―新連載「沼の話を聞いてみた」vol.1 後編―
科学的根拠の乏しい健康法や母親たちを追い詰める育児出産周りの言説など。さまざまな「謎物件」に沼った体験談を聞いていく連載第1話の後編では、マルチ商法2世であるEさんの話を、引きつづき聞いていこう。
【vol.1前編を読む】⇒「マルチ商法にハマる人は身近に結構いる」“マルチ2世”の苦労とは
幼馴染の家もマルチ商品だらけ
物心ついたときから母がマルチ商法の会員。そうした環境で、メリットをひとつだけ感じている。「しくみをしっているから、免疫があるんです」
Eさんの周りも、似たような状況の家庭が多いという。Eさんは小学校から大学までを、私立の一貫校で教育を受けている。
「ずっと似たようなメンバーで持ち上がってきて付き合いも長いので、お互いの家に行く機会も多い。すると自分の家と同じような、マルチ商品があるんですよね」
「うちにはもう死ぬほど在庫ある!」「無水鍋のシフォンケーキ飽きた」「プルーンエキスのおにぎりは、わりとうまい」「サプリはかんべんしてほしい」。小中高とそんな「マルチあるある」が飛び交っていたという。恐るべし、子どもたち。
ところが大学へ進学すると、一部に不穏な空気が漂ってきた。
「いわゆる外部生(高校や大学から入ってきた生徒)が、マルチにどハマりして、勧誘活動を始めたんです。それまで普通に付き合いやすいヤツだったのに、突然夢を語り始めて、いまで言う意識高い系になった。『あいつはヤバい』とウワサが広まり、あっという間に周りから浮いて孤立してしまった。ちょうどそのころって、マルチの華やかな成功者の本が出版されて、出版記念イベントを渋谷のカフェとかでよくやっていたのを覚えています。一度誘われて参加して、自己啓発本みたいなのを買ったかな」
あえて自分から勧誘されてみる
多少は付き合うものの、相手の手中には収まらないマルチ2世たち。
「要は、マルチ商法に対して免疫があるんですよね。ぜんぜんありがたくない免疫ですけど」
それでも付き合いのいいEさんは、勧誘とわかっていて誘いに応じることがたびたびあった。
「意地悪心からか、野次馬根性なのか。パーティとかで女の子に声をかけられ、家が近くだからと誘われる。そしてついていくと、もう1人が出てきて2対1とかでデモンストレーションがはじまるんですよ。この鍋で、こんな料理ができまーすみたいな。僕は料理好きですが、単純に見ても一般的な調理器具の4~5倍は高い。ものが違うというけれど、似たようなスペックでずっと安いものがたくさんある。デモンストレーションに飽きると、だいたいそんなことを伝えていました」
Eさん姉も、同様に勧誘されることが多い。
「老後の不安を煽って、副収入になるよと勧められたと話していました。寝ていても月5~6万入ってくるんだよ!だそうで。姉とふたりで、そんなうまい話は転がっていないと苦笑いです。親たちの活動をさんざん見ていますから。母をマルチ沼に引っ張り込んだ友人Hさんのように、それなりの収入を手にしている人は勉強会だパーティだと頻繁に主催して、会員獲得のために必死で働いている」
マルチ商法に限らずスピリチュアル教祖などもそうだが、発信を観察していると、それなりに羽振りのよさそうな人たちは感心するほどよく働いている。発信内容は「誰でもできる!」「たったこれだけで!」と手軽にできるかのようにアピールするが、動きを追うとまったく楽ではないことがよくわかる。
「ほどほど」に見守る加減のむずかしさ
「さらに、人に夢を見せないといけませんよね。あの人と毎週会えるなんてすごいことだみたいな、みんなのモチベーションとなるようなカリスマ性、タレント性。トップクラスになると宗教家っぽい人も多いですね。普通に働くより、ぜんぜん大変ですよ。寝ているだけで? 無理無理。破産するとかの泥沼展開は母の周囲では見たことがありませんが、それなりに大変な世界だということはわかっています」
Eさん母がマルチ商法に関わることについては「ほどほどになら」と許容しているが、自分たちがほどほどに参加する気にはまったくならないようだ。

「母の付き添いで集会に参加させられていたこともあるんですが、やはり異様な集団だとは思っています。みんな張り付いたような笑顔でやたら夢を語り、自己啓発やスピリチュアルトーク。母はこんな人たちと知り合いで、大丈夫か……と思わなくもありません。すごいムラ社会な感じがあるのも、僕にはちょっと厳しいかな」
転落や破滅はしなくても
生きがい、仲間、成功、安心。これらを求める気持ちは人として当然のことだが、様子のおかしいコミュニティにどっぷり使っていれば、家族が心配するのもまた、当然だ。
しかし、母の棲むマルチ沼をこの先も見つづけていくしかないだろうと、Eさんは語る。わかりやすい転落や破滅のマルチ商法エピソードではないが、決定打がないまま微妙な気持ちを抱えつづけていくのも、苦しさのひとつだと感じられた。
「母がマルチ沼にいるかぎり、僕たち家族も間接的に沼と関わらざるをえません」
家族の沼の、ありがたくない特等席。そうした眺めを、今後もお届けしていこう。
<文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
