7月前半から予定されていた「全国旅行支援」について、政府は新型コロナウイルス感染症者数の拡大(以下「陽性者の増加」とする)を受けて開始時期を延期する発表をした(7月15日が期限だった県民割は8月末まで延長)。
7月14日、斉藤国土交通大臣は記者会見において「(全国旅行支援の開催時期について)今後、感染状況を注視しながら改善が見られれば速やかに実施する」と述べたが、開始は早くて9月以降とみられている。
割引額は随分控えめ? そもそも「全国旅行支援」とは

全国旅行支援とは「1人1泊最大8000円を上限に旅行代金が40%割引になる」キャンペーン。また、飲食店などで利用できるクーポン券を1人1泊につき最大3000円分配布する(配布額は平日と休日で異なる)。
旅行割引においては、交通(鉄道やフライトなど)付きのプランor宿泊プランなのかで割引上限額が異なる。交通付のプランは上限が1万円、宿泊のプランについては上限が7000円となる。
全国旅行支援は、キャンペーンの主体が都道府県単位(Go To トラベルの主体は国)ということで、内容としては県民割とGo Toトラベルの間的な位置づけとも見えるが、制度運用としては県民割を踏襲するような形になるだろう。
……と綴ってみたが、改変が常となってきた観光需要喚起キャンペーンだけに、こうして書いている間にも何かが変わるかもしれない。いずれにせよ利用に際しては最新情報のアップデートが必要だ。
話を戻して、7月前半から開始するはずが一転、延期となった全国旅行支援であるが、まぁいろいろと練られた案ではある。第1弾の「Go To トラベル」の恩恵を得た旅行者からすると、実質割引額は随分控えめという印象だろうか。
悪名高き(!?)Go To トラベルの改変? 旅行支援キャンペーンを巡る現場のリアル
第1弾のGo To トラベル以後も続く多様なコロナ禍の観光需要喚起キャンペーンだが、“あれをやろうとすればこっちはどうする”というように、先述の通り改変に次ぐ改変で多くの混乱を招いてきた。
事業に関わる者にとっては、一種、悪名高き(!?)Go To トラベルというわけで、多くの反省からさまざまな制度改変の流れになってきたといったことは記憶に新しい。今後新たなGo To トラベルの動きも勘案する必要はあるが、現場対応のリアルも引き続き注視する必要があると考えている。
日々ホテルの現場取材をしている筆者は、各種キャンペーンと「対峙」する現場のリアルな声を耳にしてきたが、“対応”ではなく“対峙(じっとにらみ合って対立すること)”と書いたのも、現場レベルにおいては“Go To トラブル”と揶揄されるなど歓迎されないシーンも多々あったということだ。
Go To トラベル第2弾については、陽性者の増加で延期になったこともあったが、その際も「ホッとした」というスタッフの声は意外にも多かった。
このように、盛り上げて、落とす(一転延期や中止)というような様相を呈してきた旅行支援キャンペーンだが、これまで述べたように、こうしたキャンペーンについて(経営としては)総論大歓迎、(現場レベルでは)各論……というのは実態に近かった。
「今度の全国旅行支援については、数々のキャンペーンを経てきてかなり鍛えられていますので」と自嘲気味に話すホテルスタッフもいたが、いずれにしても、疲弊してきた宿泊業界にとって待ったなしの状態が続く中、今回の延期は相当な痛手と話す経営者、マネージメント層の声が圧倒的だ。
また、いくつかのホテルへ全国旅行支援の延期によるキャンセルについて聞いてみたところ、とあるホテルの支配人は「ドッと、ということではないが徐々に増えてきており懸念している」と話し、「(今は)それでも来てもらえるような魅力的なプランを打ち出していくしかない」と苦渋の表情で語った。
実は割引分を上乗せしている? 旅行支援キャンぺーンとホテル料金のカラクリ
ところで、観光需要喚起キャンペーンは、利用者から見ると心理的にお得感は高まり、割り引かれた分について金銭的な利益を享受できることになるのは事実だ。
一方で、そもそもこうしたキャンペーンは、観光需要を喚起することを目的とした“事業者”を支援する趣旨であり、“利用者”がお得になることは何ら保証していない。
これはなかなか深い部分があり、ホテルの料金は繁閑に応じて変動(ダイナミックプライシング)することは一般的である中、(便乗値上げとはいわないが)キャンペーンに合わせて割引相当分を事前に勘案し宿泊料金を上げるホテルもある。
繁閑に応じて料金を変動させるわけだから、キャンペーンで繁忙になれば料金を上げるのはビジネスとしてはまったくもって正しい。
なので、キャンペーンが告知されると予約流入がパタッと減るというホテル関係者の声は多いが、一方で、日々ホテル暮らしという筆者は、キャンペーンがスタートするとホテルへ出向かなくなる傾向がある。
ホテルが忙しくなるので取材は遠慮するということはもちろんあるのだが、キャンペーン告知後からキャンペーンが始まる前までは、ホテルの料金がかなり安くなる傾向があるからだ。
これは仕事の経費ということでかなりシビアにチェックしてきた結果ともいえる。もちろん全てのケースとはいわないが、そうした傾向もあるということは、旅行のタイミングを考える際に記憶に留めておいていいかもしれない。
ホテル業界が販売価格を引き上げたいもう1つのワケ
なお、コロナ禍で大きな環境の変化を迎えてきたホテル業界では、一部、業界全体として販売価格を引き上げようという声が出てきている。宿泊業の賃金は一般的に低水準といわれているが、そのような問題を解決していくためにも必要という一面からは確かだ。
もちろん高く売りたいのはホテルに限らず、ではあるが、無論、市場が決めるものであることはホテルの料金も同様。
インバウンド活況時にホテル不足が叫ばれる中で非常識な料金設定をしたホテル、東京オリンピックに際してとんでもない値上げをしたホテルなど……忘れられない記憶として残っているが、半面、コロナ禍で販売価格が低調というのもまさしく市場をあらわしている。
安いことは良いことという一側面だけにフォーカスするのは総体的には正しくないが、旅行者がより安さを追求することは当然。各種予約サイトの盛況もそれを示している。
価格の引き上げについて、業界団体等が具体的な値上げ(額)を施設らへ要請するなどは不正競争防止法から問題となるものの、そもそも日本ならではのホテル業界の環境を見るに、全体としての引き上げ傾向への移行は一筋縄でいかない部分があることは確かだ。あっちが上げればこっちは下げる。
ただし、いずれにせよ消費者の立場としては、キャンペーンをきっかけとし実質的な値上げという動きは念頭に置く必要があるだろう。
9月以降に延期となった全国旅行支援であるが、県民割の継続なども勘案しつつ、ホテルによってはそれをカバーしようとすべく魅力的なプランの打ち出しも見られる。
行く行かないは別として、キャンペーン開始前と開始後のお気に入りホテルの料金設定を定点観測的にチェックしておくと興味深い結果を得られるかもしれない。
※参考:国土交通省 観光庁公式サイト
執筆者:瀧澤 信秋(ホテルガイド)