品選びをする上で損をしない、不快な思いをしないために最低限知っておくべき知識と、今後おさえておくべき大切な視点について確認をしてみようと思います。
宇和島麦みそは、何が問題だったのか?
まずは今回の宇和島麦みその表示問題をきっかけに、食品表示について知っておきたい2つの法律を確認しながら、表示問題のあいまいさや難しさについて確認していくことにしましょう。
●食品表示法
食品表示に関する基準を定める法律で、食品衛生法・JAS法(農林物資の規格化等に関する法律)・健康増進法の三法の食品表示に関する規定を一元化した法律として平成27年4月に施行された。今回の麦みそについては、大豆を使用していないという点から違反にあたるが、議論の焦点は景品表示法に違反するか否かである。
●景品表示法
一般消費者の利益保護を目的とする法律で、表示の義務付けを制度趣旨とする食品表示法と異なり、特定の表示の禁止を趣旨としています。
具体的には、①優良誤認表示(品質が実際のものよりも著しく優良であると示すもの)、②有利誤認表示(取引条件が実際のものよりも著しく有利であると示すもの)、③その他の不当表示の3つの不当表示について規制している。
今回の麦みそは本法を厳しく解釈した上で違反と判断されていたが、その後愛媛県は総合的な判断をした上で解釈を変更、指導取り消しに至りました。
半田そうめんや沖縄そばでも以前に同様な問題が
実はこのような問題は過去にも起こっています。例えば、徳島県の「半田そうめん」。JAS法では、半田手延べそうめんは「ひやむぎ」に分類されるものの、江戸時代より続く伝統と麺文化の地域性が認められ、特別に「そうめん」と表記できることに。
沖縄そばも同様で、食文化の存続をかけて3年間行政に説明を続けた結果、呼称の存続が認められています。
つまり、沖縄そばのケースよりも今回の麦みそのケースでは行政の対応がスピーディかつ柔軟になっているという点は、特筆すべき点だと感じました。

さらに消費者として心にとどめておきたいのは、製造者や地元関係者の真摯な姿勢です。
つまり、私たちは消費者として行政を批判するしない云々ではなく、食文化の継承を担う作り手の想い・志が伝わるよう、SNS上でも賛同することが可能な時代になっているという点は、今回の問題から得られた嬉しい気づきではないでしょうか。うやむやにされがちな問題について、誰もが疑問を呈する権利や場があることを、再確認できたように思います。
「キリ」の表示が「クリームチーズ」から変更したワケは?
ここでもう一つ事例をご紹介しましょう。世界的にも有名ブランドとして愛されている「キリ」が、「クリームチーズ」と表示しなくなったのをご存じでしょうか?
実は今年9月に世界統一でレシピ変更が行われ、日本における「プロセスチーズ」の条件である乳固形分40%以上に該当しなくなるために「クリーミーポーション」に変更されました。
ベルジャポンに変更理由を聞いたところ、「原料調達や環境配慮からの観点で世界共通で仕様改善をした」とのこと。しかしながらこの事態を冷静に考えると、乳固形分を減らしたという事実に他なりません。キリはそれ以前にも、個包装タイプの1ポーションの重量を18gから16.3gに減らしています。本商品に限らず、このような変更に関心を持っておくと、今後の商品選びをする上で大きな判断材料となるに違いありません。
ここでわかるのは、昔ながらの製法を守り、本来のクリームチーズを作り続けている製造者との考え方の違いです。キリは伝統的な製造方法、ブランド、コストなど、作り手の守りたいコトがパッケージ表示にもしっかり反映されるという点で、わかりやすい事例になっています。
食品表示への意識を高めることは、損をしないことにもつながる
私たちが知らないところで損をしないためにも、食品表示の変更や動向に関心を持ち続けることは重要です。
これからの時代に重要なのは、値上げラッシュで気になる「商品価格」の視点だけではなく、商品表示を丁寧に確認する消費者としての意識・姿勢。食品表示に目を向けること。ひとりひとりがよく見て、よく考えること。そして自分が満足できる商品を選ぶこと。
これらの行為こそが、作り手に健全な精神を宿すことにつながると信じたいところです。そして同時に、私たちが生きる日本、世界、地球における大切な食文化の継承にもつながるのではないでしょうか。
<文/食文化研究家 スギアカツキ>
スギアカツキ
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。ビューティーガール連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12
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