参議院選挙比例代表に日本維新の会から出馬する猪瀬直樹氏の行動が波紋を呼んでいます。
東京選挙区から立候補予定の同党の海老沢由紀候補の応援演説をした際、肩や胸の付近を触る様子が動画で配信され(現在は削除)、セクハラなのではないかと批判されているのです。
猪瀬氏「軽率な面があった」
これに対し、猪瀬氏自身は「軽率な面がありました」とツイートし、党代表の松井一郎大阪市長も、「見ている側の気分を害するようなことは慎むべきだ」とコメント。火消しを図りました。
当の海老沢氏はというと、「まったく気にしてませんでした。胸に当たっていない」、「猪瀬さんとわたしの関係では全く問題が無かった」などとツイートしており、ひとまず一件落着といった雰囲気です。
爆笑太田「誤解されちゃったのかな」杉村太蔵「セクハラと違う」
一方、メディアはこの騒動をどう取り上げたのでしょうか。
19日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS)では、司会の爆笑問題・太田光が「わりと触る人というか。ちょっと誤解されちゃったのかなという気も…」と擁護。
パネリストの杉村太蔵元衆議院議員も「女性の方はセクハラと思っていないとおっしゃっている。これがセクハラかどうかは違うんじゃないかな。極めて不愉快な映像であるのは間違いないけど」と語りました。
その他の放送局も含め、取り立てて大きな問題とは考えていない様子がうかがえます。
でもそれで一件落着にしてしまってもいいのでしょうか?
動画を見る限り、ちょっとしたボディタッチとするにはあまりにも執拗(しつよう)でした。しかも公衆の面前で、そもそも女性の身体に触れる必然性がない状況ですので、ちょっと異常と言わざるを得ない。
にもかかわらず、海老沢氏の“気にしていない”との言葉を渡りに船と免罪符にしてしまう構図。問題の本質は、触られた側が嫌だと思うかどうかではなく、立場上、女性が異議申し立てをできない状況下で行われたという点にあるのです。
動かしがたい力関係の中で
似たようなケースが、エンタメでもありました。2013年、アメリカの有名カントリーミュージック局のラジオDJ(当時)からハラスメントを受けたテイラー・スウィフトのケースが象徴的です。
コンサート前の記念撮影で、そのDJがテイラーのスカートの中に手を入れ、お尻をつかんだのです。テイラーがラジオ局にセクハラを告発したところ、DJは解雇されました。

テイラー・スウィフト
なぜこの一件が大きな意味を持つかというと、性犯罪の3分の2は報告すらされない(※)アメリカの事情があるからです。被害者は報復を恐れ、警察も民事不介入として、深入りしない。
そして、テイラーのケースでは音楽業界特有の構造も絡んできます。多くのミュージシャンにとって、ラジオDJは彼らの生殺与奪(せいさつよだつ)を握る存在。誰のどの曲をオンエアするかは、DJのさじ加減ひとつなのです。
これから売り出さなければならない新人女性アーティストの置かれた立場は想像に難(かた)くありません。テイラーへのハラスメントは、この動かしがたい力関係の中で行われたわけです。
テイラーは告発に際してこうコメントしていました。「(そのDJは)だからもしチャンスがあれば、守ってくれる人がいない若いアーティストにも同じことをするだろうと思ったのです。この出来事を彼のラジオ局に報告することは重要でした。」(ELLEgirl 2017年12月11日配信『なぜ訴えたか? テイラー・スウィフトがセクハラ裁判について語る』より)
知名度のある猪瀬元知事と無名の新人候補の関係性でのパワハラ
この構図は、猪瀬氏と海老沢氏の関係性にそっくりです。全国的な知名度を誇る元東京都知事が、“わざわざ”無名の新人女性候補を応援する。猪瀬氏の力なしには名前を売り込むことすらかなわない。
この有無を言わせぬ利害関係において、男の年長者が年下女性の拒否権を封じ込める。これをパワハラと呼ばずして、なんと呼べばよいのでしょうか?
こうしてみると、太田光氏や杉村太蔵氏のフォローがいかに的外れであるかがわかると思います。そして猪瀬氏の「仲間を紹介する際、特に相手が異性の時は肩に手をやるなど身体を触ることには慎重になるべきだとご指摘をいただきました。確かに軽率な面がありました」との釈明も不可解です。
なぜなら、猪瀬氏が触れたのは肩ではなく胸であり、しかもしっかりとその部位に視線を向けて確認したうえで何度も触っていた状況からして、「軽率」とはかけ離れているからです。
加えて、海老沢候補の対応も完全に悪手でした。
確かに彼女自身のキャリアと日本維新の会の和(わ)を保つという小さな目的は果たせたかもしれません。しかし、同時にそれが弱い立場にある女性たちの声をあげる機会を奪ってしまったとは考えられないでしょうか?
あえて厳しいことを言えば、公人として社会問題に取り組むための視座に欠けていると言わざるを得ません。告発とまではいかなくとも、せめて猪瀬氏の行為を決して許されないものと断じた上で、謝罪を受け入れるなら受け入れるという手順を踏むべきでした。
この問題は“スケベじいさんの暴走”と矮小化してはならないのです。
<※RAINN(Rape, Abuse & Incest National Network)による>
<文/石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。
『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。
『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。
いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。
Twitter: @TakayukiIshigu4
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『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。
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