実は「パイロットウォッチ」の呼称に明確な基準はない。例えば「ダイバーズウォッチ」にはISO(国際標準化機構規格)やJIS(日本工業規格)などが定められているが(*1)、パイロットウォッチはそれがないのだ。
そのため各ブランドが抱くそれぞれのイメージが強く打ち出された、オリジナルの「パイロットウォッチ」が展開されている。基本的に視認性が高く、航空用の回転計算尺などを備えていたり、耐磁性・防水性に優れたものが多い。実際に空軍で採用されているモデルもある。
2016年にはドイツ工業規格において、パイロットウォッチを対象とした規格「DIN8330」が発表された。これはドイツの時計ブランド「ジン(Sinn)」の発案によるもので、ジンからはこの規格に準拠したパイロットウォッチが発売されている。(*2)
本記事では、
・パイロットウォッチの機能や特徴
・パイロットウォッチの歴史
・おすすめのパイロットウォッチ10選
を紹介していく。
知るほどに魅力的なパイロットウォッチ。ぜひ、お気に入りの1本を見つけてほしい。
*1 ダイバーズウォッチの規格については以下の記事でも詳しく解説している。
「腕時計の防水性能とは?お役立ちの知識からおすすめ定番モデルまで」
*2 「DIN8330」に準拠するパイロットウォッチについては、後述の「パイロットウォッチのおすすめ定番モデル10選」にて紹介。
ジン「インストゥルメント クロノグラフ 103.TI.IFR」の詳細はこちら。

パイロットウォッチの機能と特徴
パイロットウォッチには、パイロットが飛行中に必要とする機能や、過酷な環境でも使いやすいような工夫がぎっしり詰まっている。一見しただけでは分からないかもしれないその特徴を、じっくり見ていこう。
とにかくタフ!温度や気圧の急激な変化、揺れに重力、衝撃にも耐える強靭さが求められるパイロットウォッチ。さらに耐磁性能、防水性も重要とされる。万一にも飛行中に壊れてしまうことのないよう、あらゆる面で頑丈でタフであることが求められるのだ。
いざという時は計器の代わりに飛行をサポートかつて航空用の計器は壊れやすかったため、パイロットウォッチにはいざという時、計器の代わりにパイロットをサポートする機能が求められた。そうして生まれたのが回転ベゼルや回転計算尺などである。
機上での使用を最大に意識した仕様、デザイン複雑な飛行機の操縦をしながらも、一瞥しただけで腕時計のデータを認識できるよう、数字やインデックス、針などが大きくわかりやすくデザインされている。
夜間や暗闇でも読み取れるよう蛍光塗料などでコーティングされ、逆に日中の強い日差しでも読み取れるように反射防止コーティングされた風防を使用するタイプも多い。また、厚い手袋をしていても操作がしやすいよう、大きなリューズが備えられているのも特徴だ。

パイロットウォッチの歴史
飛行技術の進化とともに歩んできたパイロットウォッチ。1900年代初頭は「腕時計」の黎明期でもあり、この時代に飛行家の要望に応えて進化したパイロットウォッチは、腕時計全体の歴史にも大きく関わることとなった。ここでは、飛行技術とパイロットウォッチの歴史を紹介しよう。
1903年 ライト兄弟が世界初の有人飛行に成功アメリカのライト兄弟が初めて有人飛行に成功したのは、ライトフライヤー号による約12秒間、36.5mのフライトだった。ここから飛行機の急激な進化が始まる。
1904年 飛行家が依頼した「サントス ドゥ カルティエ」誕生飛行家アルベルト・サントス・デュモンが、カルティエに「操縦桿を握ったままでも時刻が確認できる腕時計」を依頼し、「サントス ドゥ カルティエ」が誕生。
当時「腕時計」というと、懐中時計にベルトをつけて使用することが多かったため、「腕につけることを前提とした時計」としてデザインされた「サントス」は、画期的なアイテムだった。この後1911年には、世界初の一般用量産腕時計として販売が開始される。
「サントス ドゥ カルティエ」の現行モデルはこちら
1931年 ロンジンが「アワーアングルウォッチ」発売大西洋無着陸単独飛行を成し遂げたアメリカの飛行家チャールズ・リンドバーグ。彼が提案したのは、自分が飛行している位置を計算できる時計だった。そこでスイスのロンジン社によって、太陽の時角を測定する回転ベゼルを備えた「アワーアングル(時角)ウォッチ」が製作され、1931年に発売された。
ロンジン「ヘリテージ リンドバーグ アワーアングルウォッチ」の詳細はこちら

▲出典:ロンジン(URL)
1952年 ブライトリング「ナビタイマー」発表「ナビタイマー」は、平均速度、飛行距離、燃料消費量、上昇率、降下率などを計算できる航空用計算尺を回転ベゼルの中に組み込んだモデル。この画期的なウォッチは当時のパイロットたちの人気を大いに集め、今でもブライトリングの人気アイコンウォッチとして進化し続けている。
ブライトリング「ナビタイマー」の詳細はこちら
パイロットウォッチの魅力
機能性を追求して生まれたデザインや、その歴史的背景に魅力を感じる人も多く、パイロットウォッチは航空ファンならずとも所有する喜びを感じられるアイテムだ。
またプロフェッショナルのための時計として、タフさと機能性を兼ね備えているため、日常生活でも振動や水濡れなどを気にすることなく快適に使用することができ、あらゆるシーンで活躍する腕時計としても人気がある。
パイロットウォッチのおすすめ定番モデル10選
パイロットウォッチには各ブランドの歴史や思いが込められ、さまざまなモデルが個性豊かに展開されている。ここでは、伝説的なモデルの復刻版や、モダンなデザイン、リーズナブルなタイプからラグジュアリーな憧れモデルまで、パイロットウォッチとしてのアイデンティティを感じることができる定番モデル10本を紹介する。
カルティエ(Cartier)「サントス ドゥ カルティエ ウォッチ」
▲出典:カルティエ(URL)
素材:スティール
直径:39.8mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:825,000円
10気圧防水
1904年に飛行家アルベルト・サントス・デュモンの依頼によって誕生した、パイロットウォッチの元祖ともいえるカルティエの名品「サントス」。初めて「腕につけるための時計」としてデザインされた「腕時計」の黎明期を代表するウォッチだ。
丸みを帯びたスクエアのフォルムと、ビス モチーフが特徴的な「サントス」は、今なおカルティエウォッチのアイコンとして様々なバリエーションで展開されている。

▲出典:カルティエ(URL)
パイロットウォッチとしては薄型。ベゼルもシンプルでベルトと一体感のあるデザインのため、シックなカジュアルスタイルはもちろん、スーツスタイルにも合わせやすい。
また、ベルトを工具なしで交換できる「クィックスイッチ」が導入されているため、メタルブレスレットを付属のレザーストラップに付け替えることもできる。タイムレスなデザインが魅力的だ。
ロンジン(Longines)「ヘリテージ リンドバーグ アワーアングルウォッチ」
▲出典:ロンジン(URL)
素材:ステンレススティール
直径:47.5mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:629,200円
3気圧防水
ロンジンには、歴史や時計職人へのオマージュをこめて、オリジナルの美しさを生かしながら最新の時計製造技術と組み合わせて復刻する「ヘリテージシリーズ」がある。
このヘリテージシリーズを代表するのが「リンドバーグ アワーアングルウォッチ」。1931年に飛行家チャールズ・リンドバーグのために作られた時計の復刻版である。
「アワーアングル(時角)」を計算するための目盛りや、ラジオの時報に秒針を合わせるために回転する文字盤などがあり、当時としては画期的なシステムが備えられていた。

▲出典:ロンジン(URL)
初期モデルと同じく47.5mmという大きなケースに、丸みのある大型のリューズが備えられ、重厚なアリゲーターストラップがマッチしている。シックでありながら、力強さが感じられるデザインだ。
ブライトリング(BREITLING)「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」
▲出典:ブライトリング(URL)
素材:ステンレススチール
直径:43mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:1,023,000円
3気圧防水
創業以来、高度な計測器やクロノグラフに力を入れてきたブライトリング。1952年に登場した「ナビタイマー」は、「ナビゲーション(航行)」と「タイマー」を合わせて名付けられたアイコニックなパイロットウォッチ。
平均速度や飛行距離、燃料消費量、上昇率などの計算ができる航空計算尺が搭載され、パイロットから人気を集めた。その後、時代に合わせてリデザインや最新技術を導入しながら、様々なモデルで進化し続けている。
1960年代にはジャズミュージシャンのマイルス・デイヴィスが愛用し、1980年代にはミュージシャンで、フランスを代表するアーティスト、セルジュ・ゲンズブールが愛用していたという。ゲンズブールは、プラチナ製の「ラリー・ブレスレット」をオーダーしてコーディネートした。
ファッションアイテムとしても、パイロットのための計器としても、今なお愛され続けている名作だ。
IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・スピットファイア」
▲出典:IWC(URL)
素材:ステンレススティール
直径:41mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:770,000円
6気圧防水
IWCのパイロットウォッチのラインにはさまざまなコレクションがあるが、今回セレクトしたのは「スピットファイア」。英国王立空軍のためのナビゲーション・ウォッチ「マーク11」と、伝説の戦闘機「スピットファイア」をインスピレーション源として生み出されたシリーズだ。
「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・スピットファイア」は、41mmのステンレススティールのケースに自社製キャリバーを搭載。さらに軟鉄製のインナーケースが、磁場からムーブメントを保護している。

▲出典:IWC(URL)
ブラックの文字盤とブラウンのカーフスキンのストラップの配色は、「スピットファイア」のコックピットから着想したという。クロノグラフでありながらも、ケースの直径が41mmというサイズ感は、スマートな着こなしにもぴったりだ。
さらにIWCでは、米海軍の戦闘機戦術教育プログラム、通称“トップガン”に由来するパイロット・ウォッチ「トップガン」シリーズも展開している。
超音速ジェット機での飛行や長期間の空母でのミッションなど、“トップガン”で求められる過酷な環境に対応するこのシリーズは、堅牢なセラミックやチタニウムなどの素材が用いられている。このモデルのケースは直径44.5mm。パイロットウォッチにタフなイメージを求める方は、こちらもぜひチェックしてほしい。
IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン」
▲出典:IWC(URL)
素材:セラミック
直径:44.5mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:1,012,000円
6気圧防水

▲出典:ジン(URL)
素材:チタン
直径:41mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:506,000円
20気圧防水
DIN8330準拠
ドイツの「ジン」は、クロノグラフやダイバーズウォッチを展開し、ドイツ連邦警察局特殊部隊(GSG9)でも採用されるなど、過酷な環境での実用性が高いプロユースの腕時計が揃う時計ブランド。
「インストゥルメント クロノグラフ 103.TI.IFR」は、ドイツの工業規格でパイロットウォッチの新規格「DIN8330」(2016年発効)に準拠しており、コックピット内の時間計測機器が故障した場合、代わりに使用することができる。航空機やヘリコプターの計測器機に求められる厳しい条件をもクリアした腕時計なのだ。
さらに、ジンの「特殊オイル」を使用しているため、-45℃から80℃の急激な温度変化にも耐えられるという。もちろん離着陸の気圧変化や磁気干渉、耐衝撃など、物理的ストレスにも強い。航空機内に存在しうるさまざまな液体への耐性も厳しくチェックされ、防水性能はなんと20気圧防水。
十分すぎるほどのスペックを持つ、堅牢で頼もしいパイロットウォッチだ。シンプルなデザインの41mmケース内部に詰まった、高度な機能と独自の技術は、時計好きならば思わず語りたくなってしまう魅力がある。
ロレックス(ROLEX)「GMTマスターⅡ」
▲出典:ロレックス(URL)
素材:オイスタースチール
直径:40mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:1,020,800円
100m防水
ロレックスのパイロットウォッチといえば「GMTマスターⅡ」。二つのタイムゾーンを同時に表示するデザインが特徴的で人気があり、一目で「GMTマスター」だとわかる人は多いはず。
1955年に発表された「GMTマスター」はプロフェッショナルなパイロットのためのナビゲーション機器として開発され、1960年代に超音速旅客機「コンコルド」のテストパイロットが着用していたことでも知られている。
1982年には、新しいムーブメントを搭載した「GMTマスターⅡ」が登場。ベゼルのカラーもモデルによって特徴があり、ブルーとブラックの組み合わせは特に人気が高い。
ビジネスシーンでもカジュアルでも安心して使うことができ、一本目の腕時計としてもおすすめだ。
ハミルトン(Hamilton)「カーキ アビエーション Pilot Day Date Auto H64615545」
▲出典:ハミルトン(URL)
素材:ステンレススティール
直径:42mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:107,800円
10気圧防水
ハミルトン「カーキ アビエーション Pilot Day Date Auto」は、20世紀初頭のパイロットにインスピレーションを受け、ステンレススティールやサファイアクリスタルなどを用いて再現された、自動巻きのパイロットウォッチ。
42mmケース、大きな数字でクラシカルなデザインのため、ビジネスシーンでもコーディネートしやすい。
驚かされるのは、10万円台前半という価格帯。パイロットウォッチのエントリーモデルにも、2本目のウォッチにもぴったりだ。
ゼニス(ZENITH)「PILOT TYPE 20 CHRONOGRAPH エクストラ スペシャル」
▲出典:ゼニス(URL)
素材:ブロンズ
直径:45mm
ムーブメント:自動巻き
税抜参考価格:924,000円
10気圧防水
1909年、英仏海峡横断飛行に最初に成功したルイ・ブレリオが身につけていたのは、ゼニスのパイロットウォッチだった。「PILOT TYPE 20 CHRONOGRAPH」では、ヴィンテージ感のあるブロンズ製のケースに、大ぶりな玉ねぎ型のリューズ、マットブラックの文字盤、独特なデザインのアラビア数字やカテドラル針が配されている。
初期のゼニス航空計器を想起させるデザインや、ブロンズ製ケースの質感へのこだわりなど、冒険家へのリスペクトが感じられる、シックなデザインだ。
ベル&ロス(BELL & ROSS)「INSTRUMENTS BR 03-92 GREY LUM」
▲出典:ベル&ロス(URL)
素材:ステンレススティール
直径:42mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:407,000円
100m防水
ベル&ロスは、宇宙飛行士やパイロット、ダイバー、地雷除去の専門家など、過酷な環境で活動するプロフェッショナルのための時計を作り続けるフランス生まれの腕時計ブランド。
角型ケースの中に丸型の盤面が配置された「INSTRUMENTS」は、まるでコックピットの航空計器盤がそのまま腕時計になったような個性的なデザインだ。
航空機や宇宙船に搭載する機器の設計者や専門家たちと、「無駄な演出を一切許さない」というコンセプトのもとで作りあげられるベル&ロスの時計は、すべてのディティールに機能があり、意味がある。

▲出典:ベル&ロス(URL)
「INSTRUMENTS BR 03-92 GREY LUM」では、夜光塗料「スーパールミノバ®C3」が使用されており、昼夜を問わず視認性も高い。スポーティな雰囲気にもぴったりで、シンプルながら主張のあるデザインも魅力的だ。
ブレゲ(Breguet)「Type XXII 3880」
▲出典:ブレゲ(URL)
素材:ステンレススティール
直径:44mm
ムーブメント:自動巻き
税込参考価格:2,398,000円
100m防水
最後にご紹介するのは、ブレゲのパイロットウォッチ「Type XXII」。エレガントな高級腕時計のイメージがあるブレゲだが、スポーティなパイロットウォッチも展開している。
「Type XXII 3880」は、1950年代にフランス海軍航空部隊のために設計された「Type XX」へオマージュをこめながらも、自動巻きムーブメントを搭載した現代のパイロットウォッチだ。クロノグラフのフライバック機能はそのままに、最新技術が導入されている。
1時間に72,000回(10Hz/秒)という驚きの振動数を実現した、正確無比な時計。ひげゼンマイやアンクル脱進機に、新たにシリコン素材を採用し、腐食への耐久性を高め、部品の軽量化も図った。
ブレゲの圧倒的な技術、気品ある端正なデザイン、歴史とストーリー、腕時計の魅力といった全てが詰まったスペシャルなパイロットウォッチだ。
パイロットウォッチとともにワクワクする明日へ

腕時計そのものの成り立ちとも大きく関わるパイロットウォッチの歴史と魅力、一押しの定番モデルを紹介してきた。
その特性上、予想以上に大型のタイプも多いので、購入前にはできるだけ実物を見ることをおすすめしたい。
大空へのロマン、冒険家のチャレンジ精神を感じられるような一品に出会い、ワクワクするような時を刻んでほしい。