コロナ下で一時注目されたのが、オンライン会議システムを使った“Zoom飲み”。Zoomに限りませんが、パソコンやスマートフォンでビデオ通話ができるサービスを使って、友人や知人とお酒を楽しむというもの。家にいながら居酒屋にいるような気分になれると、一気に浸透しました。

写真はイメージです(以下同じ)
カップル相手に地獄の時間「20分が限界でした。でも……」
お話を聞いたのは、都内の金融会社に務める吉木美憂さん(31歳・仮名)。なんでも、友人カップルとZoom飲みをしたのが地獄の始まりだったとか……。
「初めて誘われて『話題になってるし、ちょっと体験してみよう』くらいの軽い気持ちでやってみたんですよ。リモートワークが続いて人恋しくなっていましたし。友だちカップルは同棲しているので2人そろって一緒に参加することになって。各自好きなおつまみやフルーツを準備して、ワクワクしてさあスタート! 画面に友人カップルが映し出されて、久しぶりの楽しい時間を過ごすつもりだったんですが……
20分。20分が限界でした、まじで」
楽しみにしていたのに、さすがにそれは短すぎでは?
ぐったりとした表情で「20分」を連呼する吉木さん。恐る恐るその理由を聞いてみました。
オンライン飲みは、とにかく逃げ場がないのがしんどい!
「Zoom飲み会も4人とか5人とか何人かメンバーがいるならいいんですよ。でも、相手と自分の2画面しかないと、なんというか逃げ場がないんですよね。真正面からドーン! と映し出されて、常に真正面で向き合っている感じです。

居酒屋とか実際に会っているときなら気にならなかったんですが、お店のガヤガヤした声も店員さんの声も聞こえない、BGMもない。もちろんスマホをチラ見してテーブルの下でいじれないし、話をやんわり聞き流しながらメニューを流し見することもできないって、本当に辛い! おしぼりでアヒルも作れないし、ストローの紙袋も縮めて水を垂らして『びよびよ~ん』って動かして遊ぶこともできないんです。ただ、ひたすら息が詰まる空間でした」
最後のストローのくだりはちょっとお行儀が悪いかもしれませんですが、その気持ちなんだか分かる気がします。ちゃんと話はしているし、聞いているけれど、ちょっとした間やいろんな要素が入ることで、絶妙に息抜きやリラックスができることもあるんですよね。
勝手に自分たちの世界に入らないで!
「そうそう。それに彼氏さんとはほぼ初対面に近かったので、これが気心知れた友だち同士や、カップルさんだったらまた違ったかもしれませんね。でも2対1で、画面の二人は並んでこっちを見てくるんです。『何か話さなきゃ!』『話のネタを提供しなきゃ』って、頼まれてもいない司会進行を一人でやっているようで、本当に疲れました」
楽しいはずのZoom飲みが、気遣いと気疲れの時間に変貌したとか。まさに地獄……! 友人カップルもZoom飲みには慣れておらず、いまいち勝手が分からないこともさらに状況を悪化させたそう……。

「目の前のパソコン越しに話しているといっても、その空間はまるっきり二人の日常的な空間なんですよね。だからなのか、私が必死に話のネタを振っているときも、『……あ~あのときの朝のアレ、どうなった?』とか、『この前言ってたお店、昼なら開いてるから行ってみない?』とか、急にこっちが入れない恋人っぽいムードをちょいちょい出してくるんですよ!
こちらは黙るしかないし、お酒が進む度に意味不明のラブラブトークが多くなって、私はなんでパソコン越しにこんなに疲れてるんだろうって精神的にもダメージをくらっていました」
時々ミュートにしてみたそうですが、いつの間にか今度は友人から話を振られていて、慌ててオンに切り替えることもあったそう。いっそのこと、Zoomを強制終了させたくもなりますね。
ネタが切れたら自宅のルームツアー。気疲れしすぎた5時間
「同じシチュエーションでも、フツウに楽しめる人もたくさんいると思うんですよ。でも私が自分の他人の表情や仕草、会話や雰囲気にけっこう敏感な方なので、一人で勝手に気を張って疲れちゃうのかもしれません。でもそんな逃げ場がない2対1の構図で、一人で気を遣って、仕切って、自虐ネタをぶっこんで……」
繊細で気を遣いすぎる性格がZoom飲みには合っていなかったのか、吉木さんは今度は友人カップルに言われるがままに“あること”まで始めてしまいます。

「もう話すネタもなくなったし、ノロケ話も聞き飽きたころ、『最近引っ越したなら、部屋とか家具ちょっと見せてよ~』という友人のお願いを断れず、まさかのど深夜のルームツアーですよ……。
ノートパソコンを持って、『お、お風呂はこんな感じです~』とか、『やっと洗面台がシャワーノズル付きになりましたぁ~……』って解説して回って。それに怖いのは、Zoom飲みはいつまで経っても終われないこと。家だから、『そろそろ終電が』とか『ペットのごはんを用意しなきゃ』とかの言い訳ができないんで、相手が辞めるっていうまでなんか気まずくて終われないんです。その日は5時間友人カップルに付き合いました」
一方的に友人を嫌いになってしまった
5時間気を張り続ければ、それは疲れて当たり前ですよね。

「きっぱり色々断れたり、ハッキリ言えたり、自分のペースで楽しめる人たちにはこの気持ちは分かってもらえないかもしれません。でも、私みたいに向いてない人もいるんです。
その友だちカップルからは2回くらいZoom飲みに誘われて、もう1回は参加しましたがやっぱり気疲れが半端なくて。むしろ『なんで私にも気を遣ってくれないんだろう』『相手がいるのに、自分たちの世界に浸れるんだろう』って、相手への負の感情が大きくなってきてしまって……。勝手に嫌いになってしまい、今はリアルでもネットでも音信不通状態にしています。まさか、Zoom飲みがきっかけで友人を失うとは思いませんでした」
Zoom飲みがきっかけというか、遅かれ早かれ波長が合わないその友人とは疎遠になっていたかもしれませんね。
アメリカの研究者も“ビデオ通話疲れ”に注目
ちなみに、世界にはZoomやオンライン会議などのビデオ通話による“Zoom疲れ”を研究しているチームも存在します。
米スタンフォード大学仮想ヒューマン・インタラクション・ラボ創設ディレクター、ジェレミー・ベイレンソン教授らの研究報告によると、実際に人と人が対面で会っているときは、私たちは無意識でジェスチャーやボディーランゲージで相手に様々な情報を伝え、相手も無意識でそれを受け取っているそうです。ただそれがビデオ通話になると、ジェスチャーが大げさになったり、大きくなってしまうことで必要のない精神的カロリーを消費してまっているとか。

他にも、カメラに映る範囲に範囲内に自分自身を固定しなくてはならないことや、自分の顔を見続けながら会話するという異様な状況も、疲れに拍車をかけるのだそうです。
これらの情報も加えると、吉木さんが受けた精神的ダメージは想像を絶するものだったのかもしれません……。気軽にできるからこそ、なるべくペースを保ちつつ楽しみたいものですね。
―シリーズ「新しい生活様式がしんどい」―
<取材・文&イラスト 赤山ひかる>
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