8月28日、記者会見にて安倍総理が辞意を表明。持病である「潰瘍性大腸炎」悪化を理由に任期半ばでの辞任を国民に伝えました。
会見によれば、総理は「6月の定期健診で再発の兆候が見られると指摘を受けた。その後も薬を使いながら全力で職務にあたってきたが、先月中頃から体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となった」と説明。10代前半から患ってきた持病の深刻な悪化について語りました。
安倍総理が長年にわたって持病とする「潰瘍性大腸炎」とは一体どのような病気なのでしょうか。現在も懸命に治療を続けている男性に話を聞きました。
※潰瘍性大腸炎の症状、治療法等については個人差があります。
<医療監修/一石英一郎医師、国際医療福祉大学病院(消化器内科)/予防医学センター教授(医学博士)。著書に『日本人の遺伝子 ヒトゲノム計画からエピジェネティクスまで』他>
国内患者数は約17万人。発症年齢のピークは20代の難病
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にある内側の層にびらんや潰瘍ができる炎症性疾患。下血を伴う、または伴わない下痢や腹痛が特徴的な症状です。直腸から連続的かつ上行性に病変が広がる性質を持ち、最大で直腸から結腸全体の広範囲に広がります。
発症年齢のピークは男性が20~24歳、女性では25~29歳。若年での発症が多いですが、小児や高齢者で発症する場合もみられます。発症原因についてはいまだ明らかになっていませんが、遺伝因子・食生活などの環境因子・ストレスなどの心理学的因子などによる影響が考えられており、非喫煙者は喫煙者よりも発症しにくいと言われています。
突然、便器が真っ赤に染まるほどの血便が……
大手金融機関に勤める西原さん(仮名・25歳)が異変に気付いたのは、3年前。就活や卒業論文の制作に追われながらも、最後の学生生活を謳歌していた大学4年生の頃でした。
食事のあと軽い腹痛を感じるようになり、食事とトイレがセットのような日々に。最初は1日1回だった腹痛は次第に4回5回と回数を増し、普通の便ではなく下痢も混じるようになったといいます。
「当時は飲み会も多い時期だったので、『お酒の飲みすぎでおなかを下してしまったんだ』と思い、気にも留めていませんでした。ひどい痔に苦しむときもありましたが、だれにでもある症状なので、まさか自分が病気になるなんて考えていなかったですね」
しかし、飲み会の回数を減らしても症状はひどくなるばかり。食事量を増やしても体重は減少していき、西原さんの体重は1年間で75kgから60kgにまで落ちてしまったのです。また、この頃には便器を真っ赤に染める血便が定期的に出るようになっていました。
金融機関に入社した西原さんは、腹痛に耐えながらも慣れない業務や研修に励んでいました。しかし、入社して3ヶ月目に予期せぬ事態が……。
ナイフで内臓を切られるような痛み。夜間救急にかけこんだ社会人1年目
「これまでにない強い痛みに突然襲われました。言い表すならば、カッターナイフでおなかの中を刺されているような感覚。皮膚を切り裂くようなギリギリとした痛みが止まらず、夜間救急病院にかけこみました。呼吸もできなくなるような鋭い痛みで、このときに初めて『もしかしたら大変な病気なのかも』と不安がよぎりましたね」
経験したことのない痛みに苦しむ西原さんに、医師は潰瘍性大腸炎の可能性を説明。潰瘍性大腸炎を確定診断するために必要となる①血性下痢を引き起こす感染症との区別②X線、内視鏡検査③大腸粘膜採取などを実施し、慎重に病理診断を進めていったのです。
「確定診断のための検査は本当に辛かったですね。2Lの下剤を飲んで便をすべて出し切ったあとにカメラを入れて大腸カメラを、1週間後には胃を空っぽにした状態で胃カメラをしました。その期間は仕事を休まなければならなかったので、それに対する焦りもあって……。『どうか違っていてくれ』と心底願っていました」
けれども、西原さんの願いはかなわず、救急病院にかかった数週間後に潰瘍性大腸炎であると正式に診断が下りました。飲み薬やステロイド剤の効果も乏しく、入院したその日から腸の炎症を抑えるため、生物学的製剤ヒュミラ薬の注射が始まったのです。
「ハズレくじ引いたなぁ…」現実を直視できず、ふさぎ込んだ日々
炎症がある程度収まった西原さんは職場に復帰。しかし、前と同じようなモチベーションで仕事と向き合えなくなっていたと語ります。
「最初の頃は若くして大きな病気にかかった自分を受け入れられなくて、“ハズレくじ引いたなぁ”と悲観していました。鬱のような症状も出て、今後の自分の人生を考えては不安になる日々でしたね。
薬でコントロールして生活できている人も多いですが、当時は小腸・大腸の切除手術や人工肛門など、重い症状についてばかり調べていました。『仕事中におなかが痛くなったらどうしよう』という不安もあり、ごはんもきちんと食べられていませんでした」
「何十年も付き合う病気なので、自分のペースで頑張っていきたい」

暗い日々を送るなか、担当医師や同じ症状を持つ患者から話を聞き、少しずつ自分の病気と向き合えるようになった西原さん。現在社会人3年目を迎え、薬の服用や食事コントロールを続けながら金融マンとして日々業務に励んでいます。
主食となるのは、炭水化物とエレンタール®配合内用剤。後者は消化をほとんど必要としない成分から作られた吸収の良い栄養剤で、フルーツトマト・青リンゴ・ヨーグルトなど10種類のフレーバーが展開されています。置き換えダイエットドリンクのような感覚で、昼食や夕食に取り入れているのだそう。
「100%痛みをコントロールできるわけでないですが、エレンタールを飲むことで安心感は得られます。普通の人と同じ食事をとることはできませんが、痛みの出ない範囲で週3~4食は美味しい食事も楽しめています。何十年も付き合う病気なので、自分のペースで頑張っていきたいです」
年々増加の一途をたどる潰瘍性大腸炎患者。仕事や学業に励む若い世代に発症しやすいこともあり、身体的負担はもちろん精神的負担も大きい難病です。
また、自己免疫抑制剤を服用している患者の中には新型コロナウイルス感染や重症化を不安視する人も多いのだそう。
今回の安倍総理の辞意表明をきっかけに、同疾病はもちろんさまざまな病気と向き合い、闘う人々への理解の深まりが期待されます。
【参考】
『薬がみえるvol.3』(医療情報科学研究所)
『大腸がん・潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群(よくわかる最新医学)』(佐原力三郎他)
公益財団法人 難病医学研究財団 難病情報センター/潰瘍性大腸炎(指定難病97)
<取材・文/山本杏奈>
(エディタ(Editor):dutyadmin)

