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別居中の妻に子を奪われ、月26万の婚費を払う男性がそれでも妻を恨まない理由 « ビューテ

時刻(time):2020-12-07 15:10源泉(Origin):δ֪ 著者(author):kangli
【 ぼくたちの離婚 Vol.17 わが子を、わが手に #3】 【 前回(#2) まで】 4年の海外駐在を終え、妻の葉月さん(仮名/当時32歳)とふたりの娘たちを先に帰国させた谷口和成さん(仮名/当時43歳)。しかし、1ヶ月後に帰国すると、葉月さんから「あなたとはやっていけない」という意思表示が。娘への過干渉と支配を目論む「毒親」による洗脳が進んでいたのだ……。 【vol.1
【ぼくたちの離婚 Vol.17 わが子を、わが手に #3】

【前回(#2)まで】
4年の海外駐在を終え、妻の葉月さん(仮名/当時32歳)とふたりの娘たちを先に帰国させた谷口和成さん(仮名/当時43歳)。しかし、1ヶ月後に帰国すると、葉月さんから「あなたとはやっていけない」という意思表示が。娘への過干渉と支配を目論む「毒親」による洗脳が進んでいたのだ……。

【vol.17 #1】⇒妻に浮気された夫、慰謝料請求しても1600万円の赤字になった落とし穴
【vol.17 #2】⇒カードで月40万円使う暗い妻。「妻は毒親に洗脳されてた」

子供に会えない…


 日本では現在、「子供の連れ去り」が社会問題になっている。

 大前提として、日本では離婚した夫婦の共同親権は認められていない。父親か母親、必ずどちらかの「単独親権」になる。つまり、父親と母親は親権争奪に血眼にならざるをえない。親権を取れるか取れないか、1か0だからだ。なお、欧米諸国では離婚後は共同親権が普通である。

 その親権争奪の際に“有効”な手段が、子供の連れ去りだ。そして谷口さんの妻・葉月さんはまさにこれを実行した。

※写真はイメージです

※写真はイメージです(以下同)

 相手が留守の間に子供を連れて家を出る。理由はでっち上げでもいい。「夫が自分に暴力をふるうので、子供と避難した」「妻が子供を虐待しているので守りたかった」等。無論、証拠がなければ、離婚裁判時にDVや虐待は認められないが、大事なのはそこではない。「子供がどちらと長い時間を過ごしたか」という事実だ。谷口さんは説明する。

「裁判所が父親と母親のどちらに親権を与えるかを決める際、重要になるのは、どちらが直近で子供の監護者(子供の身の回りの世話をする者)だったか、ということです。つまり、どんなにひどい親であっても、どんなに強引な手段で連れ去ったとしても、監護者にさえなってしまえば、親権争いで圧倒的有利に立てる」

 そんな馬鹿な、と思われるかもしれない。しかし、それが現実だ。

「日本の法制度では『継続性の原則』といって、子供の監護者が“その後も引き続き監護者であること”が望ましいとされるんですよ。そこにはほとんど何の審査も議論もない。つまり“先に子供を連れ去ったもん勝ち”です」





「ああ、これは入れ知恵があったな」


 いきなり離婚裁判を起こすのではなく、とりあえず子供と共に家を出て、何ヶ月なり何年なり子供とすごすという既成事実を作ってしまえば、いざ離婚となったときに親権を取りやすい。「その“うまい方法”を入れ知恵する“自称・人権派弁護士”が、巷には非常に多いんです」と、谷口さんは憤った。

 離婚裁判は今も継続中だ。子供たちは葉月さんと共に生活しているので、監護者は葉月さん。つまり、谷口さんが親権を取れる可能性は皆無に等しい。

「葉月の母親も父親も離婚経験者ですから、そのあたりの事情には通じていたはずです。僕に離婚したいと連絡してきたのは葉月自身でしたが、その後の話し合いでだんだんわかってきました。ああ、これは最初から弁護士と両親の入れ知恵があったな、と」

 子供を連れ去られた被害者は夫・妻ともに多く、情報交換のための私的なネットワークもいくつか組織されている。筆者が谷口さんと知り合ったきっかけも、この被害者ネットワークを通じてだった。







月26万円の婚費に、月4時間の面会


 谷口さんは現在、月額26万円もの婚費(婚姻費用/別居している妻または夫で収入の高い方が支払う生活費)を葉月さんに払い続けている。婚費は離婚成立後に設定される養育費よりも高額なので、義務者側の負担が大きい。谷口さんの毎月の収入からすると完全に持ち出し、「赤字」となっている。

「娘たちとは月に1度、4時間だけ面会できる約束になっていますが、葉月はなんやかんやと理由をつけては、回数や時間を減らそうとしてきます。先日は長女の運動会だったので観に行ったんですが、葉月からは事前に、『手を振るな』『声をかけるな』と厳命されました。運動会ですよ……。娘は僕に気づいてこっちを見るんですが、忖度して僕のところには来ない。あまりに不憫です……」

 葉月さんの要求は、どんどんエスカレートしているという。

「僕に、『面会のとき、人前で“良い父親”のふるまいをするな』と言ってくるんです。めちゃくちゃですよ。葉月は周囲に僕が“悪い父親”だと触れ回っているから、僕が“良い父親”だと整合性が取れないんです……」

 経済的にも、精神的にも苦しい日々が続いている。しかし谷口さんは、「どうしても言わせてほしいことがある」と前置きして、こう言った。

「自分の人生で子供が授かれたことには、心から感謝しています。そのこと自体に後悔はまったくありません。ただ、失敗した結婚の責任を僕が取らなきゃいけないのはわかるとして、それに子供たちが巻き込まれるのは絶対に違う」




ボランティア精神がなければ、近づくな


ぼくたちの離婚 Vol.17 #3
 ところで、1度目の結婚はともかく、2度目に関しては、最初から葉月さんが精神的に不安定であることはわかっていた。なぜ谷口さんはそれでもなお結婚したのか。

「完全に自分の器を過信していました。『生きづらい人間を救ってやりたい』だなんて、傲慢にもほどがあります」

 そして、「自戒を込めて、これから結婚する人に伝えたい」と谷口さんは言う。

「パートナーに“普通じゃない点”があると感じた場合、『気になるけど多分大丈夫だろう』とか『他にもいいところがあるんだし、見て見ぬフリをしよう』といった甘い見立ては、危険です。むしろ“普通じゃない点”を積極的に尊敬できるくらいでないと、乗り越えられません」

 かなりシビアな結婚観だ。誰にだって欠点はあるし、必ずしも本人の責任とは言えない精神的な問題を抱えている人は、どうすればいいのか。

「精神的な問題を抱えているパートナーの相手をするなら、滅私のボランティア精神、あるいは“仕事”だと思って取り組まなければいけません。その覚悟がないなら、近づいてはいけない」

 実際に壮絶な結婚生活を味わった谷口さんに、何かを言い返す気にはなれなかった。








「釣書や親族書を用意させろ」


 谷口さんが「そう言えば……」と口を開いた。谷口さんの両親のことである。

「前妻の明子が結婚の挨拶でうちの実家を訪れた際、父が『谷口家の嫁になるんだから……』と口走り、そこに明子が食ってかかったことがあります。『私は和成さんの妻になるつもりですが、谷口家の嫁になるつもりはありません』と。僕は若かったので、全面的に明子を擁護したんですが、両親の心象は最悪でした」

 谷口さんは1度目の結婚の失敗を踏まえ、2度目の結婚では、葉月さんとの交際時から逐一両親に状況を報告し、都度了解を取り続けた。しかし、あることについてだけ、両親の要望をはねのけたという。

「親から、『先方に釣書(つりがき)や親族書を用意させろ』と言われたんです。釣書は関東で言うところの身上書、親族書は親族のリストですね。要は、“ちゃんとした”家の人間かどうかを調べとけと」

 当時の谷口さんは猛反発した。

「僕自身がバツイチなんだから、そんなことを相手に求める資格はないし、谷口家だって大した身分じゃない。先方に失礼じゃないか、いつの時代の話をしてるんだと。ただ、僕が親の要求にそこまで拒否反応を示した本当の理由は、そこに葉月の“血筋”や“出自”を探りたいという意図を嗅ぎ取ったからです」




相手の出自を調べるということ


 ここで谷口さんは、やや声を潜めた。

「実は、僕がまだ学生の時に、父が母に向かってこんな話をしているのを聞いたことがありました。『あそこは親族に△△病がいるから、あいつも云々』『あいつの生まれ、◯◯だろ。あそこはどうのこうの……』。それがはっきりとした“差別”だということは、当時の僕でもわかりました。以来、そういう考え方は断固として根絶すべきだと思ってきましたし、今でも頭では……わかります。ただ、今は、そういうふうに警戒する人たちを、無下に否定することはできなくなりました……」

 理由は言わずもがなですよね、というように、谷口さんは筆者を見た。

「この現代社会からすれば、ありえないことです。でも、昔の人たちは、そして親の世代は、そういう情報を“知見”として蓄え、面倒ごとを経験的に事前回避してきました。だからこそ、うちの両親も相手の出自を調べろと」

※写真はイメージです
 谷口さんが拒否反応を示したことで、両親はそれ以上なにも言わなくなった。しかし、ひとりだけ葉月さんとの結婚に反対した人がいた。谷口さんの妹である。

「不思議なんです。葉月と会ったこともないくせに、結婚はやめといたほうがいいと言われました。理由を聞くと、葉月の実家がある県庁所在地について、どうのこうのと。まあ、ひどい誹謗中傷でしたね。でたらめで事実無根の悪口です。しかも、その悪口は、妹が幼い頃から母が吹き込んだものだったことが、後に判明しました」

 悪口の内容を聞いた。とんでもなく差別的であるばかりか、何の根拠もない醜悪な決めつけだった。

「ただ、もしかするとですが、妹は僕の結婚に関して何か悪い予感がはたらいたものの、根拠がなかったから、無理やりにでも理由をでっち上げたのかもしれません」

「いずれにしろ」と谷口さんがまとめに入る。

「結婚というものは、事情がどうあれ、自分の家族が祝福してくれる形に持っていかなければならない。失敗した2度の結婚で、それを痛感しました」








「わが子をわが手に留めておきたい」という気持ち


 取材を終えようとすると、谷口さんが再び口を開いた。

「これだけ葉月への恨み言を言っていながら、なんなんですけど、実は僕、心のどこかで、葉月は“被害者”だと思っています。あの毒親から何とかして引き離すことさえできれば、今からでも正常になるかもしれないって」

 驚いた。人生を狂わされ、わが子まで連れ去られたのに、なぜそんなことが言えるのか。

「葉月は幼い頃から、母親の精神的支配下にありました。にもかかわらず、たった3度しか会っていない僕との結婚を決意して、単身海外に来てくれたんです。親元を一度も離れたことがなく、実家の街から一歩も出たことがないのに、ですよ?

おそらく葉月は、生まれてはじめて一世一代の賭けに出た。これで親から逃げられるかもしれないという望みに賭けた。結果的にそれは『一時的に、義母に泳がされている状態』だったわけですが……。それを思うとね、やりきれなくなるんです」

※写真はイメージです
 谷口さんは「もし、葉月と子供たちを先に帰国させていなかったら、あるいは……」と言いかけた。しかし、あの凄まじい毒親であれば、どんな方法を使ってでも、葉月さんを手元に置こうとしたはずだ。

「わかっています。長年の精神的DVから逃れるのは、言うほど簡単じゃない。信頼できる友達のいなかった葉月が、囚われた精神を自力で解放させるのは無理だったでしょう。あの親を見ていて、つくづくそう思いました」

 時おり、ため息が混じる。

「ときどき思うんですよ。『わが子をわが手に留めておきたい』と願う気持ちって、僕も、葉月も、そして葉月の両親も、根本の部分は同じなんじゃないかって。ただ、葉月の両親はそれが強すぎただけなんじゃないかって」

 正直、谷口さんのお人好しさ加減にイラッとした。明子さんとの生活費を10年以上にわたって全額負担し、子供たちを奪った葉月さんに対しても惜しみなく同情する。先ほど谷口さんが口にした「滅私のボランティア精神」という言葉が思い出される。




結婚は2年契約にすればいい


 会計を済ませて席に戻ると、谷口さんは笑顔で「僕がおごるから」と2軒目に連れて行ってくれた。感じのいいバーだ。行きつけにしているという。酔いの回った谷口さんは、また話し始めた。

「十中八九、子供たちの親権は取れないし、再々婚も無理だと思います。これで離婚が成立すれば、バツが2つもついた、養育費を毎月がっぽり払い続けている50前のおじさんですからね、僕は」

「結婚って、なんなんでしょうねえ」と言いながら、グラスをじっと見つめる谷口さん。

「結婚は更新制の2年契約にすればいいと思うんですよ。次の2年も夫婦でいたいなら、継続する。そうでなければ終わり。惰性の自動更新はなし。……そうだ、これは夢なんですけどね」

 谷口さんは顔を上げ、視線を斜め上に向けた。

「60歳を過ぎて、子供はいないけど子供は育てたい、比較的財力のある男がいたとします。そういう男が、同じ気持ちの別の男と共同でね、やむを得ない事情で親が育てられなかった子供を引き取って、ふたりで育てればいいと思うんですよ。恋愛感情でつながった同性カップルということではなく。子育てを目的に組まれた、共同事業のパートナーというイメージです」

 その男とは、谷口さんの10数年後の姿なのか。

「親の役割を担うのは、異性同士でも同性同士でも、1人でも2人でも3人でもいいと思うんです。経済的にも、時間的にも、精神的にも、育てられる余裕のある人が育てればいい」

 いいじゃないですか、と相槌を打った。

「育ての親を選べなかったかわいそうな子供たちが、世の中にはたくさんいるんですよ。私の娘たち、そして葉月も、そのひとりです」

<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。
【WEB】inadatoyoshi.com




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