Jリーグのチーム・浦和レッドダイヤモンズで、2000年の入団以来、16年間プレーし続けた、元サッカー日本代表の鈴木啓太さん。
2015年に引退してからは、アスリートの腸内細菌を研究する「AuB」を設立し、実業家として活躍しています。2021年2月には古巣・浦和レッズと、若手選手育成のサポートに取り組むパートナー契約を結びました。
そこで今回は、鈴木啓太さんが腸内細菌に注目した理由、ビジネスを始めたきっかけを聞きました。
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調理師である母の教えを受け、幼い頃から腸活をスタート
――最近注目されている「腸活」ですが、鈴木さんは、いつごろから腸活を?
鈴木啓太(以下、鈴木):小学1年生くらいから腸を意識していたと思います。母親が調理師ということもあり、いつもバランスの良い食事を作ってくれていましたし、「うんちを見なさい、腸が大事だよ」とよく言われていました。
幼い頃から、食物繊維やプロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など)を意識して腸活をしていた、というよりは母親に出されたものを食べることが僕の腸活のスタートですね。
――「腸を整えていて良かった」と実感したエピソードはありますか?
鈴木:2004年のアテネ五輪アジア最終予選で、日本代表選手23人中18人が下痢の症状を訴えて、試合直前までトイレに籠ってしまう選手もいました。
下痢の詳しい原因は分からなかったのですが、海外では野菜を洗った水が原因でお腹を下してしまうこともありますし、水や食材が合わなかったのではないでしょうか。
僕は腸を整えていたので下痢にならなかったのかなと思っています。お腹が痛かったり、下痢だったりすると、パフォーマンスを発揮することはなかなか難しいですよね。
「自分ならアスリートのサンプルを集めることができる」
――鈴木さん自身が腸活の効果を実感していたからこそ、引退後は腸内細菌のビジネスをしようと考えていたのでしょうか。
鈴木:腸活の効果が“ある”とか“ない”とかも一つのポイントかもしれませんが、腸内細菌はまだまだ解明されていないこともたくさんあるので、間違いなく重要なことだろうと思っていました。
当時、日本のアスリートの腸内細菌の研究やっているっていう話も聞いていなかったので、自分だったらアスリートのサンプルを集めることができるという自信がありました。
「サッカー選手には無理だよ」と言われた腸内細菌のビジネス

――起業当初はネガティブな反応もあったそうですね。
鈴木:サッカー選手は引退後、指導者になるとか、サッカーを軸に活動するのが既定路線ではありますからね。
なので「腸内細菌の研究をする、ベンチャーを立ち上げた」みたいな話を聞けば、当然「そういうのは大手企業がやることでサッカー選手ができるようなことじゃないよ」というふうに言われてました。
けど、「できない」「難しい」とか言われることのほうが、チャンスがあると思うんです。学生時代、周りには僕よりサッカーが上手い人がいたし「お前なんてプロになれないよ」って言われてたんですよ。でも結局なれたんですよね。
だいたい「なれない」とか「できない」とかって言うのは、やったことない人なんですよ。やってみないと分からないし。そんなことを言われてサッカー選手になった僕が、子どもたちに伝えたいのは、誰だって可能性があるってことですね。
――そのような経験があるからこそ、周りのネガティブな意見が気にならなかったのですね。
鈴木:簡単に誰でもできるようなことだったら、参入障壁も低いですからね。難しいと言われるからこそ、自分がやる意味とか、自分だからこそできることっていうのがあるんじゃないかと思います。今から僕が腸内細菌の研究者になるのは時間もかかるし難しいでしょう。でも、専門家を集めればいいだけの話ですよね。
浦和レッズのサポーターの声も起業のきっかけに
――ビジネスに興味を持ったきっかけは、ご自身の経験以外に何かあるのでしょうか。
鈴木:サッカー選手として、サポーターの方々にはいつまでもスタジアムに通ってもらいたい、という想いがあるんですよ。
でも僕があるとき、サポーターの1人に「最近スタジアムに来てくれないじゃないですか」と聞いたら「人間は年を重ねると、行きたくても行けないんだよね。疲れちゃうし」という話をしてくれたんです。いつまでも元気にスタジアムに来てもらうためには、健康第一だと気付きました。体調管理やコンディショニングって、アスリートが一番やっていますよね。
僕の経験とかアスリートのデータを用いて、ファンサポーターの健康に貢献できたら……こんな素晴らしいことないなと思ったんです。アスリートの研究することで、次世代のアスリートに対して貢献できますし、それを自分の次のキャリアのチャレンジとして、やってみようと単純に思ったんですよね。
「うんち頂戴」に、はじめは戸惑いも

――腸内細菌のビジネスにされるときに、アスリートのうんちを集めるところからスタートしたそうですね。
鈴木:協力者の1人目は、ラグビーの松島幸太朗選手でした。「うんち頂戴」と言うと、最初は彼も「何を言っているんですか」という反応だったんですが、将来のアスリートのためにもなるんだよね、と話して半強制的にうんちをもらいました。
――断られたこともあるのでしょうか。
鈴木:ありますよ。断られた理由は分からないんですが、自分のデータを取られるのが嫌なのかもしれないし、それぞれの健康状態もきっとあるでしょうから。実際、うんちとか生体情報で身体の異変を推測できることもあります。某国のトップが海外で会談をしたときに、排泄物などすべて回収する、という噂もあるほどです。
もう5年間ぐらいずっと地道にアスリートのうんちを集め続けているんですが、検体数(うんちの数)は1700を超えています(2021年7月時点)。
研究結果から独自素材の“腸活”サプリメントを開発
――自己資金4000万円や投資家から調達した資金が底をつきそうになるという危機もあったそうですね。
鈴木:研究ってお金がかかるんですよ。あと僕らは売るものがなかったので。たとえばサプリメントを作ろうと思えば、誰だってパッと作れますけど、僕たちは研究の信念のもとにプロダクトを出し続けるという誇りを持っています。
4年間研究して得られた結果は、アスリートだけじゃなく一般の方々にも重要だろうと。「アスリート・ビオ・ミックス」という独自の菌素材を開発して、それをサプリメントとして展開しはじめました。
――研究だけのフェーズから、研究をしながらビジネス、というところに移ったのですね。今後の展望はありますか?
鈴木:去年(2020年)、元オリンピック選手から新しい機能を持つビフィズス菌の菌株(AuB-001)を発見したんですが、それを原材料にした商品を今後展開することも考えています。
少し時間はかかってしまうんですが、研究結果をもとに信頼してもらえる良いものを出していきたいなと思ってます。
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<取材・文/管理栄養士 梅原しおり>
早稲田大学人間科学部卒、管理栄養士免許をもつライター。Twitter:@unchieiyoushi
(エディタ(Editor):dutyadmin)



